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リスク管理最前線 第17回 〜金利市場リスク(パート3)〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

金利市場リスク(パート3)

前回は金利スワップ取引における信用リスクおよびイールドカーブ形状変化の影響についてお話しいたしました。今回は金利市場リスクの管理手法についてお話ししたいと思います。

事業法人営業部署で金融デリバティブ商品を活用した新しい提案を行いお客様にご活用いただく中で、金融市場に大きな魅力を感じ始めていた頃、私は金融市場の商品開発部署に異動しました。当時はわずか10名強程度の部署で、金融数理モデルの調査研究開発(いわゆるクオンツ)、新商品の開発、デリバティブ業務用のトレーディング、プライシング、業務管理システムの開発、市場リスクや信用リスクの管理手法に関する調査研究等、広範囲の業務をカバーしていました。その後金融市場でシステム開発やリスク管理関連の仕事に長く携わることになったのですが、今にして思えば、この時の経験と知識が出発点になっています。

営業店時代の経験で、金利スワップ取引や債券投資等は、イールドカーブ(金利の期間構造)の変化により経済的価値が影響を受けることは、各お客様の立場では理解していましたが、無数の取引を行っている銀行がポートフォリオの金利リスクをどのようにコントロールしているかはあまり意識していませんでした。今回は銀行の金利リスク管理手法を紹介いたしますが、同様の手法が広く事業法人でも用いられています。

金利リスク管理の目的は、市場で取引可能な金利商品を活用してリスクコントロールを行うことで、最終的には、どの取引をどれだけ行えばリスクを目標値に抑えられるのかを把握し、必要に応じてヘッジ取引を行うことです。

ステップ1:取引可能な流動性の高い市場金利(価格)からイールドカーブを作成
ステップ2:金利リスク計測対象の各取引の価値をイールドカーブから算出
ステップ3:イールドカーブ構築のインプットとなる各金利(価格)に対する感応度を計測する

ステップ1:取引可能な流動性の高い市場金利(価格)からイールドカーブを作成


そのための最初のステップは、市場で取引可能な金利商品の金利(あるいは価格)からイールドカーブを作成することです。取引可能な金利商品は無数にありますが、効率よくヘッジ取引を実行するために、流動性の高い商品を選択することが重要です。一般的に、短期(6ヶ月まで)は、ロンドン市場の銀行間貸借金利(=LIBOR)等が指標になり、中期(3ヶ月〜18ヶ月)は金利先物、長期(2年以降)は金利スワップレートが用いられます。

イールドカーブはインプットに使用したすべての金利(価格)と整合しており、かつ連続でなめらかなカーブであることが必要です。ここでは詳細に触れませんが、その作成プロセスは複雑で決して容易ではありません。

ステップ2:金利リスク計測対象の各取引の価値をイールドカーブから算出


リスク計測において、イールドカーブを変化させた時の各取引の価値の変化を計測するので、すべての対象取引の価値をイールドカーブから算出(プライシング)できることが必要条件です。イールドカーブから任意のフォワードレートやディスカウントファクター(現在価値化の割引率)が求められるため、金利商品のプライシングが可能となります。

ステップ3:イールドカーブ構築のインプットとなる各金利(価格)に対する感応度を計測する


イールドカーブを構築するインプットとなる金利商品の金利を変化させることにより、イールドカーブを再作成し、ポートフォリオ価値を再計算することにより感応度を計測します。通常金利リスクは、インプットとなる各商品の金利の感応度(一般的には0.01%=1ベーシスポイント(bp))として把握されます。そうすることにより、金利リスクをヘッジするために、どの商品をいくら取引すれば良いかが明確になるからです。

1bp (=0.01%)の感応度は金利の微小な動きに対するリスクコントロールには有効ですが、金利が大きく動いた場合には必ずしも有効な手段とはなりません。感応度が一定でない、いわゆるコンベクシティーの存在が原因ですが、特に金利オプション取引を含むポートフォリオではこの問題が顕著となります。そのため1bp(=0.01%) のセンシティビティのみならず、10bps (=0.1%)等、より大きな金利変動シナリオで感応度を計測し、リスクを把握することも実務的に行われています。

また感応度分析のみならず、複数のインプット金利を同時に変化させることにより、イールドカーブの形状変化の影響を総合的にシナリオ分析することもストレステストの一貫として行われます。この場合のシナリオは過去の実例(ヒストリカルシナリオ)や、将来を想定して生じ得る変動(仮想的シナリオ)が複合的に用いられます。

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第18回 〜金利オプション取引の活用によるリスク管理〜