知っておきたい金融商品知識 第58回 ~地球温暖化対策について(UNFCCC,COP,IPCC)~
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地球温暖化対策について(UNFCCC,COP,IPCC)
近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準、そして数多くの用語(PRI、SDGs、ESG、TCFD、SBT、COP、EUタクソノミー、ISSB、カーボンクレジット・・・等々)があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。
そこで、本連載では今後数回にわたってこれらをできるだけ整理しつつ、日本の企業としてどのように対処すべきかを考察していきたい。
なお、この分野でよく見かける用語やテーマなどには下線を付し、参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい。
1.国連等の動き
国内外ともに地球温暖化への対応が求められているが、やはり国連等の政府および政府機関の動向を確認する必要があるだろう。
(1) UNFCCCとCOP
1992年、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とする国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択され、世界は地球温暖化対策に世界全体で取り組んでいくことに合意した。同条約に基づき、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が1995年から毎年開催されている。
COP(コップ)は、締約国会議(Conference of the Parties)の略で、気候変動関係の会議だけではないが、やはり本テーマに関するものがもっとも有名だろう。本COPは、198か国・機関が参加する気候変動に関する最大の国際会議であり、毎年開催されている。
その歴史のなかでも、1997年に京都で開催されたCOP3のインパクトは大きい。そこで採択された京都議定書では、先進国が2012年までに排出量を削減する目標を設定することが求められ、気候変動に対する国際的な取組の歴史的な転換点となった。
そして、2015年のCOP21では採択されたパリ協定は、京都議定書に代わり、2020年以降の温室効果ガス排出削減のための初の法的拘束力のある国際的な条約であり、「2020年以降の世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く、1.5度に抑えるよう努力すること」が決まったのである。各締約国は、この努力目標に向けて2030年までに自国の温室効果ガス排出量を削減する目標を設定し、それに基づいて具体的な行動を取ることが求められているし、開発途上国への資金支援や技術移転などの支援についても盛り込まれており、気候変動に対する国際的な取組の新たな基盤となっている。
2024年11月にアゼルバイジャンで開催されたCOP29では、途上国への資金支援が大きなテーマとなった。議論は難航したが、これまでの気候資金の目標(2025年までに年間1,000億ドル)の3倍にのぼる、2035年までに少なくとも年間3,000億ドルを目標額とすることで合意し、採択内容には2035年までに世界全体で官民あわせて途上国への支援額を少なくとも年間1.3兆ドルに増やすよう呼びかけることも盛り込まれた。ただし、途上国側には大きな不満が残ったようだ。本合意採択後にインドなどから目標額が低すぎるなど、合意内容と先進国を批判する発言が相次いだ。
(2)IPCC
気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)は、世界気象機関(WMO)および国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織で、現在195の国と地域が参加しており、気候変動の最新の科学的知見をまとめ提供している。IPCCは政策中立性の原則の下、UNFCCCの国際交渉やその他の政策決定の場に有用な科学的助言を提供しており、その報告書は気候変動分野において科学的に最も権威があるとされている。
2016年から始まったIPCCの第6次評価報告書(AR6)サイクルは、最終的に2023年3月の統合評価報告書を公表した。その要点は以下の通り(IPCC第6次評価報告書統合報告書2023.3)。
- 人間活動が主に温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく、1850年~1900年を基準年とした世界平均気温は2011年~2020年に1.1℃の温暖化に達した。
- 各国の従来の削減目標は極めて不十分であり、GHGの排出削減をこのまま進めても、2030年までに世界の平均気温は1.5℃に達することが推定される。
- 世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えるためには、少なくとも2025年までに世界のGHG排出量を減少に転じさせ、2035年までに60%削減する必要がある。
- 人間活動が原因の気候変動は、すでに熱波、洪水や干ばつといった極端現象が増え、陸や海の生態系に相当な被害をもたらしており、世界の食糧生産に悪影響を及ぼし、酷暑の増加で死亡率が増加している。
- 被害を減らす適応策が拡大しているが、既に適応の限界に達している地域もある。気候変動に起因するリスクと予測される悪影響、関連する損失と損害は、地球温暖化が進行するにつれて増大する。
- 効果的な行動は、政治の関与、制度、法律、政策および戦略、ならびに資金と技術へのアクセス強化によって可能になる。規制手段および経済的手段のスケールアップと広範な導入によって、大幅な排出削減および気候レジリエンスを支えうる。
- すべての人々にとって住みやすく持続可能な将来を確保するための機会の窓が急速に狭まっている。今後の10年間に行う選択や実施する対策は、数千年先まで影響を与える。GHG排出削減対策を急速かつ大幅に、緊急に取る必要がある。
(参考文献)
国立環境研究所「IPCC 第6次評価報告書 統合報告書 Summary for Policy Makers(政策決定者向け要約)解説資料」2023.3.24
https://www.env.go.jp/council/content/i_05/000130186.pdf
◇客員フェロー 福島良治
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