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リスク管理最前線 第24回 〜コモディティ市場のリスク管理(パート1)〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

コモディティ市場のリスク管理(パート1)

コモディティ(商品)市場は、これまでに本コラムでご紹介してきた債券、為替、クレジット、株式等の金融商品市場と異なり、メインプレーヤー(参加者)は銀行や証券会社等の金融機関ではなく、コモディティ専門業者や事業法人、総合商社です。コモディティ市場で取り扱われる商品が、エネルギー、金属、穀物等、実際の現物の受け渡しが発生し、実需に基づいて取引される割合が大きく、特定の産出国や商品に特化している企業がサプライ・チェーンの中心となっているためです。

投資銀行をはじめ金融機関も今世紀に入った頃からコモディティ市場に参入し、専用のトレーディング部署を設けるようになりましたが、基本的には現物を扱わず、差金決済可能な先物市場取引やスワップ、オプション等の相対取引に特化しています。ただし前述の金融商品市場と比較して、金融機関の取り扱い規模は相対的に小さいのが現状です。

ポイント1:コモディティ業界
ポイント2:サプライ・チェーン全体のリスク管理
ポイント3:カントリー・リスク

ポイント1:コモディティ業界


コモディティ市場と一括りに言っても、多種多様な商品が市場で取引されていますが、エネルギー、金属、農業製品という3つのカテゴリーに大きく分類されます。エネルギーは石油やガス等で、いわゆる国際資本の石油メジャーがメインプレーヤーです。金属はベースメタルとプレシャスメタル(貴金属)に分類され、ベースメタルはすずや銅等、貴金属は金やプラチナ等です。農業製品は幅が広く、穀物(小麦、トウモロコシ等)、ソフト・コモディティ(コーヒー、ココア、砂糖等)、家畜、乳製品、大豆、木綿等が取引されています。

プレーヤーとしては鉱山開発大手のグレンコア等グローバル企業も存在しますが、前述の通り特定の国や地域に特化した企業が多いのが特徴です。日本の総合商社もビジネスモデルはやや異なりますが、グローバルに展開し影響力の大きい存在となっています。

ポイント2:サプライ・チェーン全体のリスク管理


現物商品には、例えばコーヒーを例にとると、ブラジルやベトナム、コロンビアといったコーヒー豆産出国があり、現地のコーヒー豆生産者、収穫後のコーヒー豆をストックする現地倉庫業者、輸送業者、消費地でのコーヒー豆購入業者、消費地での加工業者、流通業者、最終消費者といったサプライ・チェーンがあります。このトレード・フローの一つでも滞ると、現物が消費者に行き渡らなくなり、市場が混乱します。そのためコモディティ業者はサプライ・チェーン全体を俯瞰したリスク管理を行うことが肝要となります。

ポイント3:カントリー・リスク


コモディティ産出国は発展途上国や政情的に不安定な国である場合も多く、特にカントリー・リスクの管理が重要である点がコモディティ・リスク管理の特徴です。業者は有利な条件で商品を確保するため、現地の生産業者に先行投資しますが、この場合に発生するリスクについて考えます。

まずは資本リスクと現地企業の信用リスクが挙げられます。業者は自己資金および場合によっては銀行ローン等によりレバレッジをかけて現地に投資しますが、当然ながら事業投下資本の回収リスクがあり、投資した個別企業の信用リスクも発生することになります。

また国による輸出禁止規制や資本差し押さえ等のイベントが発生する可能性もあり、政治的リスクが存在します。政治的リスクは保険で低減可能な場合もありますが、突然規制がかかる場合もあり、予見しにくいリスクです。

さらに現地投資や現地での商取引は多くの場合現地通貨建てとなりますが、業者の資本調達や会計上の基軸通貨が例えば米ドル建ての場合、米ドル以外のポジションには全て為替リスクが発生します。

これら資本リスク、信用リスク、為替リスク等を統合したカントリー・エクスポージャーを定量的に把握し、カントリー・リミットを設定してモニタリングとリスク管理を行うことが重要で、多様なコモディティのリスク管理の中でも最重要視されます。

コモディティ市場の市場(価格)リスクのヘッジ手段としては先物市場取引が中心となっています。多様な商品の先物市場が創設されており、先物取引を利用して価格リスクをある程度コントロールすることが可能です。次回はコモディティ市場における市場リスクのヘッジ手法と管理についてご紹介したいと思います。

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第25回 〜コモディティ市場のリスク管理(パート2)〜