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リスク管理最前線 第72回 〜債券市場分析(パート4)イールドカーブ実務編 作成時の実務上の留意点と債券市場への応用〜
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債券市場分析(パート4)
イールドカーブ実務編 作成時の実務上の留意点と債券市場への応用

前回まででイールドカーブ作成の一般的な手法として、インターバンクレートを使用して、期近から期先へ順番に各時点のディスカウントファクターを求めるブートストラップ法を紹介しました。今回はイールドカーブ作成時の実務上の留意点と債券市場への応用についてご紹介します。

イールドカーブの補間手法


イールドカーブ構築に用いる金融商品は限られた満期時点のものしか存在しないため、それ以外の時点のディスカウントファクターを求めて連続した「カーブ」を作成するためには、補間(interpolation)が必要で、さらに観測できる最長満期時点以降のカーブについては外挿(extrapolation)が必要です。補間及び外挿にはいくつかの手法があります。

線形補間は、最も単純な手法で、2時点間のディスカウントファクターあるいはスポットレートを直線的に補間する手法ですが、カーブが滑らかにならず、また、フォワードレートカーブがギザギザになることもあるため、実務的ではありません。

ステップ補間は、区間毎のスポットレートやフォワードレートを一定として取り扱う手法で、以前は金融機関のALMモデルで金利感応度の定量化で使用されることもありましたが、金利カーブが不連続になることから、金融商品のプライシングや時価評価に用いる目的のイールドカーブでは基本的に使用されていません。

指数補間は、ディスカウントファクターを対数線形補間(対数を線形補間)する手法で、比較的滑らかなカーブとなり、フォワードレートも正になりやすく(後述する無裁定性の要件)、実用的といえます。

スプライン補間は、観測点間を3次関数の曲線でつなぐ手法で、大変滑らかであり、スワップの期間構造を近似しやすいと言われており、実務でも一般的に用いられています。ただし、市場に歪みが生じた場合等にカーブが波打つ問題が生じることがあり、その際は別の手法を併用する等の対処が必要です。

スミス・ウィルソン法は、終局フォワードレートを設定して、超長期の金利を収束させることが可能な外挿手法で、超長期のカーブを外挿する際に有効です。

なお、実務では一つの補間手法に限定せず、パラメーター設定で複数の手法を併用可能とし、さらに、区間毎に異なる補間手法を組み合わせて、一つのカーブを作成することが行われています。

イールドカーブの無裁定性の確保


最終的に作成された連続的なイールドカーブは無裁定性(アービトラージ・フリー)が確保されている必要があります。無裁定性とは、理論上裁定取引によって無リスクの利益が得られない状態のことで、金利カーブに矛盾が生じていない状態とも言えます。

イールドカーブはプライシングや時価評価に用いられるため、無裁定性を満たすイールドカーブの条件として、今日の市場金利で行われる取引のキャッシュフローの今日時点での現在時価の総和は0になる必要があります。例えば今日預金して、1年後の満期に元本と今日の市場金利での利息を受け取る取引のキャッシュフローの現在価値の総和は0であるべきですし、FRAや金利先物、スワップ取引等についても、市場金利で行われる取引のキャッシュフローの現在価値の総和は0であるべきです。そうでない場合、取引を行った瞬間に無リスクの利益や損失が発生する事態が生じることになってしまいます。

また、マイナス金利を許容しないのであれば、ディスカウントファクターカーブは右肩下がり(単調減少)でなければなりません。右肩上がりの箇所があると、その区間のフォワードレートが理論上マイナスになってしまうためです。

イールドカーブの作成は金融商品の時価評価の基礎となる重要なものですが、このような制約条件を満たすイールドカーブの作成は、実は意外と複雑で大変な作業です。筆者が銀行員時代に初めて金融商品の評価モデルを担当した際にも、複雑な金融商品の評価モデルの前に、ベースとなるイールドカーブの作成ロジックに大変な手間がかかっていたことが思い出されます。

債券市場への応用


最後に債券市場への応用についてですが、インターバンクレートで作成したイールドカーブ(以下便宜上「スワップカーブ」と呼びます)はインターバンクの金融取引の時価評価には使用可能ですが、国債や社債等については、それぞれ発行体の信用力が金融機関と異なり、商品の流動性も異なるため、同じイールドカーブで時価評価することはできません。

国債であれば国債の価格から求めたイールドカーブを使用する必要がありますが、実務上これらのカーブは独立ではなく、金利の市場実勢を反映してある程度連動するという考え方が一般的です。例えば国債のイールドカーブであれば、スワップカーブに、国債と金融機関のスプレッドカーブを合成したものとして取り扱います(72.1式参照)。国債イールドとスワップレートのスプレッドは、スワップレートを基準とすると、ソブリンスプレッドと呼ばれ、通常国家の信用力はその国の金融機関の信用力を上回るため、マイナススプレッドとなるのが一般的です。

国債のイールドカーブ = スワップカーブ + ソブリンスプレッドカーブ

(72.1)

社債は、同様に、民間企業の信用力を反映した社債スプレッドという考え方を導入して、

社債のイールドカーブ = スワップカーブ + 社債スプレッドカーブ

(72.2)

として取り扱います。なお、社債スプレッドと似た概念として、民間企業のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)から導かれるCDSスプレッドがあり、両者は密接に結びついています。

以上から、リスク管理実務の観点では、すべての債券価格はスワップカーブ変動の影響を受け、それ以外の債券特有の価格変化についてはスプレッドカーブの変化として捉えられることになります。

【参考文献】
・Valuation and Risk Models: Global Association of Risk Professionals 等

◇MRAフェロー 伊東啓介

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