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知っておきたい金融商品知識 第5回 ~会計基準における時価の算定方法~
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会計基準における時価の算定方法

今回は、金融商品、とくにデリバティブ取引の時価の算定方法について、時価算定会計基準および適用指針等に沿って見ていきたい。
従来の金融商品会計基準等においては、時価(公正な評価額)の算定が求められているものの、算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていなかった。一方、国際会計基準審議会(IASB)のIFRS13号や米国財務会計基準審議会(FASB)のASC:Topic 820では、公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスを定めており、日本でも時価算定基準等により、時価の算定方法に関する「評価技法」、そしてとくに評価の要素となる「インプット」レベルについて新たな規定を設けたのである(2021年4月以降の会計年度適用)。
この時価算定会計基準の基本方針は、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させるため、これまでのわが国の実務等に配慮した一定の例外も認めているが、IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れられている。したがって、かなり難解な内容となっていることは否めない。
(各会計基準や適用指針等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談ください。)

1.評価技法

時価の算定は、状況に応じて十分なデータが利用できる評価技法を用いるこことされる。すなわち、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にするとされる(時価算定基準8項)(インプットについては次回解説する)。
評価技法には以下の3つのアプローチが例示されている(時価算定適用指針5項)。

①マーケット・アプローチ:同一または類似の資産または負債に関する市場取引による価格等のインプットを用いる評価技法。
②インカム・アプローチ:将来のキャッシュフロー等に関する現在の市場の期待を反映する割引率等を用いた現在価値を示す評価技法。現在価値技法やオプション価格モデルが含まれる。
③コスト・アプローチ:資産を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法。

このなかでデリバティブ取引に用いられるのは、②インカム・アプローチである。ただし、長いあいだデリバティブ取引業務に携わってきた筆者としては、この名称を意識したことはなかった。おもにM&Aなどの企業価値算定で使われる用語のようであり、IFRS13号で用いられているため、そのまま翻訳されたものと思われる。インカム・アプローチ、すなわち現在価値技法やオプション価格モデルを利用する場合には詳細な留意点が規定されている(時価算定適用指針35項)。基本的には、プロとしての市場参加者の観点ですべての要素を考慮することになる。

現在価値技法については、以下の3つの方法が例示されている。

① 割引率調整法:契約等により確実性が高いと見込まれる単一のキャッシュフロー(例えば、債務不履行の発生は見込まないでよい)とリスク調整後の割引率を用いる方法。この割引率は、市場で取引されている類似の資産または負債についての観察可能な利回りから算出する。たとえば、満期までの期間等が同程度の他社の社債等金融商品の利回りが市場で観察される場合は、その利回りを用いて割引率を算出する(時価算定適用指針35項(5)・設例3参照)。
② 期待現在価値法(確実性等価法):リスク調整後の期待キャッシュフローと信用リスクフリーレートを割引率として用いる方法。
③ 期待現在価値法(リスク調整法):リスク調整を行わない期待キャッシュフローと、市場参加者が要求するリスクプレミアムを含めるように調整した割引率(①で用いる割引率とは異なるとされるが、信用リスクプレミアムをスプレッドとして加算することと考えられる)を用いる方法。

②と③は同じ結果になる。時価算定適用指針の設例4によると、まず両者とも将来のキャッシュフローについて以下の通り3つのシナリオをおいてその期待値を算出する。

②は、これに債務者のリスクを調整して、期待キャッシュフローから差し引く。たとえば、リスクフリーレート5%、債務者のリスクプレミアム3%の場合、

時価は、このリスク調整後の期待キャッシュフロー758百万円をリスクフリーレート5%で割り引いた(1+5%で割る)722百万円になる。
③は、期待キャッシュフロー780百万円をリスクプレミアム込みのレートで割り引いた(1+5%に3%を加えて割る)で722百万円になる。

ところで、②と③で必要となる期待キャッシュフローを正確に計算することが本当に可能であろうか。たとえば3つのシナリオの設定自体やそれらの確率を判定することは至難の業と言える。これらは、オプション取引におけるキャッシュフローについて金融工学上の数理モデルを用いて計算することを簡便に表現したものと理解したい。結果的にほとんどの企業で、①が利用されるものと推察される。ただし、一般事業法人が自身でこのような方法によりデリバティブ取引の時価を算定することは、かなり困難なのではないかと思われるが、一定のデリバティブ取引について、金融機関等第三者から入手した相場価格を利用する場合の要件が緩和されている(次回参照)。

◇客員フェロー 福島良治

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