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知っておきたい金融商品知識 第19回 ~包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)について(3)~
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包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)について(3)

今回も、包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)の規制状況と合理的な取り組み方について見ていこう(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

4.フラット為替のヘッジ会計処理に否定的な見解とそれへの批判

そもそも、2003年に日本公認会計士協会「包括的長期為替予約のヘッジ会計に関する監査上の留意点」が公表されたのは、包括的中長期為替予約(フラット為替)に関してヘッジ会計を適用することに一部の監査上の判断に混乱が見られたことによるものであった(同留意点は2006年に「金融商品会計に関するQ&A」に55-2へと引き継がれ、現在に至っている)。その背景には、以下に掲げる3つの考え方があるものと思われる。しかし、これらの見解には「誤解」に基づくと思われるものもあることから、理論的に批判したい。

① フラット為替は、契約後に為替相場の変動がほとんどなければ、契約期間前半の交換が実施されていき、残りの契約期間の時価評価による含み損は増大していくという「利益先取り商品」であり、ヘッジ手段として相応しいものではない。

前提条件として「為替相場の変動がほとんどなければ」とあるが、この論旨の意図するところを正確に言えば、「将来の為替相場等が契約時の金利等金融指標から計算される期待値どおりに動いたならば」ということになろう。なお、後半「契約期間の時価評価による含み損は増大してゆく」と考えられているようだが、相場が変動すれば、その方向(円安外貨高、円金利上昇、外貨金利下落の方向)によっては時価評価が含み益になることすらある。ある時点での実勢先物予約とその後の実際の円と米ドル等外貨スポット為替レートの推移を比較すると何ら相関性はないことは、実務家には周知のことであろう。ちなみに、筆者は1993年3月に将来10年間にわたって各年度末での実勢先物予約を組んだもの及び1998年3月に将来5年間にわたって各年度末での実勢先物予約を組んだものと、それぞれその後の実際の円ドルスポット為替レートの推移を比較したことがあるが、ほとんど相関性はなかった(前者の相関係数(補正R2)は、0.165、後者は-0.238)。
「為替相場の変動がなければ」という現実的でないことを前提にして「利益先取り商品」と決めつけるのは如何なものであろうか。逆に、このように変動の大きな為替相場リスクを一定の金額でヘッジするという効果を評価すべきであろう。
さて、今度は金利スワップ取引の例から、この考え方をチェックしてみよう。満期保有目的の変動利付き債券を購入した企業が、金利スワップ取引により固定金利に変換したケースである。順イールド(短期金利が低く、長期金利が高い状況)の場合であると、この企業は単純に受取金利が増大する。また、この金利スワップ取引は金利変動が契約時の市場における期待値どおりに動いたならば後半期間の時価評価による含み損は増大していく「利益先取り商品」でもある。しかし、このケースでは、金利スワップ取引の特例処理(会計実務指針177項~179項)は適用される。
また、違う例をあげてみよう。1990年代前半わが国では短期金利のほうが長期金利よりも高い「逆イールド」の状況がしばらく続いたし、2022年8月31日現在の米ドル金利も3年から10年にわたる金利は逆イールドカーブになっている。この場合に変動金利借入を金利スワップ取引で固定金利に変換するとやはり支払い金利が削減(金利スワップ取引では受取超)され、かつ金利変動が契約時の期待値どおりに動いたならば後半期間の時価評価による含み損は増大していく「利益先取り商品」でもある。しかしながらやはり、このケースでも、金利スワップ取引の特例処理は適用される。
このようにフラット為替や金利スワップ取引などのデリバティブ取引を活用すると、企業活動で発生する必要なキャッシュフローが相場変動の影響を受けなくなるというヘッジ効果があるだけではなく、その時々のマーケット構造によっては、取引当初において利益を生み出すケースもある。その結果、当初に支払い負担の生じるヘッジ手段と比べて、取組みやすいというのは事実であるが、取引後半に時価評価が含み損となるかどうかは分からないし、そもそも、それはキャッシュフローの安定化を目的としたヘッジ取引であるため考える必要はないといえよう。
ヘッジ手段は、先に損失を出すものであって、当初から利益が生むものはけしからぬというのは、あまりにもストイックな精神主義といわざるをえない。

