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知っておきたい金融商品知識 第22回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(3)~
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海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(3)

海外子会社を設立したり、買収した子会社に対して資金を供給する方法として出資と融資がある。これらは、単体または連結会計ベースで把握しなければならないため、日本企業にとってそれぞれで期末時点において為替リスクを抱えることになる。出資した場合の評価差額は為替換算調整勘定といわれ、そのリスクをヘッジすることの意義について、前回までは海外子会社への出資金の評価の会計処理等について見てきた。今回は為替予約によるヘッジについて紹介したい(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

2.海外子会社への出資金と評価リスク

(c)為替換算調整勘定のヘッジ

イ.為替予約によるヘッジ
出資金評価リスクに対するヘッジに関しては、デリバティブ取引のなかでは為替予約が最も簡単な方法である。当年度(または翌年度以降)の期末時点における円高リスクヘッジ(外貨売り・円貨買い為替予約。輸出為替と同じ)を行う。こうすると、為替レートの動きに応じた出資金と為替予約の円貨評価額が反対方向に動くので、為替換算調整勘定においてヘッジ効果が生じる。そして、また<為替予約の決済時点で同額の外貨買い・1年後の外貨売り>の組合せを実施、毎年ロールオーバーしてゆくのである。この組合せで、外貨キャッシュフローは発生しないで、円貨による資金調整が毎年の決済時点で行われることになる。これで当該出資金の毎1年分の為替変動リスクを毎年々々ヘッジすることになる。

(図表)為替予約のロールオーバー例(単位:円/ドル)

たとえば(図表参照)、毎年3月末決算の企業の海外子会社への出資金が1米ドルあり、子会社株式取得当初(t0)100円で評価されたとする。1年後の3月末日を期日(t1)とするドル売り・円買い為替予約を組んだら、1ドル=95円であった。その3月末日決算時点(t1)において、スポットレートが1ドル=90円であったとすると、為替換算調整勘定において出資金からは10円の評価損、為替予約は5円の益がでるので、5円を相殺し、全体で5円のマイナスになる(なお、この会計処理に関してはどの科目でヘッジ効果を計上するのかなどでいろいろな方法がありうることを留意されたい)。
次いで翌年3月末日を期日(t2)とするドル売り・円買い為替予約レートが1ドル=92円だとする。その3月末の決算時点(t2)では円安が進行して、スポットレートが1ドル=120円であった。したがって、為替換算調整勘定において出資金は子会社株式取得時100円との差額20円の評価益、為替予約92円との差額28円の損失がでるので、全体で8円のマイナスになる。なお、このケースでは、ヘッジはしなかった方がよいことになる。
このように毎年、為替予約を組んでいくと、大きな為替変動リスクにさらされる可能性は低くなる。それは、為替予約金額で出資金の期末円貨評価額を確定させるのと同様の効果が得られるからだ。為替の変動は企業の努力の埒外なので如何ともしがたいように考えられる。しかし、為替予約の直先スプレッド(上述の例では、子会社株式取得時100円と各為替予約レートとの差であるマイナス5円とマイナス8円)は予約期間の両通貨の金利差から計算されるものだ(下数式参照)。

  
  fxn:n期間後のドルレート、fx0:計算当初のドルレート
  ryn:n期間の円金利、r:n期間のドル金利

この金利差に見られる金利リスクは、それ以上に事業収益を稼ぐことで対応すべきものである(正確には、この金利差リスクに各社の債務信用スプレッドやか株主資本コストなどを加味する必要があろう)。すなわち、究極的には、<現状のような低金利の円貨で資金調達して海外出資をするという金利メリットを享受するが為替リスクの放置によるデメリットが生じるということ>と、<為替リスクはデリバティブ取引でヘッジするが、そのことで負担する円ドルの金利差(ドル金利が高いことを想定)以上の事業利益を稼得する経営方針をとること>との対比となる。
為替予約を続けるということは、為替変動リスクを円貨と外貨の金利差リスクに変換していることになるのだが、毎年為替予約を組むという手法は煩雑である。また、出資という長期的な資金の性格上からも短期の為替予約の対応は解りにくい面がある。
そこで通貨スワップが用いることが考えられる。次回は、通貨スワップによるヘッジについて考えていきたい。

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第23回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(4)~