知っておきたい金融商品知識 第7回 ~ヘッジ会計処理の例(金利スワップ取引)~
- 知っておきたい金融商品知識
- 金融商品コラム
- ファイナンス・法務・会計・レギュレーション
ヘッジ会計処理の例(金利スワップ取引)
企業が行うデリバティブ取引の多くはヘッジを目的としたものである。デリバティブ取引は時価評価により損益を認識することが原則となるが、ヘッジ対象のなかには相場変動等が損益に反映されないものが多いため(たとえばローン)、そのままではヘッジ対象とヘッジ手段における損益の認識時期の不一致が生じる。ヘッジ会計は、こうした問題を解消し、ヘッジ取引の経済的実態を財務諸表に反映させるための処理方法である。
ヘッジ取引であるデリバティブ取引のうち一定の要件を満たすものについて、原則として繰延ヘッジ(時価評価されているヘッジ手段のデリバティブ取引に係る損益または評価差額をヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法)を行う。すなわち時価評価額は貸借対照表上認識されるが、ヘッジ関係が継続する限り、その評価差額は純損益として認識されない(ただし、税効果会計を適用。連結財務諸表では「その他包括利益」として認識)。
今回は、イメージを直接把握するため、いきなりで恐縮だが、デリバティブ取引のなかでも圧倒的に取引が多く、わかりやすい金利スワップ取引の時価会計とヘッジ会計の計理処理を例示したい。
(各会計基準や適用指針等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)
1.時価会計のケース
(前提)取引時点X0年の時価はゼロ
決算期日等の時価:X1年3月31日の時価=1,000万円
X2年3月31日の時価=1,300万円
① 決算日(X1年3月31日)
金利スワップ資産 1,000万円/金利スワップ評価益 1,000万円
PL(損益計算書)
金利スワップ評価益 1,000万円
BS(貸借対照表)
金利スワップ資産 1,000万円/利益剰余金 1,000万円
(時価会計のため未収・未払利息は計上しない。時価に織り込まれている。)
② 期首(X1年4月1日)振戻し処理(決算日に時価評価を行い、翌期首で取得原価への振戻処理を行なう洗替方式のこと)
金利スワップ評価益 1,000万円/金利スワップ資産 1,000万円
③ 利払日(X1年M月D日)金利スワップの受払ネット金額(例)
支払利息 200万円/現金 200万円
④ 決算日(X2年3月31日)
金利スワップ資産 1,300万円/金利スワップ評価益 1,300万円
PL(スワップの時価増減額(1,300万円-1,000万円)を計上)
金利スワップ評価益 300万円
支払利息 -200万円
BS
金利スワップ資産 1,300万円/利益剰余金 1,100万円
現金 -200万円
⑤ 期首(X2年4月1日)振戻し処理
金利スワップ評価益 1,300万円/金利スワップ資産 1,300万円
2.ヘッジ会計のケース
(前提)借入ローンと金利スワップ取引がヘッジ関係にある。X0年に取引開始。
法人税率40%。
決算期日等の時価:X1年3月31日の時価=1,000万円
X2年3月31日の時価=1,300万円
① 決算日(X1年3月31日)
PL
(連結財務諸表では、その他包括利益(繰延ヘッジ損益)に600万円を計上)
BS
金利スワップ資産 1,000万円/(純資産の部)
繰延ヘッジ損益 600万円
繰延税金負債 400万円
② 期首(X1年4月1日)振戻し処理
繰延ヘッジ損益 600万円/金利スワップ資産 1,000万円
繰延税金負債 400万円
③ 利払日(X1年M月D日)金利スワップの受払ネット金額(例:ローン支払金利は別途計上)
支払利息 200万円/現金 200万円
④ 決算日(X2年3月31日)
金利資産 1,300万円/繰延ヘッジ損益 780万円
繰延税金負債 520万円
PL
支払利息 -200万円
(連結財務諸表では、その他包括利益(繰延ヘッジ損益)に180万円を計上)
BS
金利スワップ資産 1,300万円/繰延ヘッジ損益 780万円
現金 -200万円 繰延税金負債 520万円
利益剰余金 -200万円
⑤ 期首(X2年4月1日)振戻し処理
繰延ヘッジ損益 780万円/金利スワップ資産 1,300万円
繰延税金負債 520万円
3.金利スワップの特例処理のケース
期中受払利息および未収未払利息を計上する必要があるが、時価の計上は不要である(ただし、財務諸表注記における開示は必要)。
◇客員フェロー 福島良治