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知っておきたい金融商品知識 第23回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(4)~
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海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(4)

海外子会社を設立したり、買収した子会社に対して資金を供給する方法として出資と融資がある。これらは、単体または連結会計ベースで把握しなければならないため、それぞれ期末時点において為替リスクを抱えることになる。出資した場合の評価差額は為替換算調整勘定といわれ、そのリスクをヘッジすることの意義について議論を整理したい。前回まで海外子会社への出資金の評価の会計処理(とくに為替換算調整勘定)と為替予約によるヘッジについて見てきた。今回は通貨スワップによるヘッジについて紹介したい(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

2.海外子会社への出資金と評価リスク

(c)為替換算調整勘定のヘッジ

ロ. 通貨スワップ取引によるヘッジ
たとえば、日本企業が米国子会社に米ドルによる出資を行い、原資は円貨で調達されているとする。この場合、為替換算調整勘定として為替リスクが発生するため、ヘッジとして円ドル通貨スワップ取引に取り組むこととしよう。なお、これまでの回で述べたとおり原資も米ドルで調達して、当該外貨負債が残っていれば為替換算調整勘定の実体的なリスク問題は生じない。
本事例で取り組む円ドル通貨スワップ取引は為替レートの動きに応じて、その評価額が出資金と反対方向に変動する必要があるため、外貨負債と同じ価値を持つ米ドル金利払い・円金利受取り、最終期日の米ドル元本支払い・円元本受取りタイプのもので、出資金と同額とする(図表参照)。なお、出資金と同額にするか、それ以下のいくらにするのかは、ヘッジ戦略によって変わりうる。
ちなみに通貨スワップ取引は当初元本交換があってもなくても、どちらでもよい。ドルの出資金を調達する必要がある場合は、手持ちの円貨を通貨スワップ取引の当初元本交換によってドルに転換することが便利であるが、すでにドル資金を手当しているのであれば、当初元本交換は不要である。結局は為替スポットレートで等価値と評価される元本同士を交換するのだから、その有無は、スワップ取引のプライシングに影響を与えない。
通貨スワップ取引を時価評価する場合、金利が固定物であれば将来の利払い部分の評価変動リスクも入ってくるので、できれば金利はドル円両サイドとも変動金利(現在ドルはSOFR、円はTONAまたはTORFといったリスクフリーレート)が望ましい。

(図表)通貨スワップ取引による海外子会社向け外貨出資ヘッジ

通貨スワップにより為替変動リスクはヘッジできる。しかし、通貨スワップ取引の受払金利が変動金利であるため、支払いのドル金利と受取り円金利の差額の振れがリスクとなる。支払いのドル金利が円金利よりも高い場合は、ここだけみると損失となるであろう(金利部分の為替評価リスクも存在する)。通貨スワップの金利差は、構造的には(前回で解説した)毎年連続的に為替予約を掛ける場合に直先スプレッド分の差損が発生することと同じ問題である。しかし、出資の主要なキャッシュフロー上の目的としては、子会社の株価上昇や子会社から配当を受け取ることであるため、こうした出資へのリターンが通貨スワップ取引の支払いドル金利以上になればよいと考えるべきであろう。なお、通貨スワップ取引における受取り円金利は、出資に際して調達した円資金への利払いに充当されるものと考えるべきである(外貨にて資金調達した場合にはこのような問題は発生しないことは先述の通り)。したがって、調達した円資金へのコスト(<TONA+スプレッド>のスプレッド部分)を通貨スワップ取引の受け取り円金利に上乗せすると、当該企業のコストとして認識しやすい。もちろんドル金利にもこれに相応するスプレッドが上乗せされるだろう(スプレッド部分の為替評価や通貨金利差(コンバージョン・ファクター)という問題も発生する)。そうすると、出資からのリターンが、これらのコストを上乗せされたドル金利を上回るのでなければ、当該事業の経済的意義が低いことになるのである(なお、ここでは親会社が全額借入で出資していると仮定されているため、負債コストしか考慮していないが、本来はより高いコストになる株主資本コストも含めて検討すべきであろう。すなわちWACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)である)。さて、前回検討した為替予約を毎年取り組んだ場合のコストは、直先スプレッド分であり、それは取引に内包される円ドルの金利差であった。企業が、出資のコストとしてステークホルダーに説明しやすい指標がどちらであるのかというと、為替予約の直先スプレッドで表現される金利差よりも、通貨スワップ取引で支払うドル金利の方といえると思われる。
通貨スワップ取引が、出資金の為替リスクをドル金利リスクに転換し、このリスクも事業利益によってカバーされることを示すということだ。さらに言えば、以下のとおりのキャッシュフローを勘案したWACCとROI(Return on Investment:投資収益率)を比較することができる。

・支払いキャッシュフロー:円資金調達金利、株主資本コスト、通貨スワップ支払ドル金利等のコスト
・受取りキャッシュフロー:通貨スワップ受取円金利、子会社株式値上り益、同配当金

また、出資期間が通貨スワップ取引期間よりも長いケースでは、通貨スワップ取引を期限毎に組み直したり、期限延長したりして対応することができる。ただし、その場合の元本レートは変更時のスポットレートとなるため、為替予約と同様の洗い替えが必要になる。

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第24回 ~海外子会社向け出資金等の為替変動リスク(為替換算調整勘定)のヘッジの是非について(5)~