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知っておきたい金融商品知識 第67回 ~地球温暖化対策について-ISSBとSSBJ(2)~
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地球温暖化対策について-ISSBとSSBJ(2)

近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準、これらに関する数多く用語があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。本連載ではこれらをできるだけ整理しつつ、日本の企業としてどのように対処すべきかを考察している。
前回から、IFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と日本のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の概要について見ている(本稿では、ISSB基準SSBJ基準の記述が紛らわしいので、便宜上、ISSB基準を国際基準、SSBJ基準を日本基準と呼ぶこととする)。
なお、具体的な検討や適用にあたっては、当該分野に習熟した監査法人等と相談する必要がある。本稿では、この分野でよく見かける用語やテーマなどには下線を付す。また、参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい(項番は前回に続けます)。

5.ISSB基準とSSBJ基準

(4)国際基準IFRS S1号テーマ別基準と日本基準テーマ別基準第1号一般開示基準

イ.総論
国際基準のIFRS S1号は、開⽰に関する基本的な事項を定めた部分と(IFRS S2号(気候テーマ)のようなテーマ別基準がない場合に)サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開⽰すべき事項(コア・コンテンツ)を定めた部分とで構成されている。日本基準では後者について、すなわちIFRS S2号に相当する「第2号 気候関連開示基準」以外のテーマ別基準に関して「第1号 一般開示基準」が規定される。(なお、国際基準および日本基準の大項目の概要は下表の通り。国際基準と日本基準はほぼ同じ構成になっている。)

〇 ISSB基準(国際基準)

IFRS S1(全般的要求事項)
  概念的基礎
  全般的要求事項
  判断、不確実性および誤謬
  テーマ別基準
(気候関連以外で、テーマ基準が個別にない場合に適用)
 IFRS S2
(気候関連)
    目的 目的
    範囲 範囲
    コア・コンテンツ
<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>
コア・コンテンツ
<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>

〇 SSBJ基準(日本基準)

ユニバーサル基準
適用基準(全般的要求事項)
  IFRS S1における概念的基礎、全般的要求事項、判断・不確実性および誤謬等に相当し、企業がサステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する基本事項を示すもの
テーマ別基準
 第1号 一般開示基準
(気候基準等の個別テーマ基準がない場合に適用)
第2号 気候関連開示基準

  IFRS S1/テーマ別基準に相当し、コア・コンテンツ<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>等の開示について定めるもの  IFRS S2に相当し、気候関連開示のコア・コンテンツ<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>等の開示について定めるもの

表中のIFRS S1号テーマ別基準「⽬的」については、一般目的財務報告書の主要な利用者(投資家等)が企業への資源の提供に関する意思決定を⾏うにあたり有⽤な、当該企業のサステナビリティ関連のリスクおよび機会に関する情報を開⽰することとされる。対象「範囲」についても本国際基準に従い報告すればよく、当該企業の一般目的財務報告書がどういった会計基準(GAAP)に準拠して作成されているかを問わないとされている。これらは、日本基準においても同様の表現となっている。

ロ.コア・コンテンツ
サステナビリティ関連のリスクおよび機会に関して投資家等の利用者に開示すべき内容が、コア・コンテンツである。国際基準のIFRS S1号テーマ別基準とIFRS S2号気候関連の各コア・コンテンツ、そして日本基準の第1号一般開示基準と第2号気候関連開示基準の各コア・コンテンツは同じ構成になっている。ここでは、気候関連に特有なものでないコア・コンテンツ全般について述べていきたいが、現状では気候関連以外の人的資本や生物多様性に関する定め等に関連する場合に適用することになるだろう。したがって、IFRS S2号気候関連および日本基準の第2号気候関連開示基準に則って開示する企業は、それを参考にして気候関連でないテーマについて記述開示することになるだろう。

a.ガバナンス
この項目は、サステナビリティ関連のリスク及び機会の監督に責任を負う「ガバナンス機関」(取締役会、監査役会、委員会など)⼜は個⼈(たとえば、最高サステナビリティ責任者(CSO)など)に関する情報を開示し、サステナビリティ関連のリスク及び機会をモニタリングし、管理し、監督するために⽤いるガバナンスのプロセス、統制及び⼿続における経営者の役割に関する情報を開示するもの。
b.戦略
投資家等の利⽤者が、サステナビリティ関連のリスク及び機会を管理する企業の戦略を理解できるようにするために以下の事項を開示するもの。
・企業の⾒通しに影響を与えることが合理的に⾒込まれるサステナビリティ関連のリスク及び機会
・ 上記リスク及び機会が企業のビジネス・モデル及びバリュー・チェーンに与える影響
・リスク及び機会が企業の戦略及び意思決定に与える影響
・リスク及び機会の財務的影響
・ サステナビリティ関連のリスクに関連する企業の戦略及びビジネス・モデルのレジリエンス(サステナビリティ関連のリスクから生じる不確実性に対応する企業の能力)
なお、バリュー・チェーンは、国際基準及び日本基準で「報告企業のビジネス・モデル及び当該企業が事業を営む外部環境に関連する、相互作⽤、リソース及び関係の全範囲」とされるが、製品又はサービスの構想から消費及び終了まで、企業が利用し依存する資源、チャネル、外部環境など、企業活動すべてにわたるものになる。したがって、自社のサステナビリティ関連のリスク及び機会のそれぞれに関連してバリュー・チェーンの範囲を決定する必要があり、「合理的で裏付け可能な情報」を用いることと定められている。「合理的で裏付け可能な情報」ということであり、不確実性が高いものや当該企業が定量的情報を提供するスキル、能⼒⼜はリソースを有していない場合などでは、情報提供は不要となる。
c.リスク管理
投資家等の利⽤者が、当該企業におけるサステナビリティ関連のリスク・プロファイル及びリスク及び機会を識別・評価・優先順位付け・モニタリングするために⽤いるプロセスや関連する⽅針、これらと総合的なリスク管理プロセスとの統合を開示するもの。
d.指標および目標
投資家等の利⽤者が、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関連する企業のパフォーマンスを理解できるようにするためにリスク⼜は機会およびこれらに関連する企業のパフォーマンスに関して当該企業が用いる指標および目標、そして法令に求められる目標を開示するもの。
国際基準のIFRS S1号では、適⽤される基準がないリスク及び機会に関する指標としてSASBスタンダード(本連載第64回参照)の指標を参照することを必須とし、その他のガイダンスの情報源の指標(例︓CDSBフレームワーク適⽤ガイダンス、GRI基準。本連載第64・65回参照)の参照を容認することになっている。
SASBスタンダードは、地球温暖化対策に限らないが、11セクター77業種毎に企業の財務活動に影響を与える可能性が高いサステナビリティ課題を特定するもので、企業のサステナビリティを分析する視点として5つの局面(Dimension)とそれに関係する26の課題カテゴリー(General Issue Category)を設定し、この課題カテゴリーに紐づく開示項目が示されている。
一方、日本基準では、法令に定めがある場合を除いて企業に特定の目標を設定することを要求していない。

(参考文献)
「IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」IFRS S2号「気候関連開示」」
(サステナビリティ基準員会ホームページ)
https://www.ssb-j.jp/jp/activity/standard/y2023/2023-0626.html
「サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準を公表」
(サステナビリティ基準員会ホームページ)
https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html

◇客員フェロー 福島良治

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