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知っておきたい金融商品知識 第21回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(2)~
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海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(2)

海外子会社への出資に対する為替変動による評価差額は為替換算調整勘定といわれ、そのリスクをヘッジすることの意義について議論する。前回は「その他の包括利益」の全体像と海外子会社への出資金の評価の会計基準等の内容(とくに為替換算調整勘定)について全体像を把握した。今回は、為替換算調整勘定の具体的算定例とヘッジの考え方について見ていこう(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

2.海外子会社への出資金と評価リスク

(b)為替換算調整勘定の具体的算定

具体的な数字を用いて為替換算調整勘定について見ていこう。なお、本来は税効果会計を勘案する必要があるが、わかりやすく単純化するため省略したい。実際の適用では、会計士等と検討していただきたい。
たとえば、以下のバランスシートのように、為替レートが1ドル100円の時に日本の親会社(資産15,000円、負債5,000円、純資産10,000円)が米国の100%子会社(負債30ドル、総資産100ドル)に70ドルを出資したとしよう。

この時点での連結ベースでのバランスシート(貸借対照表、BS)は、左右がそれぞれ子会社資本金70ドルと親会社の出資金7,000円(資産勘定)が相殺されて18,000円となる。

1年後の決算時点で為替レートが1ドル90円になったとする。出資時点と比較して1ドル10円の円高の状態である。また、この1年間に親会社も子会社も実損益はゼロで、為替以外の変動はなかったとしよう。為替レート10円の変化だけを評価するための極端な例を見たいからだ。このときの海外子会社のBSを円換算すると資産9,000円、負債2,700円である。しかし、親会社からの資本金70ドルは出資時の為替レート1ドル100円を適用するという会計基準のルールのため7,000円のままになる。そうするとBSの左右が釣り合わないため、純資産の部に為替換算調整勘定としてマイナス700円を計上することとなる。

親会社と合算する連結のバランスシートを表示すると以下の通り、海外資産が1,000円減価、負債が300円減価するため連結資産17,000円、負債7,700円であるが、出資金は出資時の為替レー1ドル100円を適用するルールのため7,000円のままになる。出資金部分をそのまま相殺するので、やはりBSの左右が釣り合わないため子会社円評価の為替換算調整勘定マイナス700円を純資産に計上することとなる。

このように連結ベースでは、為替変動によりバランスシート全体、とくに純資産の部が変動するリスクが生じる(なお、海外子会社向け外貨建て融資等については、回を改めて検討したい)。

(c)為替換算調整勘定のヘッジ

外貨建取引等会計処理基準(注13)によると、子会社に対する投資持分の為替リスクをデリバティブ等によりヘッジした場合はヘッジ効果も為替換算調整勘定に含めて相殺処理できることとされている。いわゆる時価ヘッジとしての効果である。この為替リスクをヘッジする場合、ヘッジ手法としてもっとも簡便な方法は外貨建て負債を保有することであろう。そもそも当該出資金を外貨建て負債で調達していたのであれば、外貨建て負債は決算時評価になるためバランスシート全体で調整されるのだ。外貨建て負債ではなく、円資金を調達し、外貨へ転換して出資していた場合にヘッジするのであれば、デリバティブ取引で対応することになる。すなわち、為替予約と通貨スワップである。
次回は、為替予約と通貨スワップによるヘッジを見ていこう。

◇客員フェロー 福島良治

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