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知っておきたい金融商品知識 第44回 ~航空会社に視る燃料費リスクマネジメント事例(1)~
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航空会社に視る燃料費リスクマネジメント事例(1)

企業はさまざまなリスクにさらされており、必要に応じてこれらをヘッジすることが求められる。前回まで、企業活動におけるキャッシュフローをデリバティブ取引により安定化させることで企業価値が向上するということを理論研究などにより考察した。
具体的実例としても、石油や天然ガス等のエネルギー・デリバティブを燃料費のヘッジに利用する企業は多い。電力、ガスなど文字通りのエネルギー業界はもちろん、海運、航空会社(空運)、バス・トラック等の陸運などの運輸関連企業ほかさまざまな企業の企業価値にとって、燃料費をいかにコントロールするのかが財務や企業価値に大きな影響を及ぼすことはいうまでもないことであろう 。
そこで今回から、デリバティブ取引による積極的なヘッジ戦略を採用していることで有名な航空会社の事例を考察したい。そこでは、自社のリスクやコストを詳細に分析したうえで、市場取引であるデリバティブを導入するにあたって時間分散等の考え方を取り入れていることがわかる。
なお、参考文献については本文末に掲示し、本文中は略記(氏名(発表年))する。

1. 燃料費リスクの基礎概念

以下に記述する内容については本サイトの読者の皆様にとって周知のこととは思われますが、議論の整理としてご容赦ください。

(1) 燃料費と為替の変動リスク

石油製品は、原油(クルドオイル)から精製され、沸点度合いでガソリン、灯油、軽油、重油などに分留される。なかでもジェット燃料は灯油と同成分でケロシンとも呼ばれ、北米地域ではメキシコ湾岸地域(ガルフコースト)、アジア地域ではシンガポール、欧州ではロッテルダムの市場価格が利用されている。また、ジェット燃料は、ドバイ原油価格に高い相関で推移するものの、原油に比べ現物取引は少ない状況にあり、ドバイ原油価格にかなり高い上乗せ水準にあると考えていいだろう。
航空会社のコスト面でみると、会社によってさまざまであろうが、燃料費は人件費等とならんで営業費用の大きなウエイトを占めている。ANAおよびJALの2022年度決算(各社2023年3月期決算説明会資料)を見てみると、ANAの燃料費・燃料税は3,477億円で営業費用に占める割合が最大の24.6%であり、JALの燃油費は3,870億円で、やはり営業費用に占める割合が24.6%である。
燃料は原油価格等に直接さらされている市場性商品であり、価格の急激な上昇は航空会社の収益に大きなインパクトを及ぼす。しかも、米ドル建てで取引されているため、米国以外の航空会社にとっては為替リスク(日本企業であれば輸入サイドの円安リスク)にもさらされているのである。
ANA2022年度決算では、この2種類のリスクファクターについて、それぞれ燃料油1ドル上昇に対する感応度を34億円、1米ドル1円相当の為替変動による収支感応度(米ドル以外の通貨は1%程度)を39億円として把握していることを公表している。市場リスク管理におけるいわゆるデルタ値である。

(2)燃油サーチャージ

しかし、燃料価格の変動があっても、これを売上、すなわち航空運賃にそのまま反映させることができれば、それは航空会社から乗客にリスクを転化することになる。2001年より国際航空運送協会(IATA)が導入した燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)が、その機能を提供している。ただし、営業上の競争戦略等から同一路線でも航空会社によって燃油サーチャージの額が異なることや国内線等では乗客から徴収しないケースもあり、これで燃料価格変動リスクをすべてヘッジできるわけではない。運賃に対する燃油サーチャージの上乗せにより乗客離れが起こるリスクもある。なお、燃油サーチャージの一般的な指標はケロシンタイプのジェット燃料のスポット価格である。
海運業界では同様の燃料サーチャージBAF(Bunker Adjustment Factor)やCAF(Currency Adjustment Factor)がこれに該当し、国内トラック業界でも燃料(軽油)サーチャージが導入されているが、それぞれ荷主との交渉力次第ということもあるようで、とくに中小企業の多いトラック運送費については公正取引委員会の監視の対象にもなっている。
なお、為替に関しては、米ドル建てで運賃が支払われる場合は、自然とリスクヘッジされていることになる。

2.航空会社のヘッジ戦略

このように営業利益に大きなインパクトを与えるリスクファクターである燃料費の変動リスクを制御することが、航空会社の企業価値を高めるものであるとして、数多くの航空会社がヘッジのためのデリバティブに取り組んでいる。たとえば、すでにCobbs and Wolf(2004)が米国航空会社13社(2003年)を調査したところ、9社が燃料費ヘッジのためのデリバティブ取引を利用し、ヘッジ比率の高い企業ほど売上高比での株式時価総額も大きいことを示している。
次回から、ヘッジに関して積極的な取り組みとその開示を行っているドイツのルフトハンザ航空の事例について見ていこう。同社は、2003年のEnergy Risk Magazineの“Energy Risk Manager of the Year”のEnd User部門賞を受賞している(Energy Risk, Vol.7, No.12, March 2003)。

(参考文献)
Cobbs, Richard and Alex Wolf, “Jet Fuel Hedging Strategies: Options Available for Airlines and a Survey of Industry Practices,” Finance 467-Spring 2004, Kellogg School of Management Northwestern University research paper

◇客員フェロー 福島良治

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