② フラット為替は、実勢ディスカウントの円支払い額を一定金額に利益調整したものであり、個別予約と同じく実勢ディスカウント・レートを適用して引き直すべきである。

金融商品会計Q55-2は、このような煩雑な処理を求めている。ここで、また金利スワップ取引の例をあげて、この考え方を批判してみよう。金利スワップ取引は、通常、LIBORまたはその廃止後はTONAやTIBOR等の変動金利と固定金利を一定の期間交換するものであるが、単純にいうと、その固定金利は、契約時における将来の各変動金利の期待値の平均をとったものといえる。また、個別に各変動金利を期待値(図表の変動金利のイメージ)どおりに予約することもできる(ステップアップ型金利スワップ取引や金利先物取引)。
金利スワップ取引もフラット為替もキャッシュフローの変換に過ぎない。長期の金利スワップ取引における一定の固定金利を各変動金利の契約時の期待値に一本々々引き直して処理する人はいないであろう。フラット為替も同様と考えられる。

(図表)通常の金利スワップ取引のイメージ
(この図の変動金利は契約時における期待値を示しているだけで、将来このように確定するとは限らない。ただし、別途、一本々々個別の金利を契約時にこのように予約する取引も可能である。その場合は固定金利がステップアップしてゆくイメージになる。)

③ 予定取引の期間が10年のヘッジ手段は通常投機目的である。

あまりにも長い期間は慎重に判断すべきことではあるが、前回に記載した(3)(b)のとおり、当該会社が10年後も当該物品・サービスを輸入することが確実視され、フラット為替の円建支払金額と売上による受取円建金額とのヘッジ比率が妥当なものであること等が手続きで担保され、検証可能であるならば、ヘッジ取引と認めるべきであろう。これは会計実務指針にも合致した処理である。
昨今は、10年超のデリバティブ仕組み事業債も数多く発行されており、当該発行体サイドではオプション等のデリバティブ取引が取組まれているものの、これらは金利スワップ取引の特例処理の対象になっている。一概に同じくは論じられないが、予定取引の確度は相対的なものと考え、そのような観点で検討することが必要であろう。

5.まとめ

フラット為替の会計処理については、当該留意点やQ55-2を参考にしながらも画一的に投機的と決めつけることなく、企業価値向上の観点からリスクヘッジとして有効なものであり、会計実務指針のヘッジ要件を満たすものであれば、ヘッジ会計を認めるべきであろう。振当処理とされなくとも、ヘッジ手段の評価損益が繰延ヘッジ損益として計上されるため、会計的にも把握・管理され、投資家に不測の損害を与えることはない。それは、ヘッジ会計の認められる他のデリバティブ取引と同じである。
フラット為替のヘッジ会計処理方法で混乱した根源的な理由は、それが「利益の先取りになるからけしからん」というあまり理論的でないステレオ的な決めつけが与えた影響が大きいように思われる。金融商品会計基準では、予定取引であっても、主要な取引条件が合理的に予測可能であり、かつ、それが実行される可能性が極めて高い取引であればヘッジ対象となることが明確に示されている。いたずらに保守的な処理を強制することは、企業の自由なリスクヘッジ活動を阻害することにもつながり、かえって企業価値向上を妨げる原因にもなろう。
なお、円ドル為替予約のように、先日付になるほど価格が安くなる(先物価格が直物価格を下回る)状態は、バックワーデーション(backwardation)と呼ばれ、オイル等の商品や傭船料(フレート:freight)のデリバティブで見られるケースも多い。これらのデリバティブ取引の市場拡大、そしてヘッジとして利用することが、企業価値の安定および向上にとって大変重要であり、保守的すぎる会計処理が障害にならないように注意する必要があろう。

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第20回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(1)~