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知っておきたい金融商品知識 第52回 ~東京証券取引所が提唱したPBR1倍超え対応について(6)~
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東京証券取引所が提唱したPBR1倍超え対応について(6)

東京証券取引所は昨年3月、プライム市場およびスタンダード市場の全上場会社約3,300社を対象に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請した。とくに、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込む企業への改善要請である。その後、多くの上場会社において取組みが進められ、わが国の株価上昇のきっかけになったと評価されている。
さらにその約1年後に東証は「投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例」(以下、東証2024.2と記す)を公表した。その背景として東証は、「中⻑期の企業価値向上を重視する投資者(アクティブファンドなど)を中⼼として、計90社超(国内約3割、海外約7割)の投資者と面談を実施」した結果、「国内外の株主・投資者からは、各企業の取組みの更なる進展を期待する声が多く寄せられて」いるからだとしている。アクティブファンドなどの意見を重視するのは如何なものかとは思うが、確かに、東証2024.2には首肯できる点が多くある。
東証の現状分析では、以下の3点が期待されているとしている。
① 投資者の視点から資本コストを捉えること
② 資本収益性や市場評価に関して投資者の視点を踏まえて取締役会で多面的に分析・評価すること
③ 中⻑期的な企業価値向上に向けた「経営資源の適切な配分」、すなわち自社のバランスシートが効率的な状態となっているかを点検すること
前回は①に関してCAPMなどの資本コストを巡る議論を概観した。今回は②、③について考察したい(項番は前回に続けます)。
なお、参考文献については本文末に掲示し、本文中は略記(氏名(発表年))する。

6.投資者の視点を踏まえた対応が求められる経営

(1)東証による現状分析

(b)取締役会における多面的な分析・評価
資本収益性やPBR等の市場評価を巡って東証は、単に足元の株価純資産倍率(PBR)が1倍超か、自己資本利益率(ROE)が8%超かだけでなく、多面的な分析・評価が期待されるとした。
東証では「そもそもPBRが1倍を超えていたり、ROEが目標値を超えている場合は、特に対応の必要はないと考え、それ以上の検討は行わない」というものを投資家目線とのギャップが生じている恐れがある実例としている。それら指標は、あくまで1つの目安であり、投資者の視点を踏まえた多面的な分析・評価、積極的な取組みが期待されると言っている。東証2024.2は、その意図する理由は明らかではないが、当然と言えるものの以下のように考えられるだろう。
わが国の人口減少、少子高齢化、そして海外企業と比較してイノベーションが劣勢にある状況などを踏まえると、持続的経済成長を果たしていくには企業の自立的発展が必要であり、資本市場からの潤沢な資金調達が重要なことはいうまでもない。そのためには企業経営者が、投資家などのステークホルダーに成長戦略を示す必要があり、その前段階として取締役会が現状の資本収益性と市場評価を分析しなければならないということだ。
東証2024.2では、分析事例として「資本収益性」と「市場評価」に関するマトリクスの中で自社のポジションを確認することや、そのマトリクスを含めて同業他社との比較や時系列の分析を⾏なうことを有効な手段として提示している。ほかにも1つの企業でも部門(セグメント)ごとにROICとROEの比較を行なうことで、セグメントごとの利益を増加させる施策を提示している例が挙げられている。
資本収益性(ROE、ROIC等)と市場評価(PBR、PER等)に関するマトリクスは、この2つの組み合わせ(4象限)でそれぞれ高・低の4つの組み合わせを作り、分析するというもの。たとえば、「資本収益性=⾼」「市場評価=低」ならば、資本コストを超える資本収益性を達成しているが、投資者からは成⻑性が乏しいと⾒られている可能性があり、自社で認識している資本コストが投資者の認識より低いことが原因になっている可能性があると分析している。

(c)効率的バランスシートの点検
東証2024.2では、次に、投資家から「バランスシートをベースとする資本コストや資本収益性を意識した経営を実践することが期待」されていることから、取締役会が「自社のバランスシートが効果的に価値創造に寄与する内容となっているか、定期的に点検を⾏うことが期待」されているとする。それは、やはり資本市場から潤沢な資金を調達するためには、その資金を効率的・効果的に利用する経営がなされてリターンを着実にあげること、そしてそれを投資家に示すことが期待されているからだろう。
バランスシートをベースにするというのは、従来の経営計画でよく見られた売上げや利益の向上などのPL上の指標を説明するだけでは物足りないということだ。そして、たとえば、過剰な現預⾦を抱えていないか、収益獲得の観点から必要な資産構成になっているか、適切なセグメントに配分しているかといった点について点検を⾏うこと、また、その点検結果について改善が行われていたり、株主・投資者にわかりやすく示されていることが有効だとしている。
 
(参考文献)
東京証券取引所「投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例」2024.2.1
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20240201-01.html

◇客員フェロー 福島良治

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