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リスク管理最前線 第22回 〜株式市場のリスク管理(パート1)〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

株式市場のリスク管理(パート1)

これまでに金利や為替市場のリスク管理について取り上げました。今回は株式市場のリスク管理についてご紹介いたします。私自身投資銀行において欧州拠点の株式市場リスク管理を7年間ほど担当した経験がありますが、非常に難しい市場だと感じています。それは株式市場が市場を構成する無数の個別銘柄の株式の集合体だからです。各個別銘柄の株価あるいは企業価値は、景気等のマクロ要因によっても変動しますが、個別企業の戦略や業績、財務状況等のミクロ要因に応じても変動し、時にその動きは急激なものとなります。突き詰めると無数の個別銘柄の理解なくして株式市場を本質的に理解することはできないとも言え、そこが株式市場の難しさとなっています

投資家の観点では株式市場はリスクが大きい分、期待リターンも高い点が魅力です。年金資産も近年は2〜3割が株式となっています。将来のパフォーマンスは神のみぞ知るところですが、一般的に長期保有する場合は国債等の安全資産と比較して高リターンとなる確率が高くなり、インフレーションにも強いと考えられています。また個別銘柄は急激な業績不振等による価格が暴落するケースも多々ありますが、分散投資によりリスクが低減されることも実証されています(分散投資効果)。ただし2008年のリーマン・ショックや2020年のコロナ・ショック時に見られたように、マクロイベントによる価格急落時には全てのリスク資産が同時に下落する傾向がある点は留意が必要です。

投資銀行や証券会社(以下証券会社)の株式部門は株式公開や新株発行を取り扱うプライマリー市場部門と株式現物や株式デリバティブの流通市場(セカンダリー市場)を取り扱う部門があり、両者は厳格に区分され、情報等も遮断されています(いわゆるチャイニーズウォール)。プライマリー市場部門が保有する情報はインサイダー情報(非公開情報)であり、一般投資家保護の観点から、それを利用した取引がセカンダリー市場部門で行われないようにするためです。このうちポジションを保有し株式市場リスクを取っているのはセカンダリー市場部門となります。セカンダリー市場部門は株式現物取引、株式デリバティブ取引、プライム・ブローカレッジ等のデスクに分かれています。

株式現物取引は、コンピューターの急速な進化に伴い、近年急速に自動化、システム化が進みました。投資銀行や証券会社の株式取引デスクは人員が縮小し、システムによる取引、いわゆるe-tradingが台頭しました。またI Tの発展のみならず、リーマン・ショック後に投資銀行や証券会社が相場感に基づく自己勘定取引、いわゆるプロップ・トレーディング (proprietary trading) が原則禁止(ボルカー・ルール)となったことも取引のシステム化を後押ししています。ポジションを取らずにいかに効率的に注文を捌くかということがより重要になったため、各社ともシステム投資を加速させました。

プロップ・トレーディングは原則禁止されていますが、マーケット・メーカーとして市場に流動性を提供する役割を果たすために必要な在庫の保有は証券会社に認められています。さらに大量の個別銘柄をワンショットで取引するいわゆるブロック・トレードを引き受ける場合があり、証券会社は市場価格から多少ディスカウントした価格で株式を買い取る代わりに、ポジションを市場で売り捌いていく間に発生する価格下落リスクを負います。時には市場流通量の数日分の引き受け額となる事もありますが、必要に応じてリスク低減策を講じながらポジションを解消していきます。

株式デリバティブデスクはスワップやオプション等の株式デリバティブ商品を取り扱います。上場投信(E T F)や各種インデックス連動型投資商品発行体へのリスクヘッジ取引や、株式を保有する機関投資家のポートフォリオリスクヘッジ取引を提供しています。

デリバティブデスクも現物取引デスクと同様に、マーケット・メーカーとして市場に流動性を提供する役割を果たすために必要な在庫の保有は認められています。相対取引で各顧客のニーズに基づく商品を提供しているため、現物取引と異なり個別取引の反対売買取引は容易ではなく、インデックスや個別銘柄の価格リスク、オプション取引のボラティリティリスク、銘柄間の相関リスク等にリスクを分解して把握した上でヘッジを行う必要がありますが、流動性が十分でないリスク・ファクターもあり、リスク管理の難易度が高くなります

またデリバティブデスクでは、欧州ではポピュラーである、企業の新株予約権無償割当て(ライツ・イシューやライツ・オファリングと呼ばれる)による資金調達に際して、権利行使されず新株購入代金が払い込まれない場合に幹事証券会社として新株を引き受け、企業の資金調達額をコミットする場合があります。その場合、新株購入価格は市場価格より低く設定され、実際に証券会社が新株を引き受けるには至らないケースが一般的ではありますが、証券会社は引き受け手数料収入と引き換えに、株式急落時には市場価格を上回る価格で新株を引き受けざるを得ないリスクを、短期間とはいえ、行使期限まで負います。その間対象銘柄での個別ヘッジはできませんが、市場のマクロ動向にも注意を払い、必要に応じて市場リスクの低減策を講じます。

ある投資家が個別銘柄の保有比率引き上げ等の目的で大量購入する場合に、証券会社が株式を担保にファイナンシングを提供する場合があります。マージン・ローンと呼ばれ、担保価値が下落して担保比率が下がると日々現金等追加担保の差し入れが必要で、常に担保価値がローン金額を上回るように維持しますが、一瞬にして暴落して担保価値が不十分となってしまった場合には、証券会社が損失を被る可能性があります。

証券会社が晒されている市場リスクとその管理について代表的な例を俯瞰しましたが、次回は株式市場における、バリュー・アト・リスク(VaR)等リスク定量化やリスク・リミット等リスク・コントロールの手法について概要をご紹介したいと思います。

◇MRAフェロー 伊東啓介

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