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知っておきたい金融商品知識 第59回 ~地球温暖化対策について(SDGs)~
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地球温暖化対策について(SDGs)

近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準、そして数多くの用語(PRI、SDGs、ESG、TCFD、SBT、COP、EUタクソノミー、ISSB、カーボンクレジット・・・等々)があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。
そこで、本連載ではこれらをできるだけ整理しつつ、日本の企業としてどのように対処すべきかを考察していきたい。
なお、この分野でよく見かける用語やテーマなどには下線を付す。また、参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい(項番は前回に続けます)。

1. 国連等の動き

国内外ともに地球温暖化への対応が求められているが、やはり国連等の政府および政府機関の動向を確認する必要があり、前回は国連等の動きとしてUNFCCC、COP、IPCCについて概観した。今回は、SDGsを整理したい。

(3) SDGs

2000年の「国連ミレニアム・サミット」で採択された国連ミレニアム宣言を基に「ミレニアム開発目標」(MDGs)が成立し、その流れを受けて、パリ協定と同年の2015年9月の国連総会において、持続可能な開発のために必要不可欠な向こう15年間の新たな行動計画(2030アジェンダ)が採択された。そこでは、2030年までに達成するべき「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」として、以下の17のゴールが示されている。

1)貧困の撲滅
2)飢餓撲滅、食料安全保障
3)健康・福祉
4)万人への質の高い教育、生涯学習
5)ジェンダー平等
6)水・衛生の利用可能性
7)エネルギーへのアクセス
8)包摂的で持続可能な経済成長、雇用
9)強靭なインフラ、工業化・イノベーション
10)国内と国家間の不平等の是正
11)持続可能な都市
12)持続可能な消費と生産
13)気候変動への対処
14)海洋と海洋資源の保全・持続可能な利用
15)陸域生態系、森林管理、砂漠化への対処、生物多様性
16)平和で包摂的な社会の促進
17)実施手段の強化と持続可能な開発のためのグローバル・パートナーシップの活性化

地球温暖化対策と関係するものとしては、目標13)「気候変動への対処」がそのものズバリだが、2)、6)、7)、14)、15)もそうだと考えられる。そして、それぞれの項目において達成目標や実現のための方法が示されている。
ここでは、目標13)「気候変動への対処」の達成目標をいくつか挙げる。その達成に向けたフォローとして、日本でも統計数字が報告されている(下記「=」のあと。「~」は前後の西暦の間に毎年の統計数字が計上されている。詳細は、2024.3外務省ホームページ参照)。

13.1「全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する」
13.1.1「10万人当たりの災害による死者数、行方不明者数、直接的負傷者数」を測定すること=日本/2015:0.95人~2022:1.90人
13.2「気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む」、13.2.2「年間温室効果ガス総排出量」=日本/2010:1,302,640kt-CO2 eq.~2022:1,135,458 kt-CO2 eq.
13.a「重要な緩和行動の実施とその実施における透明性確保に関する開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1,000億ドルを共同で動員するという、UNFCCCの先進締約国によるコミットメントを実施するとともに、可能な限り速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる」、13.a.1「2025年までの1,000億ドルコミットメントという継続的な既存の集団動員目標に関連して、1年当たりに提供及び動員された金額(米ドル)」=日本/「現在、提供できるデータはありません」
 
具体的な目標といっても計数を測定するということなので、義務感は感じにくいし、やや心もとないともいえよう。ダイエットの第一歩として体重、体脂肪、BMIを計測するというのに似ている。国連加盟全193か国という多くの国家による合意のためにはやむを得ないものとも思われる。
日本の企業にとってもまだ義務化されたものはない。SDGsは官民両方が目指すべき努力目標であり、法的な拘束力はない。しかし、上場企業に対して東証の定める「コーポレートガバナンス・コード」において、サステナビリティに関する基本的な方針を策定し自社の取組みを開示すること、プライム市場上場会社においてはTCFDまたはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実させることが求められている。
また、2023年3月期から有価証券報告書等において「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられ、サステナビリティ情報の開示が求められることとなった。ちなみに、有価証券報告書(2024年3月期、全2,312社)の「事業の状況」においてサステナビリティ関連の特定の単語を含む開示を行っている企業数及び割合は、「気候変動」が1,725社(74.6%)、「TCFD」が1,017社(44.0%)であり(2024.11金融庁)、義務と考えられていないことがわかる。
ただし、気候変動関連の内容は、ISSB(IFRSにおける国際サステナビリティ基準審査会)基準を踏まえSSBJで開示の個別項目を検討することになっている(現在、公開草案の検討中で、2024年3月までに確定基準を公表することが目標とされる)。

(参考文献)
2030アジェンダ(国連広報センター・ホームページ) https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/
SDGグローバル指標(SDG Indicators)(外務省ホームページ)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal13.html
東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」2021年6月
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
「金融審議会ディスクロージャーWG報告(2022年6月)を踏まえた内閣府令改正の概要」(金融庁ホームページ)2022年6月
https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sustainability01.pdf
金融庁「記述情報の開示の好事例集 2024(第1弾)」2024年11月
https://www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20241108/01.pdf
SSBJ(サステナビリティ基準委員会)「現在開発中のサステナビリティ開示基準に関する今後の計画」2024年4月
https://www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/2024_0404_ssbj.pdf

◇客員フェロー 福島良治

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