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知っておきたい金融商品知識 第25回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(6)~
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海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(6)

海外子会社を設立したり、買収した子会社に対して資金を供給する方法として出資と融資がある。これらは、単体または連結会計ベースで把握しなければならないため、それぞれ期末時点において為替リスクを抱えることになる。出資した場合の評価差額は為替換算調整勘定といわれ、そのリスクをヘッジすることの意義について議論を整理したい。前回まで海外子会社への出資金や融資の評価の会計処理(とくに為替換算調整勘定)と為替予約や通貨スワップ取引によるヘッジについて見てきた。今回は、そもそも海外子会社への出資に関する為替換算調整勘定をヘッジすることが妥当か否かについての議論を整理したい(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

4.為替換算調整勘定をヘッジすることについての議論

本連載第20回で見た通り、海外子会社に出資した場合、翌年度以降、海外子会社の財務諸表を連結ベースで換算する手続において発生する換算差額を為替換算調整勘定という。これは出資(子会社株式取得)時の為替相場で換算される純資産項目の円貨額と決算時為替相場で換算される資産・負債項目の円貨額との差額である。したがって、この換算差額は、円貨への換算手続の都度発生し、海外子会社の経営状況とは無関係に発生するものであるため、損益計算書における当期純利益ではなく、その他包括利益として計上される。そして純資産の部の「評価・換算差額等」として累積することになる。なお、海外子会社の株式の売却の意思が明確な場合には、為替換算調整勘定を含む子会社への投資に係る一時差異について、税効果を認識することが必要になる。
こういった為替換算調整勘定に生じる為替リスクをヘッジすべきか否かについては議論のあるところで、以下のように整理できる。

イ.ヘッジを肯定する意見やその根拠
・外貨建取引等会計処理基準「注13」や国際財務報告基準IFRS(IFRIC 16号)でヘッジ行為がヘッジ会計として認められている。
・将来的に売却する可能性の高い子会社であれば、それまでの円高リスクを制御することが重要である。
・為替換算調整勘定はROEの計算要素に含まれるため投資家も意識し、株価に反映されている。ROEの計算式の分子「株主利益」は、当期純利益で「その他包括利益」は含まないが、分母は、純資産の部の自己資本であり、少数株主持分および新株予約権等は除去されるが、為替換算調整勘定が要素である「評価・換算差額等」を含む。また、PBR(Price to Book‐value Ratio=株価純資産倍率)の分母である1株当り純資産にも含まれる。したがって、円安になると為替換算調整勘定が大きくなり、これらの指標を下げてしまう。すなわち、円高・円安という経営者の責任外の市場動向によりROEなどの株価指標が不安定にあるのである。
・純資産の減少は銀行との融資契約のコベナンツ条項に抵触し、返済を求められたり、借り入れ条件の変更を要求される可能性がある。
・前回まで議論したように、為替リスクをヘッジし金利リスクに転換することで事業コストを意識した経営が明確になる。

ロ.ヘッジを否定する意見
・あくまでも会計評価の問題であって、純利益やキャッシュフローに直接影響しない。
・減損処理(強制評価減)の対象となる有価証券(時価評価されない有価証券)については、金利や株価の変化による時価減少は考慮されるが、為替変動は対象外である(外貨建取引等会計処理実務指針19項)。
・通貨間の金利差(直先スプレッド)と実際の為替変動とは別で、円安になることも多いため、あえてヘッジで円高方向に固めてしまう必要はない。円高時のヘッジは損切りと同じである。
・為替リスクヘッジは両通貨の金利の直先スプレッドがコストとして認識されるため、低金利の円で調達するメリットが減殺される。
・融資など期限のある契約とは違って、期限のない出資というものに対するヘッジ期間の設定は難しい。

それぞれの意見は、そもそも海外子会社に対する出融資をどうとらえるのかという根本的な相違が背景にある。次回このテーマの最終回では、どうすべきかを検討したい。

◇客員フェロー 福島良治

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