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知っておきたい金融商品知識 第18回 ~包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)について(2)~
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包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)について(2)

今回も、包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)の規制状況と合理的な取り組み方について見ていこう(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

3.金融商品会計実務指針Q55-2による会計処理の方法

(a)予定取引の発生可能性

長期間の輸入取引に対して長期の複数の為替予約を一括で取組んで円安リスクをヘッジするデリバティブ取引の包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)に対して、ヘッジ会計の適用が可能であるのかが論点となる。
将来発生する予定取引がヘッジ対象と考えることが可能かどうかの判断基準を示している金融商品会計実務指針162項では、「契約は成立していないが、取引予定時期、取引予定物件、取引予定量、取引予定価格等の主要な取引条件が合理的に予測可能であり、かつ、それが実行される可能性が極めて高い取引」に該当するか否かを判断し、特に予定取引発生までの期間が1年以上の場合は、他の要素を十分吟味する必要があるとされている。これに対して、実務指針Q&AのQ55-2では、「過去の取引実績等から考えて長期的に輸入予定取引が発生し得る場合においても、1年以上の予定取引については、ヘッジ対象となり得るかどうかについて、監査上慎重に判断することが望まれる。1年以上の予定取引については、輸入見合いの長期の円建売契約がある場合を除き、原則として会計処理上は投機目的と考える必要がある。」と、より保守的な判断を示している。投機目的と判断した場合は、ヘッジ手段と考えられていたデリバティブ取引契約(フラット為替)はヘッジ会計の適用がなく、その時価評価差額は毎期の損益に計上することとなる。
日本公認会計士協会「包括的長期為替予約のヘッジ会計に関する監査上の留意点」(2003年)の公表(2006年「金融商品会計に関するQ&A」にQ55-2として引き継がれた)以降、以下記述するような事象を踏まえてもなお多くの公認会計士がヘッジ会計の適用に否定的な現実は、極めて残念なことと思われる。

(b)「例外的」にヘッジ会計が認められる要件

しかしながら、Q55-2では1年以上の予定取引について、すべてを「投機目的」としているわけではなく、以下の2つのいずれかの要件を満たす場合は、例外的にヘッジ会計が妥当と認められる場合もあるとしている。
① 為替相場の合理的な予測に基づく売上と輸入(輸入品目を特定する必要がある。)に係る合理的な経営計画(通常3年程度)があり、かつ、損失が予想されない場合。
② 輸入予定取引に対応する円建売上に係る解約不能の契約があり、かつ、損失とならない場合。
なお、ここでいう「損失が予想されない場合」や「損失とならない場合」とは、取組まれたフラット為替により費用を確定した結果、損失が確定した場合には、直ちにすべての期間の損失を認識すべき、ということであろう。実態商取引上、そのようなケースはほとんどないと思われる。
ここで、①の「経営計画」について考えてみたい。
まず、Q55-2では「経営計画(通常3年程度)」となっており、経営計画があったとしても3年以上はすべて投機的、と判断されるかのようにも読める。しかしながら、会計実務指針162項では、予定取引の取引条件が合理的に予測可能で、かつ、実行される可能性が極めて高い取引であるかを判断する必要があり、特に予定取引発生までの期間が1年以上の場合には、他の要素を十分吟味する必要があるとしているのであって、Q55-2において、3年以上のヘッジ取引のほぼすべてを画一的に「投機的」と判断すべき、としているとすれば、その取り扱いは会計実務指針に示される取り扱いを逸脱していると言わざるを得ず、ここでは単に例示したものと考えたい。2006年、実務指針Q&Aに本Q55-2が追加されたときも、実務指針本文の該当部分は改正されていない。
通常、経営計画は長くても3年から5年程度であり、例えば10年にわたるものは作られないだろう。したがって、厳密にQ55-2をこのケースに適用すると、10年にわたる為替予約はすべて「投機的」という判断が下されることになろう。
しかし、為替レートの変動に国内販売価格が左右されない製品を輸入している企業にとっては、10年であってもフラット為替契約によって為替リスクをヘッジした方が会社の事業リスクを減少させることができる。このようなヘッジ行為が企業価値を向上させることになるのである。
したがって、ここでは、経営計画と同価値の見通しがあること、すなわち、当該会社が10年後も当該物品・サービスを輸入することが確実視され、フラット為替の円建支払金額と売上による受取円建金額とのヘッジ比率が妥当であることが合理的に予測でき、それが高度の経営判断として社内的にも認められていることが、文書で確認できること、例えばフラット為替予約に取り組む際の内部決裁資料等で確認できることが要件として求められるものと解すべきであろう。たとえば、日本では産出されない農産物を輸入しており、その輸入量に対するフラット為替契約金額が適切であり、また、その販売価格(円建)に対して為替変動リスクを転化しにくいといった状況が認められ、それが社内決裁を経た文書で確認できるということである。また、このような手続きの制度下と実行は、会社法等で求められる内部統制システムの観点からも望ましいことはいうまでもない。
そして、ヘッジ会計が妥当であると認められれば、ヘッジ手段となるフラット為替部分について、ヘッジ手段に係る損益または評価差額に税効果会計を適用し、繰延税金資産または繰延税金負債を計上した上で、これを控除した金額を純資産の部に繰延ヘッジ損益として計上、繰り延べることになる(実務指針Q&AのQ55-2および実務指針169~171項)。

