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知っておきたい金融商品知識 第68回 ~地球温暖化対策について-ISSBとSSBJ(3)~
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地球温暖化対策について-ISSBとSSBJ(3)

近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準、これらに関する数多く用語があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。本連載ではこれらをできるだけ整理しつつ、日本の企業としてどのように対処すべきかを考察していきたい。
本連載では現在、IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と日本のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の概要について見ている(本稿では、ISSB基準SSBJ基準の記述が紛らわしいので、便宜上、ISSB基準を国際基準、SSBJ基準を日本基準と呼ぶ)。
なお、具体的な検討や適用にあたっては、当該分野に習熟した監査法人等と相談する必要がある。本稿では、この分野でよく見かける用語やテーマなどには下線を付す。また、参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい(項番は前回に続けます)。

5.ISSB基準とSSBJ基準

(5)国際基準IFRS S2号気候基準と日本基準テーマ別基準第2号気候関連開示基準

イ.総論
国際基準のIFRS S2号及び日本基準テーマ別基準第2号気候関連開示基準は、投資家等の利用者が企業への投資に関する意思決定を行うにあたり有用な、当該企業の気候関連のリスク及び機会に関する情報の開示について定めるものだ(目的)。当該企業に関する気候関連のリスク(物理的リスク及び移行リスク)及び機会を対象とする(範囲)。物理的リスク及び移行リスクは、TCFD提言(本連載第63回参照)でも記述されている通り、物理的リスクは「気候変動からもたらされるリスクで、事象を契機とすることがあるもの(急性の物理的リスク)又は気候パターンの長期的な変化によるもの(慢性の物理的リスク)」をいい、移行リスクは「低炭素経済に移行する取組みから生じるリスク(政策、法律・税制、技術、市場及び風評リスクなど)」をいうものとされる。急性の物理的リスクは、台風や洪水などの異常気象事象の激化などであり、慢性の物理的リスクは、海面上昇や長期的な熱波の原因となりうる気候パターン(長期的高温など)の長期的なシフトをいう。
コア・コンテンツとして、TCFD提言を踏まえ、気候関連のリスク及び機会に関して、ガバナンス、戦略(シナリオ分析に基づく気候レジリエンスの評価を含む)、リスク管理、並びに指標及び目標に関する開示内容となっている。
なお、国際基準では「IFRS S1(全般的要求事項)」を、日本基準では「ユニバーサル基準適用基準(全般的要求事項)」を基本事項として従うことになる(本連載第66回参照。下表構成図の通りのとおり)。

〇 ISSB基準(国際基準)

IFRS S1(全般的要求事項)
  概念的基礎
  全般的要求事項
  判断、不確実性および誤謬
  テーマ別基準
(気候関連以外で、テーマ基準が個別にない場合に適用)
 IFRS S2
(気候関連)
    目的 目的
    範囲 範囲
    コア・コンテンツ
<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>
コア・コンテンツ
<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>

〇 SSBJ基準(日本基準)

ユニバーサル基準
適用基準(全般的要求事項)
  IFRS S1における概念的基礎、全般的要求事項、判断・不確実性および誤謬等に相当し、企業がサステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する基本事項を示すもの
テーマ別基準
 第1号 一般開示基準
(気候基準等の個別テーマ基準がない場合に適用)
第2号 気候関連開示基準

  IFRS S1/テーマ別基準に相当し、コア・コンテンツ<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>等の開示について定めるもの  IFRS S2に相当し、気候関連開示のコア・コンテンツ<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>等の開示について定めるもの

ロ.コア・コンテンツの概要
気候関連のリスクおよび機会に関して投資家等の利用者に開示すべき内容が、コア・コンテンツである。やはり、TCFD提言の「ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標」という4項目からなる構造が適用されている。なお、諸項目の開示に関しては、IFRSS1号や日本基準適用基準または一般開示基準との不必要な繰り返しを回避して、記述を統合するように促されている。

a.ガバナンス、b.戦略、c.リスク管理
これらの項目は、IFRSS1号テーマ別基準や日本基準一般開示基準におけるサステナビリティ関連のガバナンス、戦略およびリスク管理に関するもの(本連載第67回参照)を気候関連に特定した情報に置き換えて、開示するものである。
d.指標および目標
総論的には、やはり、IFRSS1号テーマ別基準や日本基準一般開示基準におけるサステナビリティ関連の指標および目標に関するものを気候関連に特定した指標および目標に置き換えて、開示するものとはいえる。しかし、気候関連基準として現状では唯一具体的なテーマ別基準とされているだけのことはあり、以下のカテゴリーに分けられた詳細な指標の開示が求められている。
・産業横断的指標カテゴリー
 スコープ1スコープ2スコープ3の温室効果ガス排出、移行リスク、物理的リスク、機会、資本投下、内部炭素価格、報酬
・産業別指標
 産業への参加の特徴に関連する指標。日本基準では、国際基準の求める「産業別ガイダンス」は適用義務ではないが、その適用可能性を考慮しなければならないとされる。
・気候関連の目標
 企業自身が設定した目標、法令により要求される目標

これらの内容については、次回、項目を改めて見ていきたい。

(参考文献)
「IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」IFRS S2号「気候関連開示」」
(サステナビリティ基準員会ホームページ)
https://www.ssb-j.jp/jp/activity/standard/y2023/2023-0626.html
https://www.ifrs.org/content/dam/ifrs/publications/pdf-standards-issb/japanese/2023/issued/part-a/ja-issb-2023-a-ifrs-s2-climate-related-disclosures.pdf?bypass=on
「サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準を公表」(サステナビリティ基準員会ホームページ)
https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html

◇客員フェロー 福島良治

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