知っておきたい金融商品知識 第3回 ~デリバティブ取引会計制度のルールを確認して全体を把握する~
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デリバティブ取引会計制度のルールを確認して全体を把握する
今回はデリバティブ取引をはじめとする金融商品に関わる時価会計の全体像を見ていきたい。とくにどのようなルールがあるのかを把握することが重要であり、公認会計士、監査法人、税理士等と議論する場合にも必須の知識である。また、何度か改正されたものもあり、最新のバージョンを認識しておくことも必要だ。ただし、かなり大部な規程類であり、次回以降、具体的な内容をみていく中で適宜各ルールの該当部分に言及していきたい。
1.金融商品会計処理のルール
デリバティブ取引の会計処理の主要部分については、1999年1月22日に企業会計審議会から公表された「金融商品に係る会計基準」(以下、金融商品会計基準という)および「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」に依拠する。数度改正され、現在(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から)は2019年7月に改正された「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準委員会/企業会計基準10号)が使用されており、時価の算定部分については同じく2019年7月に制定された「時価の算定に関する会計基準」(同/企業会計基準第30 号)へ分離編成されている(なお、これら基準の適用指針も重要である。デリバティブ取引に係る主な会計基準、適用指針および実務指針等については図表1を参照)。なお、企業会計基準は、金融商品取引法5条、財務諸表等規則1条を根拠規定とするもので、上場企業等はこれに従わないといけない。
そして、実務上は2000年1月に日本公認会計士協会が作成した会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に係る実務指針(中間報告)」(数度改正され、現在は2019年7月に改正された「金融商品会計に関する実務指針」が使用されている。以下、実務指針という)および「金融商品に関するQ&A」(以下、Q&Aという)を文字どおりその指針として準拠することとなる。なお、詳細については図表1にURLを掲示したので原文にあたられたい。
2001年3月期決算から施行されている本制度の導入経緯については前回解説した。その後も、2006年に「その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理」が追加、2008年に「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」が制定され、ヘッジ会計が適用されているデリバティブ取引についても定量的情報の開示を求められることなった。そして国際財務報告基準IFRS(2010年からわが国の企業でも任意適用)において2018年度以降開始された金融商品に関するIFRS9号に対してわが国の会計制度を整合性あるものにするため、2019年に「時価の算定に関する会計基準」が制定される等、関連ルールが大きく改正されたのである。
図表1 デリバティブ取引に係る主な会計基準、適用指針および実務指針等 |
2.時価会計の全体像
デリバティブ取引等金融商品は、時価評価を徹底(原則として、期末時価を貸借対照表(B/S)に計上し、損益および前期末との時価差額を損益計算書(P/L)に計上)し、金融商品の価格変動リスクを反映した会計処理を原則としている。そして、そのことによって株主等ステークホルダー重視のコーポレートガバナンスを図っている。また、主にデリバティブ取引に関しては、時価会計の例外としてヘッジ会計を導入しており、さらに金利スワップの特例処理を認めている(図表2参照)。デリバティブの組み込まれている複合金融商品は、原則は一体処理だが、原資産とデリバティブとの関係に応じて、元本毀損が発生するおそれのあるもの、またはその可能性の低いとはいえないものは区分して処理されることとなる。
デリバティブ取引より生じる正味の資産・負債および繰延ヘッジ会計により発生した繰延勘定は、資産または負債および純資産の合計額の100分の5を超えるものについては、その内容を示す名称を付した科目の掲記が必要である(「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)19条5項、50条4項)。
図表2 デリバティブ取引の時価(または時価差額損益)の原則的処理
*連結財務諸表では「その他包括利益」に計上 **金利スワップの特例処理および為替予約等の振当処理(予定取引をヘッジ対象としている場合を除く)については、ヘッジ対象と一体として、当該ヘッジ対象の時価に含めて注記することができる。 |
◇客員フェロー 福島良治