(c)振当処理の適用の可否

なお、Q55-2によると、フラット為替がヘッジ手段として認められても、振当処理を行った場合との差異の重要性が乏しい場合を除き、通常、振当処理の対象とはならないとされている。そして、ヘッジ手段であるフラット為替の契約レートを契約締結時の理論先物相場に引き直して繰延ヘッジ損益(税効果会計適用後)を計上、繰延べるといった、大変面倒な処理が要請されている。
理由としては、「このような同一の契約レートの包括的な長期為替予約では、契約時と満期時の元本の交換もなく、また、為替予約と同等とも認められない」ことがあげられている。
確かに、「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」6項では振当処理が認められる通貨スワップは、当初交換元本と最終交換元本が同じである直先フラット型または金利部分と最終元本が実勢フォワードレートになっている為替予約型に限定されている。そうでなければ、相対取引で契約条件を契約当事者の合意により調整できるからだとされているが、それは最終支払円元本を減少(または増加)させて期中の支払円金利を増やす(または減らす)、すなわち費用項目を増やし(または減らし)、節税効果(または益出し)をねらう操作だと推測されるからであろう。期中の予約レートがすべて等しい単純なキャッシュ・フローを作るだけのフラット為替ではそのような操作はできない。フラット為替についても実勢レートというものが存在する。フラット為替は、実態は複数の為替予約の集合体にすぎないものであり、全体の価値は為替予約と同等のものである。
また、「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」において想定している通貨スワップは、社債等のキャッシュ・フローをヘッジするために利用される元本交換のある通貨スワップ取引であり、元本交換のないフラット為替取引は想定されていなかったものと思われるので、ここでいう通貨スワップや為替予約には、フラット為替取引はそもそも含まれていないとも考えられる(該当部分は2000年改訂版ののちに変更されていない)。
ヘッジ会計の要件を満たす為替予約等の会計処理方法には、①期末に時価評価を行う方法と、②振当処理の2つの方法があって、その選択適用が認められており(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針50項)、フラット為替取引においてもその適用は認められるべきと考える。
ちなみに、フラット為替に振当処理の適用を慎重に行うべき理由としては、Q55-2のように「同一の契約レートの包括的な長期為替予約では、契約時と満期時の元本の交換もなく、また、為替予約と同等とも認められない」というよりも、振当処理は一般的には金銭債権債務に対する通貨スワップのようにヘッジ取引としての金額認定が明確であるケースを想定しているところ、これに対してフラット為替はヘッジ会計の認定を慎重に行う必要があるためである、とストレートに表現した方が論理的であると考えられる。
なお、振当処理をした場合でも、予定取引がヘッジ対象の場合は、予定取引が認識されるまで、評価差額に税効果会計を適用し、繰延税金資産または繰延税金負債を計上した上で、これを控除した金額を純資産の部に繰延ヘッジ損益として計上し繰り延べる(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針4項)。したがって、振当処理は、繰延ヘッジ処理と比較すると、期末評価時点においてヘッジ対象取引のうち、実際に約定されてしまい予定取引ではなくなった部分について純資産の部で評価差額を認識しないという点だけが違うことになる。

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第19回 ~包括的中長期為替予約(いわゆるフラット為替)について(3)~