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知っておきたい金融商品知識 第13回 ~ヘッジ会計の要件(6)~
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ヘッジ会計の要件(6)

今回も、ヘッジ会計を適用するための要件について見ていこう(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

3.ヘッジ会計の特定の取り扱いについて

(c)ヘッジ取引の中止・終了
ヘッジ対象の経常取引や資産負債が残存しているのに、市場構造の変化等によりヘッジの有効性が満たされなくなったり、ヘッジ手段(デリバティブ)が終了等になった場合は、ヘッジ会計を中止し、その時点までのヘッジ手段に係る損益は、ヘッジ手段に係る損益が認識されるまで繰り延べるが、金利リスクのヘッジ取引であった場合は、ヘッジ対象の満期までの期間にわたり金利調整金として損益に配分する(実務指針180)。
逆に、ヘッジ対象が消滅したり、予定されていたヘッジ対象取引が実行されなかった場合は、ヘッジ会計は終了し、繰り延べられていた損益を当期損益として一括処理する(実務指針181)。

(d)複合金融商品の会計処理
デリバティブ仕組債や新株引受権付社債等に組み込まれているデリバティブ取引が契約上別立てになっていない金融商品は会計上、複合金融商品と呼ばれている。以下のすべての要件を満たした場合、組込まれているデリバティブを区分して時価評価し評価差額を当期の損益として処理しなければならない(企業会計基準適用指針第12号、その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理、2006年。以下、複合会計指針という)。なお、本回は、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」は取り扱わない。
①組込デリバティブのリスクが現物の金融資産または金融負債に及ぶ(元本毀損)可能性があること(現物の金融資産の当初元本が減少または金融負債の当初元本が増加する場合、現物の金融負債の金利が契約当初の指標金利の2倍以上になる可能性がある(いわゆるレバレッジ商品)場合、株式相場(指数)・現物商品相場(指数)・外国為替相場・クレジット・天候等の組込デリバティブの経済的性格およびリスクと現物の金融資産または金融負債の経済的性格およびリスクとが緊密な関係にない場合等)
②組込デリバティブと同一条件の独立したデリバティブがデリバティブの特徴を満たすこと
③当該複合金商品について、時価の変動による評価差額が当期の損益に反映されないこと

たとえば、レバレッジをかけていない金利オプションの売りが同一契約として組み込まれているローンは、上記②③は満たすが、金利上昇リスクがあるだけで元本毀損リスクはないため①は満たさず、区分処理の必要はないものと考えられる。日経リンク債や日経リンク預金は株式デリバティブが組み込まれており、他社株転換社債は償還が現物株式によると元本毀損リスクがあるため、区分処理は必要である(複合会計指針6、Q&AのQ62)。
また、損益を調整する複合金融商品、すなわちデリバティブで得た収益を毎期の利払いに含めず、あとで一括して授受するスキームまたは複数年に1回しか利払いがないスキーム等については区分処理しなければならない。
このような区分処理が求められるのは、時価評価が不要なローンや預金、またはこれまで時価評価が無理だとされた有価証券等にハイリスクのデリバティブ取引等が組み込まれ、結果として企業自体や投資家等に不測の損害が発生するリスクを防止する必要性があるからだろう。なお、2021年度からの時価算定会計基準の導入により複雑な複合商品の取り扱いは激減するのではないかと予想される。
組込デリバティブの経済的性格およびリスクと現物の金融資産または金融負債の経済的性格およびリスクとが緊密な関係にある場合、組込デリバティブのリスクが当初元本に及ぶ可能性が低いといえるものについては、現物の金融資産または金融負債にリスクが及ぶ可能性はないものとして区分処理の必要がない(「その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理」2006年企業会計基準適用指針第12号)。具体的には、物価連動国債やシンセティックCDOのデリバティブ部分を区分処理しなくてよいということである。すなわち、物価連動国債の物価指数は変動金利と緊密な関係にあるからであり、また、SPCが国債等の高い信用力を有する利付金融資産を裏付にして第三者である参照エンティティのクレジット・デリバティブを組み込んで組成されたCDO等も、実質的に当該参照エンティティの信用リスクを反映した利付金融資産と考えることができるため、当該CDO全体の信用リスクが高くない場合、組込デリバティブのリスクが現物の金融資産の当初元本に及ぶ可能性は低いと考えられるからだ。しかし、SPCの裏付けとなる資産自体にリスクの高い社債等が含まれる場合は区分すべきである。

(e)為替換算調整勘定をヘッジする取引
連結調整勘定(連結財務諸表の作成または持分法の適用に係る海外子会社為替換算調整勘定)は「純資産の部」に計上され、決算時レートで換算されるため当該純資産勘定に為替リスクが発生することになるが、「外貨建取引等会計処理基準」(1999.10改訂。注13)によると、子会社に対する投資持分の為替リスクをデリバティブ等によりヘッジした場合は、ヘッジ効果も連結調整勘定に含めて相殺処理できる。ヘッジ対象とヘッジ手段が同一通貨の場合には、金融商品会計実務指針の有効性に関するテストは省略できる(外貨建取引等の会計処理に関する実務指針35項)。ただし、連結財務諸表では、その他包括利益における記載も必要となっている。IFRS9号においても、在外営業活動体に対する純投資ヘッジとしてヘッジ会計の対象にされている。

(f)その他有価証券の時価ヘッジ
「その他有価証券」をデリバティブ取引によってヘッジした場合は「繰り延べヘッジ処理」が可能であるが、ヘッジ対象と手段の双方の時価変動額を損益認識(時価ヘッジ)し、その他有価証券の残る評価差額を純資産の部に計上することもできる(実務指針160、185)。純資産の部への計上方法は、税効果会計適用後全部を直入する方法と、または評価損を当期の損失に計上し評価益部分を税効果会計適用後に純資産の部に計上するという部分直入法があるが、税務上は評価損を損失処理できないため前者を選択する企業が多いようである。これは、法人税法においては財務会計上の区分とは違って、売買目的以外の有価証券の評価基準は、償却期限および償還金額の定めがある場合は償却原価で、それ以外は取得原価であることによる。ただし、税法上も、売買目的以外の有価証券の価格変動リスクをヘッジするためにデリバティブ取引を行った場合は、それぞれの評価差額を当期の損益とする時価ヘッジが認められる(法人税法61条の7)。

◇客員フェロー 福島良治

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