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知っておきたい金融商品知識 第26回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(7)~
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海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(7)

海外子会社を設立したり、買収した子会社に対して資金を供給する方法として出資と融資がある。これらは、単体または連結会計ベースで把握しなければならないため、それぞれ期末時点において為替リスクを抱えることになる。出資した場合の評価差額は為替換算調整勘定といわれ、そのリスクをヘッジすることの意義について議論を整理してきた。前回まで、海外子会社への出資金や融資の評価の会計処理(とくに為替換算調整勘定)や為替予約・通貨スワップ取引によるヘッジの概要を解説し、為替換算調整勘定をヘッジすることが妥当か否かの論点整理を行った。このテーマの最後の今回は、海外子会社への出資に関する為替換算調整勘定をそもそもヘッジすべきなのかを示したい(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

5.では、ヘッジすべきなのだろうか

わが国の企業の多くは為替リスクにさらされているが、商社など一部を除いて為替換算調整勘定のリスクヘッジを行っている企業は少ないようである。大手自動車メーカーの有価証券報告書には、明確に換算リスクヘッジを否定する文言も見られる。たとえば、トヨタ自動車の2022年3月期有価証券報告書では「・・・前連結会計年度との比較において、また地域ごとの比較においてかなりの影響を及ぼすとしても、換算リスクは報告上の考慮事項に過ぎず、その基礎となる業績を左右するものではありません。トヨタは換算リスクに対してヘッジを行っていません。」と記述されている。
しかし、欧州等だけではなくドル基軸の米国を拠点としているIBMやGEなどを含めて海外の主要多国籍企業で当該ヘッジ(純投資ヘッジ)を行っているところは多い(みずほ銀行/Mizuho Industry Focus Vol.93 2011.2.8参照)。
為替換算調整勘定を含む評価・換算差額等の変動リスクについては、筆者は、キャッシュフローには直接影響のない事象であるため積極的にヘッジする必要はないと考える。
為替換算調整勘定は、「その他有価証券」(売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式および関連会社株式以外の有価証券)が時価をもって貸借対照表価額とし、その評価差額(税効果考慮後)は評価・換算差額等に計上されることと同様に考えられるものとされている(企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準の改訂に関する意見書」1999年10月22日 二.3参照)。したがって、「その他有価証券」の取扱いが参考になる。「その他有価証券」は満期保有目的の債券ではない。すなわち、市場動向によって売却を想定している有価証券や業務提携等の目的で保有する有価証券が含まれ、長期的には売却することが想定されるのである。逆に、売買目的有価証券とは違い、直ちに売却・換金するものではないことから、評価差額が評価・換算差額等に計上されるのである。また、「その他有価証券」をヘッジする場合は、時価ヘッジ(ヘッジ手段の時価変動と合わせて損益計算書に反映されること)が認められている(会計実務指針160項、185項)。
為替換算調整勘定は、「その他有価証券」評価差額金、土地再評価差額金(大会社等の一定の会社が、事業用土地について時価による評価を行い、当該事業用土地の評価損益を貸借対照表に計上するもの)と同様に対象資産を将来において売却する可能性があると判断されるのであれば、実際のヘッジ取引が望まれるだろう。ちなみに、三菱商事の2022年3月期有価証券報告書では「在外営業活動体に対する純投資のヘッジ:連結会社は、在外営業活動体に対する純投資の為替変動リスクを回避するために、為替予約や外貨建借入債務などのデリバティブ取引以外の金融商品を活用しています。ヘッジ手段の公正価値変動額等の有効部分は、「その他の資本の構成要素」に含まれる「在外営業活動体の換算差額」に計上されています。」と記述されている。当社は「投資の価値の増加を主な目的として保有する株式を「純投資目的株式」に区分」している。中長期的な値上がりとその売却益獲得を視野に入れたものと考えられるのであり、その為替変動リスクをヘッジしているのだ。
また、為替換算調整勘定はROEの計算要素に含まれ、円高・円安という経営者の責任外の市場動向によりROEなどの株価指標が不安定になるため、投資家がROEを重視した経営を企業に求めるのであれば、同様に実際のヘッジ取引も求められるのではないだろうか。
為替換算調整勘定については、本連載第23回等で解説したように為替リスクをヘッジし金利リスクに転換することで事業コストを意識した経営が明確になる。したがって、実際にヘッジするのではなく、管理会計上で現地通貨金利等のコストを確認し、子会社による事業の収益性を管理するためにバーチャルな通貨スワップ取引を想定することも効果があると思われる。     

◇客員フェロー 福島良治

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知っておきたい金融商品知識 第15回 ~金融商品の法令上の内部統制等(1)~
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