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知っておきたい金融商品知識 第20回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(1)~
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海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(1)

海外子会社を設立したり、買収した子会社に対して資金を供給する方法として、出資と融資がある。これらは、単体または連結会計ベースで把握しなければならないため、それぞれ期末時点において為替リスクを抱えることになる。この為替リスクをどうするかは重要な問題と考えられる。ヘッジすべきか、ヘッジしないで放置するか。さらに、たとえば通貨スワップ取引等によってヘッジすることは、実は為替リスクを金利リスクに変換することになり、それをどう考えるかなどである。
今回からしばらく、この為替評価リスク、主に会計上の為替換算調整勘定とこれをヘッジする場合の手段である通貨スワップ取引等について詳しく見ていきたい。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

1.「その他の包括利益」

まずは、連結財務諸表の損益計算書(P/L)における利益について確認しておこう。包括利益は、貸借対照表の純資産の期首と期末の差であり、当期純利益と「その他の包括利益」(いわゆるOCI;Other Comprehensive Income)から構成される(以下、その他包括利益と書く)。
当期純利益はもちろん期中に実現した損益である。これに対して、その他包括利益は、以下の項目の通り、記載時点では確定していない損益である。

・その他有価証券評価差額金:時価評価や満期保有以外の有価証券の取得時と時価の差額
・繰延ヘッジ損益:デリバティブの期末時点の評価額を次期に繰り延べるもの
・為替換算調整勘定:海外子会社の保有する資産を円換算した差損益
・退職給付に係わる調整額:将来退職金として給されるときに負債となるもの
・持分法適用会社に対する持分相当額ほか

その他包括利益の記載は、企業価値を判断するために損益計算書(P/L)よりも貸借対照表(B/S)を重視する方向に進んでいるIFRS(国際会計基準)と整合性をとるために導入されたものだが、当該企業がどの程度の為替変動や株式変動などの市場変動リスクの影響を受けているのかがわかりやすくなったということだ。すなわち、市場の動きに感応度の高い「その他包括利益」を投資家が重視していることの証左といえる。
為替換算調整勘定はその観点で把握すべきといえる。

2.海外子会社への出資金と評価リスク

外貨建取引等会計処理基準(1999年10月)によると海外子会社へ出資した場合、日本の親会社単体会計は取得時換算レートが適用され、決算時における換算によって生じた換算差額は、原則として当期の為替差損益として処理される。また、連結ベースでも期末時点における当該出資金の為替評価変動リスクが発生し、これを為替換算調整勘定として処理する。

(a)会計基準等の内容

会計基準の該当部分は以下のとおりである(下線は筆者記入)。



○外貨建取引等会計処理基準の為替換算調整勘定該当部分
一 外貨建取引等
1 取引発生時の処理
外貨建取引は、原則として、当該取引発生時の為替相場による円換算額をもって記録する。ただし、外貨建取引に係る外貨建金銭債権債務と為替予約等との関係が「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「金融商品に係る会計基準」という。)における「ヘッジ会計の要件」を充たしている場合には、当該外貨建取引についてヘッジ会計を適用することができる。
2 決算時の処理
(1)換算方法
② 外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む。以下同じ。)
外貨建金銭債権債務については、決算時の為替相場による円換算額を付する。・・・
③ 外貨建有価証券
・・・
ハ 子会社株式及び関連会社株式については、取得時の為替相場による円換算額を付する。
・・・
(2)換算差額の処理
決算時における換算によって生じた換算差額は、原則として、当期の為替差損益として処理する。
・・・
三 在外子会社等の財務諸表項目の換算
連結財務諸表の作成又は持分法の適用にあたり、外国にある子会社又は関連会社の外国通貨で表示されている財務諸表項目の換算は、次の方法による。
1 資産及び負債
資産及び負債については、決算時の為替相場による円換算額を付する。
2 資本(現在は純資産
 親会社による株式の取得時における資本に属する項目については、株式取得時の為替相場による円換算額を付する。
 親会社による株式の取得後に生じた資本に属する項目については、当該項目の発生時の為替相場による円換算額を付する。
・・・
4 換算差額の処理
換算によって生じた換算差額については、為替換算調整勘定として貸借対照表の資本(現在は純資産)の部に記載する。(注13)
・・・
注13 子会社持分投資に係るヘッジ取引の処理について
 子会社に対する持分への投資をヘッジ対象としたヘッジ手段から生じた為替換算差額については、為替換算調整勘定に含めて処理する方法を採用することができる。 



上記4における「換算によって生じた換算差額」とは、まさに資産及び負債と純資産の換算に用いる為替相場の違いによる差額である。
なお、当該会計基準の適用される会計実務指針は以下のとおりである。



○外貨建取引会計実務指針
31-2 親会社の支配獲得後に生じた在外子会社等に係るその他の包括利益については、親会社の支配獲得後に生じたその他の包括利益累計額に属する項目の円換算額による変動額を、連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書におけるその他の包括利益として計上する。



海外子会社への出資金は、出資時点で外貨に変換しているので、キャッシュフロー上は為替変動リスクはないはずだが、評価上は出資金という外貨建ての資産勘定を各期末に決算時レートで円貨評価するため円高になると評価損が発生することになる。

(図表)海外子会社への出資金のバランスシートイメージ

当該リスクは、会計上「連結調整勘定」(連結財務諸表の作成または持分法の適用に係る海外子会社為替換算調整勘定)に計上される。これは「純資産の部」の「その他の包括利益累計額」(評価・換算差額等)に含まれ、決算時レートで換算されるため当該純資産の部に出資時レートで計上された価額等との差額が計上される。
次回は具体的な数字を使ってみていこう。

◇客員フェロー 福島良治

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