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リスク管理最前線 第23回 〜株式市場のリスク管理(パート2)〜
  • 欧米金融機関の現場から
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株式市場のリスク管理(パート2)

前回は株式市場における市場リスクとヘッジ手法についてご紹介いたしました。今回はやや専門的になりますが、引き続き株式市場のリスクについて、金融機関におけるリスクの定量化や管理手法のポイントをご紹介します。

ポイント1:ポジション(持ち高)の把握
ポイント2:リスク・リミットの設定と管理
ポイント3:ポートフォリオリスクの定量化〜バリュー・アット・リスク(VaR)
ポイント4:個別銘柄リスクにおける市場インデックスポジションの取り扱い
ポイント5:オプションポジションの取り扱い
ポイント6:発行体デフォルトリスク

ポイント1:ポジション(持ち高)の把握


まずは株式市場変動のポートフォリオ価値への影響を把握するため、保有ポジション(持ち高)を把握する必要があります。株式市場では個別銘柄ごとに異なった値動きをするため、市場変動の影響を正確に把握するためには、個別銘柄毎のポジションを全て把握する必要があります。一方で個別銘柄の値動きは市場全体に連動する傾向もあり、個別銘柄毎のみならず、国や地域毎、産業セクター毎の合計ポジションを把握することも重要です。なおポジションは通常管理会計上の基準通貨換算額で認識されます。

ポイント2:リスク・リミットの設定と管理


把握したポジションに対してリスク・リミットが設定され管理されます。リスク・リミットは全社合計の株式ポジションに対してのみならず、国や地域、あるいはセクター毎の合計ポジションに対しても設定される場合が一般的で、最終的には個別銘柄レベルにも設定されます。リスク・リミットは特定の個別銘柄や国や業種へのポジションの偏りを防ぐことが目的ですが、前回触れたように個別銘柄はその企業特有の要因により急騰や急落することが多いため特に重要視されます。リスク・リミットの大きさは、国や企業の格付けを勘案し、信用度が低いものほど小さく、また市場流動性も勘案し、市場流動性が少ないほどリスク低減に時間を要するため小さくなるのが一般的です。市場環境の変化等によりリミットは定期的に見直されます。

ポイント3:ポートフォリオリスクの定量化〜バリュー・アット・リスク(VaR)


ポートフォリオリスクの定量化手法の一つとして利用されるバリュー・アット・リスク(以下VaR)は、本コラムの第6回でもご紹介いたしましたが、ある信頼水準における最大損失額の指標として利用されます。ここでは株式ポートフォリオにおける適用方法について特に注意すべき点について触れておきます。

代表的なVaR推定手法であるヒストリカル法において、リスク・ファクターのタイムシリーズ(日次の変化率の過去データ)が必要です。市場インデックスのポジションは、通常その市場インデックス自体をリスク・ファクターとして扱います。個別銘柄のポジションは固有の変動がポートフォリオ全体のリスクに寄与するため、可能な限り個別銘柄をリスク・ファクターとして扱い、個別銘柄ごとのタイムシリーズを使用すべきです。ただし扱うデータ量が非常に多くなるため、多くの金融機関において今でこそ個別銘柄ごとのタイムシリーズを実装していますが、以前は困難でした。その場合、日本の東証株価指数や米国のS&P500、欧州のユーロストックス50指数等代表的な市場インデックスをリスク・ファクターとして扱い、個別銘柄はいずれかの市場インデックスのタイムシリーズに代替的にマッピングされていたため、VaRで個別銘柄ごとの異なる動きを勘案することができていませんでした。

しかし全ての個別銘柄に適当な価格のヒストリカルデータが存在するわけでもありません。未上場株式においては市場価格が観察されません。また上場株式であっても、上場後間もない場合にはVaRの推定に十分な期間のヒストリカルデータが必ずしも存在せず、企業合併や事業売却等で企業の業態が過去と異なる場合には過去データが必ずしも参考にならないこともあります。このような場合、対処方法には二つの代表的な選択肢があります。一つは類似企業や市場インデックスのタイムシリーズに代替的にマッピングする方法です。もう一つはVaRの対象外として、個別にストレスシナリオ等で最大損失額を推定しVaRと合算する方法です。

ポイント4:個別銘柄リスクにおける市場インデックスポジションの取り扱い


個別銘柄リスクを把握する際に、市場インデックスのポジションも考慮すべきことに注意が必要です。インデックスの構成要素である個別銘柄の価格変動は、市場インデックスの変動に直接影響するからです。金融機関において、デリバティブ商品の取扱高は個別銘柄より市場インデックスの方が多く、マクロヘッジにも市場インデックスのデリバティブを利用するため、市場インデックスの考慮は特に重要です。実際には市場インデックスにおける個別銘柄の構成比率を用いて市場インデックスポジションを分解して、個別銘柄のポジションと合算することにより個別銘柄リスクを把握しています。個別銘柄の構成比率は常に変化するため通常日次で洗い直します。投資信託やファンドを保有している場合も、個別銘柄の構成比率のリアルタイムの情報がある程度の確度で得られる場合は、同様の手法が有効となります。

ポイント5:オプションポジションの取り扱い


株式のオプションポジションを保有する場合、価格リスクは現物ポジションと合算して把握する必要があります。詳細には触れませんが、現物ポジションと異なり価格リスクが非線形のため、金融機関においては現在のポジション(持ち高)相当額のみならず、いくつかの価格変動シナリオによってリスクを把握し、VaR計測にも取り入れられています。

ポイント6:発行体デフォルトリスク


最後に発行体のデフォルト(倒産)リスクについては、株式と社債を合算して把握する必要があります。株式の場合価値がゼロになると考えられますが、社債の場合少なくとも部分的には回収可能であることが多く、回収不能推定額のみをデフォルトリスクとみなすことができます。

◇MRAフェロー 伊東啓介

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