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知っておきたい金融商品知識 第9回 ~ヘッジ会計の要件(2)~
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ヘッジ会計の要件(2)

前回に続いて、ヘッジ会計を適用するための要件について見ていこう(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

2. ヘッジの有効性に関する評価

(c)事後テストの問題
ヘッジ効果については、前回記載した(a)の通り、事前テストとしては、統計的手法の回帰分析の利用を可能としている(金融商品会計実務指針314)が、事後テストには適さないものと考えられて、比率分析しか認められていない(同156、323)。具体的には、ヘッジ対象・ヘッジ手段双方について予定キャッシュフローを設定し、これとヘッジ認定時点までのキャッシュフローとの差額を累計し、比較するA法と、これらに契約満期時までの未経過の予定キャッシュフローを追加した累計差額を比較するB法である(金融商品会計Q&AのQ53、実務指針設例17)。
しかし、この比率分析には問題もある。すなわち、ヘッジ行為に関して明らかにヘッジ効果がある場合でも、ヘッジ対象またはヘッジ手段の変動累計差額のいずれかが極端に小さい場合は、80~125%テストには妥当しないことがあるからだ。たとえば、ヘッジ対象が100から110に変動(変動幅10%)した場合に対して、ヘッジ手段が(-105)から(-106)に変動(変動幅1%)した場合、比率分析では10%(10分の1)となって80~125%テストには「合格」しないが、この結果は明らかに不合理である。実務指針323項には、このようなケースでは、有効性が事前に確認済みであることを条件に、ヘッジ取引の有効性が持続しているものとしてヘッジ会計の適用を継続することができるとしている。しかし、そうであるならば、事後テストにおいても回帰分析等の合理的な手法を採用することを正面から可能とするような規定とすべきであろう。
なお、Q53では、「設例に示した計算方法は例示であり、キャッシュフロー変動の累計で比較するという実務指針の基本的考え方に準拠する範囲内で、他の合理的と考えられる方法を採用することもできます」とされてはいる。具体的にどのような事後テストを行うのかは監査法人との協議によるものであろう。
従前から、米国の会計基準であるFAS133では、高いヘッジ効果を求めてはいるものの、具体的な方法については何も定めておらず、企業や公認会計士の判断に委ねられているし、IFRS9号でもヘッジの有効性について経済的関係の継続的評価(将来的な予測)は必要であるが、過去に遡った評価や80~125%等の数値基準は不要とされた(IFRS9号6.4.1、B6.4.12等)。
ちなみに、2013年の財務会計基準機構第19回基準諮問会議において、経済産業省および農林水産省から商品デリバティブ取引に係るヘッジ関連規定のさまざまな提案がされた(https://www.asb.or.jp/jp/project/standards_advisory/y2014/2014-0318.html)。その項目の1つとして、実務指針156、323およびQ53を修正し、80~125%ルールを撤廃し、企業のリスク管理の実態に即した判定基準を採用することを可能としてもらいたいという主旨の要望があった。しかし、同会議では、IFRS9号では、ヘッジの非有効部分が損益処理されることが前提となっているが、日本基準では、ヘッジの非有効部分の繰延べが行われるため非有効部分の損益処理を行わないままに80-125%ルールを撤廃すると、日本基準で許されている範囲を大きく超える非有効性が繰り延べられる恐れがあり、そうするならばIFRS9号全体(主に非有効部分の損益処理)のコンバージェンスを検討すべきだろうという主旨で、本提案は採用されていない。
同会議では、事後テストにおいてヘッジ手段とヘッジ対象の価格の相関関係を統計的に把握する回帰分析の採用も議論されている。同会議では、検討に値する可能性があるとは指摘されたものの、やはり、非有効部分の含み損を繰り延べることにつながる可能性があることやデータの取り方などで恣意的な操作が可能(そういう表現ではないが)という主旨の欠点があるとのことで、それ以上の検討は進められていないようである。

(前回の補遺)
ちなみに、前回、「リスク管理規程(ヘッジ方針を含む)作成のポイント」を紹介したが、2013年の財務会計基準機構第19回基準諮問会議においては、経済産業省および農林水産省からの提案項目の1つとして「商品デリバティブ取引に関するリスク管理方針の例」を実務指針等で紹介してほしいとの要望もあった。しかし、同会議では「一般論として、リスク管理方針文書は、各企業が対応すべきリスクの種類や対応方法により様々と考えられ、ひな形の提示には弊害も考えられるため、ひな形を示すことは慎重であるべき」と結論付けられている。

◇客員フェロー 福島良治

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