CONTENTSコンテンツ

知っておきたい金融商品知識 第46回 ~航空会社に視る燃料費リスクマネジメント事例(3)~
  • 知っておきたい金融商品知識
  • 金融商品コラム
  • ファイナンス・法務・会計・レギュレーション

航空会社に視る燃料費リスクマネジメント事例(3)

企業はさまざまなリスクにさらされており、必要に応じてこれらをヘッジすることが求められる。とくに石油や天然ガス等のエネルギー・デリバティブを燃料費のヘッジに利用する企業は多い。電力、ガスなど文字通りのエネルギー業界はもちろん、海運、航空会社(空運)、バス・トラック等の陸運などの運輸関連企業ほかさまざまな企業の企業価値にとって、燃料費をいかにコントロールするのかが財務をはじめとする企業価値に大きな影響を及ぼすことはいうまでもないことであろう 。
前回に続いて、デリバティブ取引による積極的なヘッジ戦略を活用していることで有名な航空会社ルフトハンザ・グループ(以下、L社という)の事例を具体的に考察したい(項番は前回に続けます)。
なお、参考文献については本文末に掲示し、本文中は略記(氏名(発表年))する。

2.航空会社のヘッジ戦略

(2)デリバティブ取引の選択

エネルギー・デリバティブにもスワップ取引やオプション取引がある。スワップ取引や先物を用いて変動価格を固定化すると、価格上昇リスクをヘッジできる。本連載で何度も議論してきたように、ヘッジ会計を適用し、また長期的には収支の振れを抑制することが企業価値を高める。
L社では、スワップ取引はプレミアムが不要だが割高になることがあり、オプション取引はプレミアムが必要であっても、極端なシナリオでのインパクトを抑制できる点にメリットがあると考え、以下の通りカラーオプションを利用している(Polzin 2008)。

イ.カラーオプション
原油のカラーオプション(図表1)は、一定の上限値を定めて、原油価格がこれを超えたら取引相手から差額を受け取れるコールオプションの購入と、そのために支払うプレミアムを一部削減するために、一定の原油価格下落メリットを放棄するプットオプションの売却を組み合わせたデリバティブ取引である。

(図表1)原油デリバティブ・カラーオプションのイメージ図

(図表2)L社の燃料カラーオプションのイメージ図

(出所)L社2022年アニュアルレポート等より筆者作成

L社では、前回見たようにこのカラーオプションを24カ月前から18カ月にわたって全体の75%程度を数%ずつ分割して行う。ただし、単純なカラーオプションではなく、図表2のようなオプションの複雑な組み合わせを行っている(2022年12月現在)。このグラフからは、1バレルあたり90米ドルを損益分岐点と考えているようで、90ドルのコールオプションを購入しているが、購入燃油量の全部ではなく半分程度をヘッジしているように思われる(コール購入後グラフがフラットではなく、市場実勢価格との間に角度をもって描かれている。以下、すべての取引が全額ではなく部分的な量となっている。ただし、分割ヘッジを行っていることから取引量や損益分岐点の調節が実際にこのようなグラフになるかは不明である)。このコールオプションを購入するための支払プレミアムを節減するため、まず135ドル前後のコールオプションと90ドル前後のプットオプションを売却している。また、55ドル前後のプットオプションを購入しているが、これは、現物価格の下落メリットを逃さないためだ。L社では、このような3段階のカラーオプションの組み合わせを3WAYと呼び、4段階にすると4WAYと呼んでいる。
推測にすぎないが、市場価格が90ドル以下に下落した場合は、やはり安くなった現物価格を享受したいし、135ドル以上に上昇した場合は、燃油サーチャージを確保できる環境になると判断しているのであろう。なお、135ドルでコールオプションを全額売り戻しているが、135ドル以上に原油価格が上昇した場合であっても購入したコールオプションの損益分岐点(またはストライクレート)である90ドルとの差額45ドルの半分の22~23ドル(想定元本の半量ヘッジだから)は、市場実勢価格よりも有利になることは留意する必要があろう。

ロ.クラックスプレッド
前回述べた通り、L社では燃料購入6カ月前にいたると、毎月6.5%程度の割合(トータルで40%程度)でケロシン価格と原油価格の差(crack spread)を埋めるオプション取引を購入している(2022年12月31日時点での2023年予想必要量の39%がヘッジされている)。このクラックスプレッドを埋めるオプションとして、L社はコリドーオプションを用いていると公表している。具体的な利用方法は明らかではないが、図表3のようなイメージになるものと思われる。

(図表3)クラックスプレッド・コリドーオプションのイメージ図

燃料のケロシン価格と原油価格の差が発生すればキャッシュがもらえるようなコールオプションを購入するのだが、その差が大きくなってしまうレベルでは、コールが外れるように売却するというものである。コールの売りによって受け取るプレミアムで、コールオプション購入に必要なプレミアムを幾ばくかは削減できるという仕組みである。

(参考文献)
 Polzin, Hans-Werner, “Lufthansa’s approach to manage the Oil Price Volatility,” Worldbank Forum "Oil Price Volatility, Economic Impacts and Financial Management,” March 2008.(ネットで検索したが、残念ながら現時点では探しあてることができなくなっている)

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第47回 ~東京証券取引所が提唱したPBR1倍超え対応について(1)~