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知っておきたい金融商品知識 第14回 ~ヘッジ取引のディスクロージャー~
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ヘッジ取引のディスクロージャー

今回は、財務会計における時価会計に関するディスクロージャー、とくにデリバティブ取引等のヘッジ取引に関する内容を見ていこう。わが国では時価会計導入以前から、有価証券報告書作成企業に対して、有価証券およびデリバティブ取引に関する時価等のディスクロージャー(有価証券報告書の財務諸表の注記)が導入されている。それは、金融商品会計基準の注記事項を適用する際の指針である企業会計基準適用指針第19 号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等(いわゆる財務諸表等規則)および同規則の取扱いに関する留意事項について(同ガイドライン)等に従い、財務諸表およびその注記として開示することになる。これらの内容についても、2021年度から適用が開始された時価算定会計基準によって大きく変更された。注記の具体的な記載については、時価開示適用指針の開示例が参考になる。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

1.金融商品の状況に関する事項

金融商品について以下の定性的事項を注記する必要がある(金融商品会計基準第40-2 項(1)および時価開示適用指針3項)。ただし、重要性が乏しいものは注記を省略でき、連結財務諸表を作成している場合は個社別に作成する必要はない。

取組方針、金融商品の内容(種類など)およびそのリスク(市場リスク、信用リスク、流動性リスク等。とくにデリバティブ取引については、取引の内容、リスク、利用目的、ヘッジ会計を行っている場合には、ヘッジ手段とヘッジ対象、ヘッジ方針、ヘッジの有効性の評価方法等についての説明を含む)、リスク管理体制、時価等に関する補足説明

2.時価等に関する事項

金融商品について定量的事項を注記する必要がある(金融商品会計基準第40-2 項(2)および時価開示適用指針4項)。ただし、定性的事項同様に重要性が乏しいものは注記を省略でき、連結財務諸表を作成している場合は個社別に作成する必要はない。
原則として、金融商品に関する貸借対照表の科目ごとに貸借対照表計上額、時価およびその差額を注記する。デリバティブ取引については、当該デリバティブ取引により生じる正味の債権または債務等の内容を示す科目を貸借対照表上に掲記していない場合でも注記する。また、貸借対照表上の掲記にかかわらず、資産項目と負債項目を合算して注記することができる。
時価会計またはヘッジ会計の対象となるデリバティブ取引の記載事項は、それぞれ取引の対象物の種類(金利、通貨、商品等)ごとの期末日の契約額(または元本相当額)、時価、評価損益(時価会計対象デリバティブ取引)である。ただし、時価会計またはヘッジ会計について同じ内容が開示されるのであれば、デリバティブ取引全体を一括して示した上で、ヘッジ会計の状況を明瞭に示すことも可能と考えられる(時価開示適用指針35)。金利スワップの特例処理を行っているデリバティブ取引や外貨建金銭債権債務(予定取引を除く)等に振り当てたデリバティブ取引については、ヘッジ対象と一体として取扱い、当該デリバティブ取引の時価をヘッジ対象の時価に含めて記載することができる(ただし、契約額または契約において定められた元本相当額は開示しなければならない)。
具体的内容は、時価会計対象となるデリバティブ取引については、取引対象物の種類(通貨、金利、株式、債券、商品等)ごとに表を作成し、市場取引とそれ以外(店頭取引)との取引区分、取引種類(先物、オプション、先渡、スワップ取引、その他のデリバティブ取引)による区分、買付約定と売付約定(スワップ取引ならば受取金利・支払金利と固定金利・変動金利の組合せ)の区分、残存期間(たとえば、1年以内、1年超5年以内、5年超10年以内、10年超)による区分の順に記載する(財務諸表等規則8条の8第2項)。
ヘッジ会計の対象となるデリバティブ取引については、同様の区分のほかにヘッジ会計の方法、デリバティブ取引の種類、ヘッジ対象の区分により、ヘッジ会計の状況が明瞭に示される記載が必要になる。
なお、金融機関やノンバンクなど金融資産・負債の双方がそれぞれ資産の総額および負債の総額の大部分を占めており、かつ、事業目的に照らして重要である会社にあって、金融商品のデルタ値やVaRなどが重要である場合には、それらの注記が必要になる(財務諸表等規則8条の6の2第6項)。

3.時価のレベルごとの内訳等に関する事項

2021年度以後、時価算定会計基準が適用され、それに伴い時価算定に用いるインプットのレベル1~3に応じた時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記することとなった。ただし、企業の作業負担を考慮して、各開示項目について重要性を判断し、重要性が乏しいと認められるものは注記を省略でき、連結財務諸表において注記している場合には個別財務諸表において記載することを要しない。重要性の判断には明確な基準はないようだが、残高金額、時価の見積りの不確実性、当期純利益・総資産・金融商品全体の残高との比較等を勘案することになるものと考えられる(時価開示適用指針5-2、39-4)。
注記事項は以下の通りで、すべて適切な区分に基づき注記する(時価開示適用指針5-2)。具体的な記述方法は適用指針末尾の開示例が参考になるが、これに従う必要はないとされる(時価開示適用指針39-10など)。

・時価会計対象のデリバティブ取引とヘッジ対象のデリバティブ取引について、それぞれレベル1、レベル2、レベル3 の各時価の合計額
・そのうち、レベル2またはレベル3について、時価算定に用いた評価技法およびインプット(時価算定会計基準4 (5))の説明(これらを変更した場合は理由など)
・時価会計対象についてレベル3に分類される場合、以下の事項

①時価算定に用いた重要な観察できないインプットに関する定量的情報
企業自身が観察できないインプットを推計していない場合、例えば、過去の取引価格または第三者から入手した価格を調整せずに使用している場合は記載を要しない。
②期首残高から期末残高への損益や契約額(純額は可)等の調整表
とくに、レベル1またはレベル2からレベル3、またはその逆方向へ振替えた場合には、その額および当該振替の理由や方針など。この注記により市場流動性に関する情報の提供が可能になることが期待されている(時価開示適用指針39-7)。
③レベル3 の時価についての企業の評価プロセス(例えば、企業における評価の方針および手続の決定方法や各期の時価の変動の分析方法等)の説明
④重要な観察できないインプットを変化させた場合に貸借対照表日における時価が著しく変動するときは、その時価に対する影響に関する説明(増加または減少方向などで、デリバティブ取引に知識のない利用者にもわかりやすく)。
観察できないインプットと他の観察できないインプットとの間に相関関係がある場合には、相関関係の内容及び時価に対する影響が異なる可能性があるかどうかに関する説明

デリバティブ取引に関する定性的な記述例として以下のようなものがある(みずほフィナンシャルグループの例)。
「デリバティブ取引については、活発な市場における無調整の相場価格を利用できるものはレベル1の時価に分類しており、主に債券先物取引や金利先物取引はこれに含まれます。
ただし、大部分のデリバティブ取引は店頭取引であり、公表された相場価格が存在しないため、取引の種類や満期までの期間に応じて現在価値技法やブラック・ショールズ・モデル等の評価技法を利用して算定しております。それらの評価技法で用いている主なインプットは、金利や為替レート、ボラティリティ等であります。また、取引相手の信用リスクおよび連結子会社自身の信用リスクに基づく価格調整および無担保資金調達に関する価格調整を行っております。観察できないインプットを用いていないまたはその影響が重要でない場合はレベル2に分類しており、プレイン・バニラ型の金利スワップ取引、為替予約取引等が含まれます。重要な観察できないインプットを用いる場合はレベル3の時価に分類しており、商品関連取引等が含まれます。」

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第15回 ~金融商品の法令上の内部統制等(1)~