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リスク管理最前線 第18回 〜金利オプション取引の活用によるリスク管理〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

金利オプション取引の活用によるリスク管理

前回まで金利スワップ取引と金利市場リスクの管理手法についてお話しいたしましたが、今回は金利オプション取引の活用によるリスク管理についてお話ししたいと思います。金融市場においてオプション取引が浸透し取引量も増加していますが、その中で今回は金利オプションについて、代表的な取引と利用方法をご紹介いたします。

オプション取引とは、「選択権」の売買のことです。オプションという用語は乗用車のオプションパーツや旅行のオプショナルツアー等で用いられ、付加的な商品を購入するかどうかは自由に選択できるということを意味しますが、金融取引におけるオプションとは、ある原資産を、あらかじめ決められた時点(あるいは一定期間内)に、あらかじめ決められた価格で、売買するかどうかを選択できる権利のことです。例えば原油先物を1ヶ月後に60米ドル/バレルで購入する権利の売買はオプション取引です。権利の買い手は、1ヶ月後に原油先物価格が60米ドルを上回っている場合、市場で原油先物を購入するより、オプションの権利を行使して60米ドルで購入した方が有利です。一方で1ヶ月後に原油先物価格が60米ドルを下回っている場合、オプションの権利を行使せず、市場で原油先物を購入する方が有利です。なお原資産を購入する権利のことをコールオプション、原資産を売却する権利のことをプットオプションと呼びます。

権利の買い手は有利な場合のみ権利を行使すれば良いので、基本的にオプション取引で得することはあっても損することは無いと言えますが、その対価としてオプションプレミアム、つまりオプションの購入料を通常事前に支払います。これは保険に加入する場合に保険料を支払うことと似ています。

金利オプションの代表的な取引には金利キャップ(あるいはフロアー)取引と金利スワップション取引があります。金利オプションは目的に応じて、金利の変動リスクを抑えることに活用することが可能です。

金利キャップとは、指標金利があらかじめ定められた権利行使金利の水準(ストライクと呼ばれる)を上回った場合に、指標金利とストライクの差額を受け取れる取引で、一定期間、変動金利に上限を設けられる取引です。金利キャップの活用例として、変動金利建借り入れ(短期借り入れをロールしている場合も同様)の金利上昇リスクを抑えることが可能です。例えば3ヶ月LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)を指標にした支払い金利の場合、ローン期間の一部又は全部にわたって指標金利3ヶ月LIBOR、1%の金利キャップを購入すると、実質的に指標金利の上限を1%に固定できます。指標金利が1%を超過した場合に指標金利と1%の差額を金利キャップ取引から受け取れるためです。例えば指標金利が1.5%の場合、キャップ取引から0.5%を受け取るため、差し引き支払う指標金利は実質的に1%になるという具合です。ただしオプションプレミアムの支払いを考慮すると支払い総額はその分増加することになります。

金利フロアーとは、キャップとは逆に、指標金利がストライクを下回った場合に、ストライクと指標金利の差額を受け取れる取引で、一定期間、変動金利に下限を設けられる取引です。金利フロアーの活用例として、変動金利預金や債券(短期預金をロールしている場合も同様)の金利低下リスクを抑えることが可能です。例えば3ヶ月LIBORを指標にした受け取り金利の場合、運用期間の一部又は全部にわたって指標金利3ヶ月LIBOR、0.5%の金利フロアーを購入すると、実質的に指標金利の下限を0.5%に固定できます。指標金利が0.5%を下回った場合に0.5%と指標金利の差額を金利フロアー取引から受け取れるためです。ただしオプションプレミアムの支払いを考慮するとその分実質的な運用利回りは低下します。

なお金利キャップ・フロアー取引は契約期間にわたって通常複数回、指標金利に基づく受け払いが発生しますが、各回のオプションは独立しており、短期金利オプションの集合体とみなすことが可能です。

金利スワップションは、金利スワップのオプションの事で、将来の長期金利の上昇あるいは低下リスクを抑えられる取引です。最もシンプルで一般的なヨーロピアン(権利行使が将来の一時点のみ)タイプのスワップションの場合、その時点において、あらかじめ定められた期間と固定金利(スワップレート)の金利スワップ取引を発生させる権利の売買です。例えば将来のある時点で長期金利借り入れを予定している場合、借入期間に応じた固定金利払い変動金利受けの金利スワップションを購入することにより、金利上昇時に権利行使し金利スワップを発生させることにより、実質的に長期金利に上限を設けることが可能となり、金利上昇リスクをヘッジすることができます。なお固定金利払いスワップのオプションはペイヤー・スワップション、固定金利受けスワップのオプションはレシーバー・スワップションと呼ばれています。

金融機関サイドから見た場合、金利オプションの金利市場リスク管理については前回お話ししたイールドカーブを構築するインプットとなる金利商品の金利の感応度をベンチマークにする手法が利用できますが、金利オプションの場合感応度が金利水準によって大きく変わりますので、感応度のみならずシナリオ分析を併用し、さらにはポートフォリオ内の取引の権利行使時点や権利行使金利の水準(ストライク)、プット・コール、売買等毎の数量をフォワードレートとの関係で常に把握しておくことにより、より精緻なリスク管理が可能となります。

さらに金利オプションのリスク管理に特有で重要なのは金利のボラティリティリスクです。金利ボラティリティのリスク管理手法については別の機会に詳述したいと考えていますが、直感的な理解としてはボラティリティが高い、すなわち金利が不安定で変動が激しい局面ではオプション価格(プレミアム)が高騰し、逆にボラティリティが低い、すなわち金利が安定している局面ではオプション価格も低下します。金利オプション市場が存在し、業者間で金利オプションを売買することによりボラティリティリスクをコントロールすることが可能ですが、金利水準と構成取引によってポートフォリオのボラティリティの感応度がダイナミックに変化しますので、その管理は複雑なものとなります。

◇MRAフェロー 伊東啓介

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