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知っておきたい金融商品知識 第28回 ~個別契約へのリスクヘッジと資産・負債全体へのALMリスクヘッジ(2)~
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個別契約へのリスクヘッジと資産・負債全体へのALMリスクヘッジ(2)

「リスクヘッジ(リスク回避または制御)」という意味は曖昧で、使う立場によって反対の概念にもなる。たとえば、個々の契約における価格変動リスクをヘッジするため先物やスワップ取引を用いたとしても、市場価格が下落してしまうとヘッジ取引だけを取り出してみたら損失が発生することになる。よかれと思って取り組んだものでも失敗だと批判されることもある。
今回も前回に続いて「リスクヘッジ」取引のうちオプション取引のメリットを考察しつつも個別契約の問題点を指摘したい(項番は前回に続けます)。
(各会計基準や適用指針、実務指針、同Q&A等の詳細については本連載第3回にURLを掲示したので原文にあたってください。また、本文における意見は個人的なものであり、計理処理例を含め、それらの具体的適用の可否については関係する監査法人、公認会計士等にご相談のうえ自己責任・自己判断でご対応ください。)

3.オプション取引のメリット

前回確認したように、先物やスワップ取引における取引コストが、オプション取引ではプレミアムに限定されている。
ただし、市場の先物価格よりも有利なストライクレート(先物価格よりも低いストライクレート)でコールオプションを買おうという場合、そのプレミアムは高くつく。ちなみに、市場の先物価格よりも有利なストライクレートにある状況をin the money(ITM)といい、市場実勢よりも外に離れたレベルのストライクレートでのオプションをout of the money(OTM)といい、市場実勢と同じレベルのものをat the money(ATM)という。そして、逆に市場実勢から離れたレベル(OTM)のストライクレートのコールオプションを買うと、ヘッジ効果が生じる可能性は低いのだが、安いプレミアムで済む。オプションが便利なのは、ストライクレートを自由に設定できることである。
ちなみに、Froot他の論文(Froot, Kenneth, D. Scharfstein and J. Stein, “Risk management: Coordinating corporate investment and financing policies,” Journal of Finance, December 1993, Vol.48, No.5, 1624 – 1658.)は、先物などの手段によるヘッジよりもオプションのようなヘッジの方が、投資とそのための資金をうまく調整できるとしている。たとえば、ストライクレートからより遠い距離にある(deepな)OTMのプットオプションを購入することで投資プロジェクトのデフォルト・リスクをヘッジしつつ、積極的な戦略(ITMのコールオプションの購入等)を実施できるからだ。すなわち、個々の金融取引のリスクではなく企業価値全般のリスクヘッジを考える際には、コストと効果との見合いで、ストライクレートから遠いOTMのオプションを近いOTMやATMまたはITMのものと組み合わせることが有効な場合があり、そこではスワップや先物よりもオプションの方が有効に機能する。たとえば、景気がよくなって原材料価格が上昇を始めても、それに売上の増加が即座には対応しないが、景気が安定的に拡大した場合には売上が急上昇するような企業が多いのではないか。そういう企業は、一定のヘッジ行為やヘッジ比率に拘泥する必要はない。

(図表)コリドー・オプション取引(半額売却)のペイオフ例

具体的には、図表のとおり、当面の原材料価格上昇に備えるためにATM(ストライクレート1)のコールオプションを買って、そのレベルでの上昇リスクヘッジを行うのだが、より高いレベルのOTM(ストライクレート2)のコールオプションをその金額(またはその半分等の金額)分、売却するのである(コリドー・オプションという)。そうすると、ストライクレート2以上に価格が上昇した場合は、ヘッジ効果が減殺されてしまうのだが、景気拡大が軌道に乗って、本業の利益が拡大しているため問題なしと考えるのである。このように一部のOTMオプションを売却することで、一定以上の不要な価格上昇リスクヘッジを削減して、売却オプションから受け取るプレミアムで支払プレミアムを少し節減することができる。

4.契約別の金融取引をヘッジする場合の問題点

個別契約取引の価格上昇リスクヘッジ取引(価格固定化スワップやコールオプション)は、支払い価格の上限を設定し、支払金額の総和を抑制することになる可能性が高いので、結果的には企業価値を高めるのに有効であるケースが多い。一方で、コールオプションの買いによるヘッジは、効果が出てくる前にプレミアムを支払うことがハードルになっているケースもある。また、オプションの買いの場合、ヘッジコストは支払いプレミアムに限定されるが、目に見える形でのヘッジ効果を得るためには一般的にATMまたはITMのオプションを購入する必要があり、そうすると支払うプレミアムが大きくなってしまうため、やはりコストを意識してヘッジに抑制的になってしまうことも多い。
この問題をある程度まで解決するのがALM(Asset Liability Management)である。

◇客員フェロー 福島良治

知っておきたい金融商品知識 第29回 ~個別契約へのリスクヘッジと資産・負債全体へのALMリスクヘッジ(3)~