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知っておきたい金融商品知識 第65回 ~地球温暖化対策について-さまざまな開示基準(2)GRI~
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地球温暖化対策について-さまざまな開示基準(2)GRI

近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準、これらに関する数多く用語があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。本連載ではこれらをできるだけ整理しつつ、日本の企業としてどのように対処すべきかを考察していきたい。
本連載では、これまで国連やEUの政策、TCFD、そしてSASB等その他数多くある国際的なサステナビリティ開示基準について概観してきた。今回も続いて、GRIについて見てみよう。
なお、この分野でよく見かける用語やテーマなどには下線を付す。また、参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい(項番は前回に続けます)。

4.さまざまな開示基準

(1)ISSB基準公表までの多数の開示基準

ニ.GRI
国際統合報告評議会(IIRC:International Integrated Reporting Council)は、2010年にGRI(Global Reporting Initiative)とA4S(The Prince’s Accounting for Sustainability Project)によって設立された国際的な連合組織で、2013年に統合報告書の作成に関する「国際統合報告フレームワーク(The International <IR> Framework)」を公表し、これによって日本をはじめ世界で企業による統合報告(IR:Integrated Reporting)が進んでいる。対象分野は、財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本と幅広い。これは、前回紹介した米国のSASBスタンダードと同様に企業価値へのインパクトを重視しており、開示の対象は投資家などの市場関係者だ。
2021年6月、IIRCはSASBと合併し、価値報告財団(VRF)を設立した。そして、2022年このVRFも前回紹介したCDSB(Climate Disclosure Standards Board)とともにIFRS財団によってISSBに統合され、サステナビリティ報告の統一化が図られている。
IIRCの母体であるGRIは、サステナビリティに関する国際基準を策定する非営利団体である(1997年に設立。なお、A4Sはチャールズ英国王(当時皇太子)により2004年に設立されたサステナブルなビジネスを支援する団体)。GRIは、基準設定のため独立機関GSSBを組織化し、このGSSBによって2016年に発表された「GRIスタンダード」は、企業がESGに与えるインパクトを報告し、サステナブルな発展への貢献を説明するためのフレームワークとされている。このGRIスタンダードは、3つの共通スタンダードと多数の項目別およびセクター別スタンダードから構成される。共通スタンダードはサステナビリティ報告書を作成するすべての組織に適用される基本的事項であり、項目別およびセクター別スタンダードは組織が自己にとってマテリアル(重要)なESG項目についての開示事項を提示している(図表参照)。
ISSBや日本のSSBJなど他の開示基準がおもに投資家向けに作られているのに対して、このGRIスタンダードは投資家だけではなく、消費者、社会など幅広い層を対象にしている点が特徴だ。相違点はあるもののGRIスタンダードとISSBやSSBJとの共通化に向けた取り組みが行われている。一方では、欧州のESRSとは極めて高い相互運用性が担保されており、日本の大企業の多くもGRIスタンダードを利用している(週刊経団連タイムス2023年11月16日No.3613)。

(図表)GRIスタンダードの概要

〇共通スタンダード
GRI1と3は、このスタンダードを利用する組織が開示するためのガイドライン。GRI2はみずから報告する必要がある。
GRI 1:基礎 GRIスタンダードを利用するにあたっての要求事項が示されている。
GRI 1:基礎 GRIスタンダードを利用するにあたっての要求事項が示されている。
GRI 2:一般開示事項 組織、戦略、ポリシー、ガバナンス、ステークホルダー・エンゲージメントなど組織の背景情報を開示する。
GRI 3:マテリアルな項目 マテリアル(重要)な項目に関する組織のマネジメント手法等を報告する際の指針。これに基づいて企業は自社の「項目別スタンダード」を利用する。
〇セクター別スタンダード
組織(企業)が以下のセクターに該当する場合に記載されているスタンダードを利用する。該当しない場合は、利用する必要はない。
GRI 11 石油・ガス
GRI 12 石炭
GRI 13 農業・養殖業・漁業
GRI 14 鉱業
〇項目別スタンダード
項目別に各トピックに特有の開示要求事項があり、組織はマテリアリティ評価に基づいて選択した項目に関して詳細な情報を報告する。
GRI 201〜207:経済 経済パフォーマンス、税金など
GRI 301〜308:環境 原材料、エネルギー、水、生物多様性、大気排出など
GRI 401〜418:社会 雇用、労使関係、ダイバーシティ、顧客プライバシーなど

(2)多くの開示基準への対応

上述したように世界で多くの気候変動をはじめとするESG情報開示基準がある。しかし、日本企業としては、2027年3月期から一部の大企業から適用される見込みのSSBJ基準や外国法域で適用されるISSB/IFRS S1・S2、EC法域のCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)およびESRS(European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準)(本連載第61回および第62回参照)以外の諸基準は義務として従う必要のない基準である。ただ、日本の企業は世界の中でも群を抜いて、これらを採用してきた。それは、東京証券取引所が示した「コーポレートガバナンス・コード」(基本原則2、原則2-3、基本原則3、補充原則3-1(3))や金融庁が示した「日本版スチュワードシップ・コード」などで促されたこともあるだろう。また、世界最大の機関投資家である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの機関投資家の多くもESGを重視していることも重要だ。
 
(参考文献)
国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council,IIRC)国際統合報告フレームワーク(日本取引所グループホームページ)
https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/disclosure-framework/04.html
「サステナビリティ報告、GRI及びGRIスタンダード」GSSB議長他
https://www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/20241114_07.pdf
グローバル・レポーティング・イニシアティブ(Global Reporting Initiative, GRI)スタンダード(日本取引所グループホームページ)
https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/disclosure-framework/05.html

◇客員フェロー 福島良治

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