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知っておきたい金融商品知識 第6回 ~時価算定におけるインプットと第三者価格~
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時価算定におけるインプットと第三者価格

今回は、金融商品、とくにデリバティブ取引の時価の算定方法における「インプット」と第三者から入手した相場価格の利用について、時価算定会計基準および適用指針等に沿って見ていきたい。
(各会計基準や適用指針等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談ください。)

1.インプット

時価の算定には、市場で観察できるデータが必要だが、時価算定会計基準では時価を算定する際に用いる仮定といい、これを「インプット」と呼んでいる(同基準4項(5))。インプットは、以下のように3つのレベルに分類される。そして、この順に優先的に使用することとされている(同基準11項)。時価の算定に重要な影響を与える、異なるレベルの複数のインプットがある場合は、優先順位が最も低いレベルに当該時価を分類することになる。これら分類は財務諸表の注記で開示することが求められている(金融商品会計基準40-2項、時価開示適用指針5-2項)。

<レベル1>
時価の算定日において入手できる活発な市場における相場価格であり、調整されていないものをいう。たとえば、取引所に上場されている株式価格の終値などである。当該価格を調整して用いる場合は、レベル2または3に分類される。
<レベル2>
直接または間接的に観察可能なインプットのうち、レベル1 のインプット以外のインプットをいう。たとえば、スワップレートを含む市場で観察される金利や為替レートなどのインデックスや市場で観察されるオプション取引から推定されるインプライド・ボラティリティである。取引期間に該当する市場インデックスの間隔に漏れ*があったり、ヒストリカル・ボラティリティは次のレベル3に該当する。
*時価算定適用指針37項では「金利スワップの期間が10 年であり、9 年目までのスワップレートは一般的に公表されている間隔で観察可能であるが、10 年目のスワップレートについてはイールド・カーブから合理的に推定することにより算出している場合」が例示されているがわかりにくい。たぶん、10年までのレートが公表されているのに12年物の取引価格を算出する場合のようなものをいうのであろう。)
<レベル3>
市場では観察できないインプットをいう。当該インプットは、関連性のある観察可能なインプットが入手できない場合に用いる。

なお、市場で通常の日次取引高では売却できないほどの大量の金融商品を保有している場合であっても、一度に売却する際に生じる価格の低下の調整を行わなくてもよい(時価算定適用指針7項)。また、時価は出口価格ではある(時価算定基準31項)が、買気配および売気配がある場合、状況を考慮して、仲値等の買気配と売気配の間の適切な価格をインプットとして用いてよいとされる(時価算定適用指針9項)。
どのインプットを用いるかは取引にも重要な影響をもたらすが、時価開示実務においても大きな影響がある。すなわち、時価のレベルごとの残高、時価算定の評価技法、インプットの説明、レベル3に分類される金融商品に関してはさらに観察できない重要なインプットの定量情報、評価プロセス、時価変動への影響、期首残高から期末残高への調整表(この部分は適用初年度の省略可)などを注記しなければならない(時価開示適用指針)。

2.第三者から入手した相場価格の利用

時価算定会計基準および適用指針では、金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、その価格を時価の算定に用いることができることとされている(時価算定適用指針18項)。さらに、金融業(銀行、保険会社、証券会社、ノンバンク等)以外の企業や企業グループにおいては、わが国の実務状況を検討した結果、時価の算定の不確実性が相当程度低いと判断される特定のデリバティブ取引について、第三者から提供された価格を時価とみなすことができる(時価算定適用指針24項)。この部分はIFRS13号にはない日本独自の項目であるが、その主旨から外れないような適用が求められている。
ここでは、金融業と表現したが、時価算定適用指針では、「総資産の大部分を金融資産が占め、かつ総負債の大部分を金融負債及び保険契約から生じる負債が占める企業集団又は企業」と定義され(24項)、銀行、保険会社、証券会社、ノンバンク等が例示されている(49項)。

(a)原則的要件
金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格を時価算定に用いることができるのは、それが会計基準に従って算定されたものであると判断する場合であるが、その判断にあたっては、以下のような検討手続きが例示されている(時価算定適用指針43項)。
① 当該第三者から入手した価格と企業が計算した推定値とを比較。
② 他の第三者から会計基準に従って算定がなされていると期待される価格を入手できる場合、それらを比較。
③ 当該第三者が時価を算定する過程で、会計基準に従った算定がされているか(算定日の市場の状況を表しているか、観察可能なものが優先しているか、評価技法がそのインプットを十分に利用できるものか)確認。
④ 会計基準に従って算定されている類似銘柄の価格と比較。
⑤ 過去に確認した当該金融商品の価格の時系列推移の分析など。

(b)一般事業法人のデリバティブ取引に関する例外要件
インプットが取引の全期間にわたって一般に公表されており観察可能な金利スワップ(いわゆるプレイン・バニラ・スワップ)、為替予約、通貨スワップのみについて、金融業以外の一般事業法人等は、第三者から入手した相場価格が以下の要件を備えた場合は、それを時価算定に用いることができる(時価算定適用指針24項)。この背景には、このようなプレーンなデリバティブ取引は、一般事業法人にとってヘッジ取引における金利スワップの特例処理や為替予約と通貨スワップの振替処理として用いられることが多いためと思われる。
① 第三者が客観的に信頼性のある者で企業等から独立した者(取引先金融機関も含まれる)
② 公表されているインプットの契約時からの推移と当該相場価格との間に明らかな不整合はないと認められる
③ レベル2の時価に属すると判断される場合
なお、オプションを含むような取引については、利用されるボラティリティの種類によってはレベル3の時価に分類されると考えられるため、対象外とされている。
一般事業法人がプレーンな金利スワップ、為替予約、通貨スワップについては、無条件に金融機関から入手できる相場価格(時価)を用いることができるが、それ以外のデリバティブ取引については、上記(a)の各手続きを行うことにならざるをえない。
ただし、企業の残高等に応じて重要性の観点から簡便な方法が認められると理解できるし(「時価の算定に関する会計基準(案)」等に対するコメント34項 https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2019/2019-0118/comment.html)、②の「明らかに不整合な場合」か否かという判断も、例えば公表されているインプットの推移に対して、入手した相場価格が逆の方向に動いている場合などを想定しており、判断の際に困難を伴うものではないと考えられる(同コメント35項)。また、(a)③(当該第三者が時価を算定する過程で、会計基準に従った算定を行っていること)を照会することで対応する、すなわち実質的には金融機関から入手できる相場価格(時価)を用いることができるのではないかと思われる。特に銀行は、金融当局の監督、バーゼル銀行自己資本比率規制、監査法人による監査などの下で厳格な時価評価と管理を行っているからだ。
したがって、金融機関からの月次のデリバティブ取引の時価評価通知サービスがある場合は、一般事業法人は公認会計士と相談の上、その内容についてそのまま利用してもよいものと思われる。

(c)事例:金利スワップの当初認識時の時価
時価算定適用指針[設例2]では、契約当初における当初の資金授受のない金利スワップ取引については、一般事業法人は取引当初の価格、すなわち時価をゼロと算定してよいとされている。
一般事業法人にとっては、インターバンクなどのディーラー間市場ではなく、金融機関との相対取引(リテール市場)が当該金利スワップの主要な市場となり、当該金利スワップの移転により受け取るかまたは支払う価格、すなわち「出口価格」(時価算定基準31項)は現取引と同じになるからである。

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第7回 ~ヘッジ会計処理の例(金利スワップ取引)~