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知っておきたい金融商品知識 第15回 ~金融商品の法令上の内部統制等(1)~
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金融商品の法令上の内部統制等(1)

今回は、金融商品取引法や会社法等における金融商品の内部統制について見ていこう。
会社法(2005年改正)により大会社等では取締役会がいわゆる内部統制システムを決定することが義務づけられており、金融商品取引法でも有価証券報告書作成企業における財務報告に関する内部統制が定められている。
内部統制システムは、コーポレートガバナンスの実現を担保する重要な機能である。そして、リスク管理はコンプライアンスと並んで内部統制システムの中心部をなすが、デリバティブ取引を含む金融商品も対象と考えられる。また、企業価値に大きな影響を与えるほどの規模の金融取引を実行するのであれば、金融取引に関するリスク管理を内部統制システムに内包する体制を整備することが望まれる。

1.会社法における内部統制システム

ガバナンスとは、さまざまなステークホルダーとの関係において経営者が企業価値を高めるための管理体制をいう。会社法では、大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社、同法2条)および委員会設置会社に対して、これを実効化するための内部統制システムを取締役会が制定することを義務づけている。

(a)法制度の内容
内部統制は、「ガバナンスの一部として、また、リスクマネジメントと不可分の形で企業が健全に管理・運営されるために経営者が構築するものである」(2005年3月10日企業会計審議会 第3回内部統制部会会議録 八田進二部会長発言)とされている。また、よりわかりやすく「リスク管理体制及び法令遵守体制」(大阪地判平成12年9月20日・商事法務1573号4頁)ともいわれている。会社法の条文(348条3項4号、362条4項6号、416条1項1号ホ等)では、取締役または執行役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他株式会社(おおび子会社からなる企業集団)の業務の適正を確保するために必要な体制とされている。
内部統制システムの内容(会社法施行規則98条、100条、112条)のうち、とく金融取引のリスク管理にかかわる部分は、以下のとおりと考えられる。
①損失の危険の管理に関する規程その他の体制
②取締役および使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制
この②のコンプライアンス遵守の仕組みを内包するような①のリスク管理規程の作成と体制整備がポイントとなろう。連結ベースの観点が欠かせないのはいうまでもない。ただし、これに従って構築した体制が不十分であることで直ちに取締役の違法が問われるわけではなく、事後的に損害が発生した際に、取締役の構築した体制の内容が、構築当時の社会通念を基準として、その裁量の逸脱とならないか、そしてその結果として善管注意義務(会社法330条、民法644条)や忠実義務(会社法355条)の違反とならないかが判断されるものと考えられる。逆にいえば、内部統制システム(特にリスク管理体制)の構築義務は、取締役の会社に対する義務(善管注意義務および忠実義務)の重要な発現形態であるといえよう(なお、金商法上の違反には罰則規定あり)。

(b)法制化以前の判例
取締役の内部統制システム設置義務については判例(銀行に関する大阪地判平成12年9月20日・商事法務1573号4頁、また、デリバティブ取引により損失を被った企業の取締役に対する株主代表訴訟に関する最二小決平成22年12月3日資料版/商事法務323号11頁、その一審の東京地判平成16年12月16日・金融・商事判例1216号19頁、同二審の東京高判平成20年5月21日金融・商事判例1293号12頁)がある。これらでは、取締役の責任について以下のとおり述べている。
取締役は、会社に対し、取締役会の構成員として他の取締役の職務執行を監視すべき義務を負う(旧商法260条1項、会社法363条2項)が、ある程度の規模の会社においては会社の事業活動が広範囲にわたり、取締役の担当業務も専門化されていることから、取締役が自己の担当以外の分野において、代表取締役や当該担当取締役の個別具体的な職務執行の状況について監視を及ぼすことは事実上不可能である。そこで、取締役の監視義務の履行を実効あらしめるためには、代表取締役および当該業務執行を担当する取締役が、具体的なリスク管理などの内部体制を構築し、個々の取締役の違法な職務執行を監督監視すべきである。
このような判例や学説が会社法における内部統制システムの構築義務として取り込まれたものと考えられる。

(c)コーポレートガバナンスの強化
昨今、コーポレートガバナンスの強化が要請されている。2015年には、東京証券取引所「有価証券上場規程別添」としてコーポレートガバナンス・コードが規定された(2021年改正)。そのなかに「取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきであ」り(原則4-3)、「内部統制や先を見越した全社的リスク管理体制の整備は、適切なコンプライアンスの確保とリスクテイクの裏付けとなり得るものであり、取締役会はグループ全体を含めたこれらの体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべき」(補充原則4-3④)とある。また、コーポレートガバナンス・コードの制定に合わせて、2014年改正会社法施行規則では、内部統制システムの運用状況の概要について事業報告に記載すること(開示義務)が規定された(118条2号)。
すなわち、取締役等は、内部統制システムに関して整備・構築の義務だけではなく、運用・監督の責任をも負っているものと考えられる。
したがって、たとえば、リスクヘッジ目的のデリバティブ取引等については、社内ヘッジ方針の制定と順守が必要であろう。さらに、投資商品や運用目的のデリバティブ取引については時価ベースでのリスク管理と損益管理などに関する規程類の制定と順守が財務等の担当取締役に求められるが、会社経営に与えるインパクトの大きさに応じて取締役会に報告され、取締役会が監督すべきである。そのため、担当する取締役や執行役だけではなく、取締役全員に金融商品や会計制度などの知識が求められるといえる。

◇客員フェロー 福島良治

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