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知っておきたい金融商品知識 第78回 ~地球温暖化対策について-省エネ法、温対法、GX推進法(8)温対法~
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地球温暖化対策について-省エネ法、温対法、GX推進法(8)
温対法

近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。本連載ではこれらをできるだけ整理しつつ、日本の企業としてどのように対処すべきかを考察している。
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言した。これは、2015年のCOP21で採択されたパリ協定で「2020年以降の世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く、1.5度に抑えるよう努力すること」が決議され、各締約国はこの努力目標に向けて2030年までに自国の温室効果ガス排出量を削減する目標を設定し、それに基づいて具体的な行動を取ることが求められたことを受けたものだ(本連載第58回参照)。わが国ではこの目標を達成するのに必要な施策を講じるため、主に省エネ法、温対法、GX推進法の3つの法律が制定・改正され、前回まで省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)を概観した。
今回は、1998年制定(2024年改正)された温室効果ガス排出削減の目標設定や削減義務を定める「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)について概観したい。
なお、具体的な検討や適用にあたっては、当該分野に習熟した弁護士等の専門家と相談する必要がある。参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい(項番は前回に続けます)。

6.省エネ法、温対法、GX推進法

(3)温対法

イ.概要
温対法(地球温暖化対策推進法、正式には地球温暖化対策の推進に関する法律)は、1997年のCOP3・京都議定書の「2008年から2012年の第1約束期間に日本が温室効果ガス排出量を1990年比で6%削減する」という義務を履行するために日本の地球温暖化対策の枠組みを定めたものであった(1998年制定)。
その後、政府及び国内の法人が京都メカニズムクレジット(京都議定書に基づき、先進国が他国(主に途上国)で温室効果ガスの排出削減・吸収プロジェクトを実施し、得られた削減分をクレジットとして自国の削減目標達成に利用する国連主導の仕組み)に関する事項や温室効果ガスの排出をする事業者(特定排出者)が事業所等ごとに温室効果ガス排出量の報告義務等を定めるなどの改正が重ねられ、2008年から2012年の第1約束期間における平均排出量を京都メカニズムクレジット実施分と合わせて8.4%減少させている。
そして、2024年に二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism; JCM)の導入により排出削減実施体制が効率化された。従前の京都メカニズムクレジット(クリーン開発メカニズム、Clean Development Mechanism; CDM)が多国による理事会での管理調整が必要なことに対して、JCMは当事者の2カ国で管理できるので、より調整しやすく、コストも少なくてすむほか、種々の手続きも簡素化され、日本のNDC(Nationally Determined Contribution)にも貢献するものと考えられている。NDCはパリ協定で定められた温室効果ガス排出と除去量を均衡させる各国の取り組みで、2015年に日本は2030年度に排出量を2013年度に比べ26%削減する目標(2021年には2030年度目標を46%削減に引き上げ)を掲げている。

ロ.企業における報告義務等
政府は、温室効果ガス排出抑制のための政策を策定し、その効果をチェックするため、本制度対象とする各事業者が自らの活動により排出する温室効果ガスの量を算定・把握し、報告することを求めている。算定された排出量は、国が集計・公表している(この「算定・報告・公表制度」は SHK制度と呼ばれる)。
 
a.対象となる温室効果ガスと対象事業者
以下の表の通り。SHK制度の対象となる温室効果ガスのうちエネルギー起源のCO2(燃料の使用又は他人から供給された電気もしくは熱の使用に伴い排出されるCO2)は、本温対法の集計単位・ツール(原油換算)が共通化できる省エネ法と一体運用するため、省エネ法と同じ枠組みが用いられている。なお、非エネルギー起源CO2とメタン等(5.5ガス)の温室効果ガスは合わせて6.5ガスと称される。これらは燃料・電気のように「原油換算」で一元管理されておらず、省エネ法の既存枠組みにも乗っていないためこのようなガス種ごとにCO2換算トンで直接閾値を置く方式が採用されている。

エネルギー起源CO2 特定事業所排出者
以下の全ての事業所のエネルギー使用量合計が原油換算1,500kl/年以上の事業者
・省エネ法による特定事業者
・省エネ法による特定連鎖化事業者
・省エネ法による認定管理統括事業者又は管理関係事業者のいずれかであって、かつ全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上の事業者
・上記(省エネ法対象)以外の事業者であって、かつ全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上の事業者
特定輸送排出者
・省エネ法による特定貨物輸送事業者
・省エネ法による特定旅客輸送事業者
・省エネ法による特定航空輸送事業者
・省エネ法による特定荷主
・省エネ法による認定管理統括荷主又は管理関係荷主のいずれかであって、かつ貨物輸送事業者に輸送させる貨物輸送量が3,000万トンキロ/年以上の荷主
・省エネ法による認定管理統括貨客輸送事業者又は管理関係貨客輸送事業者のいずれかであって、かつ輸送能力の合計が300両以上の貨客輸送事業者
非エネルギー起源CO2、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFC)、パーフルオロカーボン類(PFC)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3) 特定事業所排出者
次の2つの要件両方を満たす事業者
・温室効果ガスの種類ごとに定める当該温室効果ガスの排出を伴う活動(排出活動)が行われ、かつ当該排出活動に伴う排出量の合計量が当該温室効果ガスの種類ごとにCO2換算で3,000トン以上
・事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上

(環境省ホームページ「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」より筆者作成)

特定排出者から報告のあった令和4(2022)年度の温室効果ガス排出量については、以下の通り集計されている(経産省ホームページ)。
特定事業所排出者 12,044事業者(排出量合計 5億5,951万tCO2)
(cf.令和7年省エネ法特定事業者等報告数は11,872)
特定輸送排出者   1,335事業者(排出量合計 2,695万tCO2)
 (cf.令和7年省エネ法特定輸送事業者数は568、特定荷主数は736)
 
なお、特定事業所排出者から排出された温室効果ガスのうち 2,901万tCO2(5.18%)が、国内認証排出削減量等の無効化量、廃棄物の原燃料使用に伴う排出量等として控除等されたとしている。

b.排出量算定方法
事業者が抽出した活動ごとに政省令で定められている算定方法・排出係数を用いて排出量およびCO₂換算値を算定する(環境省ホームページ「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度/マニュアル・様式」)。そして、エネルギー起源CO₂については、省エネ法の定期報告書で「燃料の使用に伴うエネルギー起源CO2(直接排出)」と「他人から供給された電気及び熱の使用に伴うエネルギー起源CO2(間接排出)」に区分(令和6年度実績より)して報告することが求められている。それ以外の温室効果ガスについては、温対法の温室効果ガス算定排出量等の報告書により報告される。
・温室効果ガス排出量 = 活動量 × 排出係数
 活動量:生産量、使用量、焼却量など排出活動の規模を表す指標
 排出係数:活動量当たりの排出量(非化石証書やグリーン電力・熱証書及び再エネ電力・熱由来のJ-クレジットを反映)
・温室効果ガス排出量(tCO₂)
 =温室効果ガス排出量(tガス) × 地球温暖化係数(GWP)
 GWP(Global Warming Potential):温室効果ガスごとの地球温暖化をもたらす程度のCO2との比

(参考文献)
「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度」(環境省ホームページ)
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/about.html
「温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度/マニュアル・様式」(環境省ホームページ)
https://policies.env.go.jp/earth/ghg-santeikohyo/manual.html
「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度に基づく令和4(2022)年度温室効果ガス排出量を集計しました」(経済産業省ホームページ)
https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250401003/20250401003.html

◇客員フェロー 福島良治

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