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知っておきたい金融商品知識 第4回 ~金融商品の時価の定義~
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金融商品の時価の定義

今回は、デリバティブ取引をはじめとする金融商品の時価とは何か、時価とはどう考えたらよいのかについて時価算定会計基準等に沿って見ていきたい。
(各会計基準や適用指針等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談ください。)

1.時価定義のルール

時価とは公正な評価額をいい、かつての金融商品会計基準や実務指針では「市場価格に基づく価額」および「合理的に算定された価額」(手仕舞いコスト、オファービッド、信用リスク等を勘案する)とされていたが、その算定方法に関する詳細なガイダンスは定められていなかった。しかし、2019年7月に公表された「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」)およびその適用指針等により、時価の定義とその算定方法が明確に定められ、まさに本2021年4月1日以後開始した連結会計年度および事業年度の期首から適用されることになっている。国際会計基準審議会(IASB)や米国財務会計基準審議会(FASB)では、すでに公正価値測定について詳細なガイダンスを定めており、これらの規定は日本基準を国際的に整合性のあるものにするためのものである。会計基準でいう「時価」は、IFRS 第13 号や米国会計基準(US GAAPのASC)Topic 820における公正価値(Fair Value)と同義と考えてよい(23~25項など)が、以下に述べるさまざまな論点に留意する必要がある。

時価算定会計基準では「時価とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格をいう」と定義されている(5、31項)。なお、ここでいう「秩序ある取引」とは、通常かつ慣習的な市場における活動ができるように時価の算定日以前の一定期間において市場にさらされていることを前提とした取引をいい、例えば、強制された清算取引や投売りは、秩序ある取引に該当しないとされている(4項)。

2.取引価格または相場価格が時価を表しているかの評価

資産または負債の取引の数量または頻度(いわゆる流動性)が当該資産または負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合、取引価格または相場価格が時価を表しているかどうか評価しなければならない(時価算定基準13項)。

流動性の著しい低下について様々な要因(時価算定適用指針16項に例示されたもの。図表1)から取引価格または相場価格が時価を表していないと判断し、さらに秩序ある取引でもないと判断する場合(同41項に例示されたもの。図表2)、当該取引価格または相場価格は他の入手できるインプットほどには考慮しないことになる(同17(1))。流動性が著しく低下しても秩序ある取引を否定するものではないと判断する場合、当該取引価格を時価算定の基礎として用いるが、その程度は状況に応じたものになる(同17(2))。

当該取引価格または相場価格が時価を表していないと判断する場合(取引が秩序ある取引ではないと判断する場合を含む)にこれらの価格を時価を算定する基礎として用いる際には、これらの価格について市場参加者が当該キャッシュフローに固有の不確実性に対する対価として求めるリスク・プレミアムに関する調整を行う(時価算定基準13項)。なお、流動性が低下したのみだけでは「秩序ある取引」を否定するものではないとする(40項)。また、時価の算定に当たっては企業の意図は考慮されない(時価算定基準43項)。

図表1 流動性が著しく低下している要因例(時価算定適用指針16項)

① 直近の取引が少ないこと
② 相場価格が現在の情報に基づいていないこと
③ 相場価格が時期または市場参加者間で著しく異なっていること
④ これまで資産または負債の時価と高い相関があった指標が相関しなくなったこと
⑤ 企業の将来キャッシュフローの見積りと比較して、相場価格に織り込まれている流動性リスク・プレミアム等が著しく増加していること
⑥ 買気配と売気配の幅が著しく拡大していること
⑦ 同一または類似の資産または負債についての新規発行市場における取引の活動が著しく低下しているかまたは当該市場がないこと
⑧ 公表されている情報がほとんどないこと

図表2 秩序ある取引ではない事例(時価算定適用指針41項)

① 現在の市場環境の下で、当該取引に関して通常かつ慣習的な市場における活動ができるように、時価の算定日以前の一定期間について取引が市場に十分さらされていないこと
② 通常かつ慣習的な市場における活動の期間があったが、売手が一人の買手としか交渉していないこと
③ 売手が破綻または破綻寸前であること
④ 売手が規制上または法的な要請から売却せざるを得ないこと
⑤ 直近の同一または類似の取引と比較して、取引価格が異常値であること

取引の流動性が著しく低下している場合には、「評価技法」の変更または複数の「評価技法」の利用が適切となる可能性がある(時価算定基準42項)。

できるだけわかりやすくなるように会計基準と適用指針を織り交ぜて解説したのだが、非常にわかりにくいルールである。しかし、たとえばリーマンショック時のように相場が急変動して、流動性が極端に低下した場合には、結局は算定に用いるインプットを複数もち、そのレベル(次回以降解説する)を下位の3で処理して、注記で開示することになるものと思われる。相場の急変動はなく、単に流動性の低い取引や商品の場合は、時価算定適用指針[設例8]のように関連性のあるデータをインプットしてリスク・プレミアムを調整した算定を行うことになる。

3.出口価格を用いる

時価は、算定日における出口価格であって、入口価格ではないとされる(時価算定基準31項)。出口価格とは、資産の売却によって受け取る価格または負債の移転のために支払う価格であり、まさにすでに保有する資産・負債をバランスシートから外すときに必要とされる対価といえよう。これに対して、入口価格とは、交換取引において資産を取得するために支払った価格または負債を引き受けるために受け取った価格とされる。

4.算定単位

金融商品については、個々の商品自体が契約単位であり、時価算定の単位である。
ただし、「一定の要件」を満たす場合には、特定の市場リスクまたは特定の取引相手先の信用リスクに関して金融資産および金融負債を相殺した後の正味の資産または負債を基礎として、当該金融資産および金融負債のグループを単位とした時価を算定することができることとされた(時価算定基準7項)。なお、本取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用し、重要な会計方針において、その旨を注記する。

「一定の要件」とは、当該契約グループに関する適切なリスク管理の実施(同項(1)(2))、貸借対照表上で時価評価していること(したがって、金利スワップ取引の特例処理および予定取引以外の為替予約等の振当処理を除く)、特定の市場リスクに関しては同一のリスク特性であり、期間がほぼ同一であること、特定の信用リスクに関してはネッティング契約や担保契約の適用を時価反映することである。最後の信用リスクに関するところは、たとえばCVA(Credit Valuation Adjustment)を求めるということになる。

金融機関にとってCVAは、デリバティブ取引の重要な要素であり、バーゼル規制(銀行自己資本比率規制)でも勘案されなければならない。これに対して、一般事業法人にとってCVAを算定することは難しいものと思われる。しかし、2019年の本会計基準等の案文公開時に広くコメントが求められたが、そのなかに「従来の「自らの信用リスクや相手先の信用リスクを時価に反映すること(CVA/DVA)が実務上困難な場合には、重要性があると認められる場合を除いて、これらを加味しないことができる」(旧金融商品実務指針第293項)とする取扱いを継続すべきである。」との意見があった。これに対して企業会計基準委員会は、改正基準等では一般的な重要性の基準の適用はありうるものの、実務上困難な場合を想定していないと回答されている(コメント27項)。そうすると、逆に「重要性の基準」の観点から除外してもいいのではないかと考えられるが如何であろうか。

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第5回 ~会計基準における時価の算定方法~