知っておきたい金融商品知識 第66回 ~地球温暖化対策について-ISSBとSSBJ(1)~
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地球温暖化対策について-ISSBとSSBJ(1)
近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準、これらに関する数多く用語があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。
本連載では、これまで国連やEUの政策、TCFD、そしてSASB、GRI等その他数多くある国際的なサステナビリティ開示基準について概観してきた。今回から、これらを総合し、国際的な新しい基準となるIFRSサステナビリティ開示基準(ISSB基準)と日本のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)の概要について見てみよう。
なお、具体的な検討や適用にあたっては、当該分野に習熟した監査法人等と相談する必要がある。本稿では、この分野でよく見かける用語やテーマなどには下線を付す。また、参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい(項番は前回に続けます)。
5.ISSB基準とSSBJ基準
(1)両基準の公表と適用
本年3月、わが国のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)(企業会計基準委員会を運営する財務会計基準機構の組織の一部)がSSBJ開示基準を公表した。これは、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)(2021年11月にIFRS財団によって設立)が2023年6月に公表したISSB開示基準(IFRS S1号、IFRS S2号)が公表され、その適用が各法域で判断されることになったことによるもので、わが国ではSSBJがISSB基準と整合性をとりつつ、日本国内で適用される基準として策定したものである。
なお、以下では、ISSB基準とSSBJ基準の記述が紛らわしいので、便宜上、ISSB基準を「国際基準」、SSBJ基準を「日本基準」と呼ぶことにする。
国際基準は、TCFD提言(本連載第63回参照)、SASB 基準(本連載第64回参照)、統合報告フレームワーク(IIRCによる International <IR> Framework、本連載第65回参照)などの既存のフレームワークと基準に基づいて構築されている。それぞれの基準は、すでに述べたように本国際基準ISSB基準に解消、集約されたということだ。
国際基準は2024年1月1日以後開始する事業年度から適用可能だが、各国での適用は各国の法制に従うことになる。日本での適用を実効化するのが日本基準SSBJ基準だ。この日本基準も同様に2024年度(2025年3月)決算から適用可能ではあるが、現在はまだ強制ではなく、今後金融商品取引法令に取り込まれ、施行されてからの強制適用になるといわれている(2025年6月5日 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(第7回) 議事録の事務局資料「時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業への適用開始時期を2027年3月期とすること等を基本線」との考えが記述されている。6/23現在の当該企業社数は75)。なお、日本基準は、プライム上場企業以外の企業も適用することも可能とのことである。
(2)両基準の構成と関係
日本基準は、国際的な整合性を図るために原則として国際基準の要求事項をすべて取り入れている。ただし、国際基準の要求事項に日本基準独自の取扱いを追加し、国際基準の要求事項に代えて日本基準独自の取扱いを選択することを認めるものもあり、その日本基準独自の取扱いを選択しなければ、国際基準に準拠したことになる(なお、日本基準独自の取扱いを選択しても国際基準に準拠するとも考えられるとしている)。
両基準の大項目の概要は下表の通り。国際基準と日本基準はほぼ同じ構成になっている。
〇 ISSB基準(国際基準)
IFRS S1(全般的要求事項) | |||
概念的基礎 | |||
全般的要求事項 | |||
判断、不確実性および誤謬 | |||
テーマ別基準 (気候関連以外で、テーマ基準が個別にない場合に適用) |
IFRS S2 (気候関連) |
||
目的 | 目的 | ||
範囲 | 範囲 | ||
コア・コンテンツ <ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標> |
コア・コンテンツ <ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標> |
〇 SSBJ基準(日本基準)
ユニバーサル基準 適用基準(全般的要求事項) |
||
IFRS S1における概念的基礎、全般的要求事項、判断・不確実性および誤謬等に相当し、企業がサステナビリティ関連財務開示を作成し、報告する基本事項を示すもの | ||
テーマ別基準 | ||
第1号 一般開示基準 (気候基準等の個別テーマ基準がない場合に適用) |
第2号 気候関連開示基準 |
|
IFRS S1/テーマ別基準に相当し、コア・コンテンツ<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>等の開示について定めるもの | IFRS S2に相当し、気候関連開示のコア・コンテンツ<ガバナンス、戦略、リスク管理、指標および目標>等の開示について定めるもの |
(3)全般的要求基準
IFRS S1号は、開⽰に関する基本的な事項を定めた部分とIFRS S2号のようなテーマ別基準がない場合に、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して開⽰すべき事項(コア・コンテンツ)を定めた部分とで構成されている。前者は日本基準でも全般的要求基準であるユニバーサル基準・「適用基準」とされており、本項ではこの項目を概説する。
「適正な開示」対象を「重要性(Materiality)のある」「企業の⾒通しに影響を与えることが合理的に⾒込まれるサステナビリティ関連のリスク及び機会」とするが、より具体的には「短期、中期または⻑期にわたり、企業のキャッシュ・フロー、当該企業のファイナンスへのアクセスまたは資本コストに影響を与えることが合理的に⾒込まれる、すべてのサステナビリティ関連のリスクおよび機会」をあわせたものとされる。まさに本開示内容が財務開示のためであることを明確にしている。
報告対象の企業は、本開示に関連する財務諸表と同じ報告企業であり、連結ベースになる。本開示内の項目間や関連する財務諸表とのコネクティビティ(つながり)を理解できるような情報を提供することとされる。
なお、サステナビリティ関連の「機会」に関する情報が、商業上の機密であると企業が判断したときには、当該情報がサステナビリティ開示基準で要求する情報であり、また、当該情報に重要性があったとしても、これを開示しないことができる。しかし、「リスク」に関しては除外されない。
日本基準独自の項目としては、任意にこの基準を適用する場合における軽減措置、各指標の表示単位開示、準拠する法令がある場合の法令名開示、開示内容の公表承認日・承認機関等の名称の開示などがある。
(参考文献)
「IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」IFRS S2号「気候関連開示」」
(サステナビリティ基準員会ホームページ)
https://www.ssb-j.jp/jp/activity/standard/y2023/2023-0626.html
「サステナビリティ基準委員会がサステナビリティ開示基準を公表」
(サステナビリティ基準員会ホームページ)
https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards/2025-0305.html
◇客員フェロー 福島良治