知っておきたい金融商品知識 第71回 ~地球温暖化対策について-省エネ法、温対法、GX推進法(1)~
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地球温暖化対策について-省エネ法、温対法、GX推進法(1)
近時、平均気温の上昇や異常気象など憂慮すべき自然現象が頻発しており、その原因と言われる炭素ガスなどによる地球温暖化への「国際社会全体での対応」が強く求められている。さまざまな対策が講じられていたり、計画されていたりしているが、多くの規制や基準、これらに関する数多く用語があり、整理しきれないのが実情ではないだろうか。本連載ではこれらをできるだけ整理しつつ、日本の企業としてどのように対処すべきかを考察している。
今回から日本における温暖化対策に関してどのような法制度があるのかを調べて、企業としてどう対応すべきかを考察していきたい。
なお、具体的な検討や適用にあたっては、当該分野に習熟した弁護士等の専門家と相談する必要がある。参考文献等については本文末に掲示し、本文中では略記(氏名、発表年等)したい(項番は前回に続けます)。
6.省エネ法、温対法、GX推進法
(1)重要な3つの法律
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言した。これは、2015年のCOP21で採択されたパリ協定で「2020年以降の世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く、1.5度に抑えるよう努力すること」が決まり、各締約国はこの努力目標に向けて2030年までに自国の温室効果ガス排出量を削減する目標を設定し、それに基づいて具体的な行動を取ることが求められたことを受けたものだ(本連載第58回参照)。この目標を達成するために必要な施策を講じるための主な法律として、1979年制定(2022年改正)のエネルギー使用の合理化を促進する「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」(改正前の名称は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」)(省エネ法)、1998年制定(2024年改正)された温室効果ガス排出削減の目標設定や削減義務を定める「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)、そして2023年に策定されたGX(グリーントランスフォーメーション)社会の実現を目指す「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」(GX推進法)などがある。
省エネ法(経済産業省ならびに対象工場、業種および荷主の各事業所管省庁が担当)はエネルギー使用の効率化と非化石エネルギーへの転換に焦点を当てているが、温対法(環境省、経済産業省及び対象事業所管省庁が担当)は排出削減全体を目的としており、それらに対してGX推進法(経済産業省所管)は脱炭素と経済成長の両立を目指し、より広範な施策を展開しようというものだ。
(2)省エネ法
省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)は、日本におけるエネルギーの多くが石油等の化石燃料で占められることからその利用の合理化、そして水素等の非化石燃料への転換を図り、両方のエネルギー使用の合理化を図ることを目的とするものである。地球温暖化対策として重要な非化石エネルギー発電等においては太陽光等の供給量の変動が大きいという課題があり、それを利用する事業者側の電気の需要を最適化すること(DR:Demand Response)が欠かせない。したがって、2022年、省エネ法では「すべてのエネルギーの使用を合理化」「使用エネルギーの非化石エネルギー転換」「電気の需要最適化」を盛り込んだ内容に改正されたのだ。
省エネ法はカーボンニュートラル等の地球温暖化対策のための直接的な削減義務等を企業に課するものではないが、目的を実現するための手段として、一定規模以上の特定事業者等に、エネルギーの使用状況等についての定期的報告と省エネや非化石転換等に関する取組の見直しや計画の策定等を義務づける。
また、特定事業者等に義務づけられる定期的報告事項のなかにエネルギーの使用に伴って発生するCO2排出量が含まれることでその抑制を図ろうとしていると考えられる。
イ.対象とするエネルギー
省エネ法が合理化の対象とするエネルギーは、以下の通りの燃料、熱、電気である。
・化石エネルギー
石油、揮発油、可燃性天然ガス、石炭等
・非化石エネルギー
黒液(木材パルプ廃液)、木材、廃タイヤ、廃プラスチック、水素、アンモニア、非化石熱(太陽熱、地熱)、非化石電気(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等による発電)
ロ.対象となる事業者
省エネ法がエネルギー使用者へ直接規制する事業分野としては、工場・事業場及び運輸分野がある。具体的な対象企業は図表のとおり、工場等(工場又は事務所その他の事業場)の設置者や輸送事業者・荷主であり、これらすべての事業者に対し、省エネ取組を実施する際の目安となるべき判断基準を示すとともに、一定規模以上(原油換算エネルギー1,500kl/年以上の事業者、保有車両トラックまたはバス200台以上またはタクシー350台以上、または総船腹量2万総トン以上、または総最大離陸重量 9,000トンの輸送事業者、年間輸送量3,000万トン・km以上の荷主)の特定事業者等にはエネルギー使用状況等を報告させ、取組が不十分な場合には指導・助言や合理化計画の作成指示等を行うというもの。特定事業者等はエネルギーの使用の合理化をしつつ、非化石エネルギーへの転換に関する中長期計画を作成し、その使用状況などの定期報告も求められるのだ。なお、特定事業者等に該当するかなどに必要な原油換算計算については、資源エネルギー庁省エネポータルサイトに原油換算ツールが提供されている(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/factory/procedure/file/keisan_tool.xlsx )。
特定事業者は従前から、電気の需要の平準化を目的として昼間・夜間・平準化時間帯(夏期・冬期の昼間)に分けた電気使用量を報告していたが、2022年改正により電気の需要の平準化だけではなく、最適化も求められるようになった。すなわち、「電力の需要シフト」や「電力需給ひっ迫時の需要抑制」を促すため、再生可能エネルギー余剰時等に電力需要を増加させる「上げDR(Demand Response)」や電力需給ひっ迫時に電力需要を抑制する「下げDR」の実績報告も求められるようになった。具体的には、月別(1か月単位)または時間帯別(30分または60分単位)の電気使用量およびDRを実施した日数を報告するのである。
また、エネルギー使用者への間接規制として、機械器具等(自動車、家電製品や建材等)の製造又は輸入事業者を対象とし、機械器具等のエネルギー消費効率の目標を示して達成を求めるとともに、効率向上が不十分な場合には勧告等が行われる。
(図表)省エネ法が規制する分野

(省エネポータルサイト 経済産業省資源エネルギー庁ホームページより)
エネルギー使用量1,500kl/年以上になる事業場を具体的にイメージすると、小売店では床面積合計約 3 万㎡以上、コンビニエンスストアでは30~40店舗以上、ファミリーレストランでは15店舗以上、オフィス・事務所では使用電力量約600万kWh/年以上、ホテルでは客室数300~400規模以上になる。
(参考文献)
「省エネ法の手引き 工場・事業場編-令和5年度改訂版-」(経済産業省資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/data/shoene_tebiki_01.pdf
「同省エネ法の手引き 荷主編-令和5年度改訂版-」(経済産業省資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/data/shoene_tebiki_02.pdf
「令和6年度 省エネ法説明会~運輸部門の現況と省エネ法の概要~」(国土交通省総合政策局環境政策課)
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/content/001611576.pdf
◇客員フェロー 福島良治