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リスク管理最前線 第25回 〜コモディティ市場のリスク管理(パート2)〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

コモディティ市場のリスク管理(パート2)

前回はコモディティ(商品)市場におけるサプライ・チェーンとカントリー・リスクについてご紹介いたしましたが、今回は市場リスク、特に価格変動リスク管理に触れたいと思います。前回申し上げましたとおりコモディティ市場はエネルギー、金属、農業製品等多岐に渡り、各市場固有のリスクに注意する必要がありますが、ここでは多くの市場に共通する一般的なポイントのみを取り上げることといたします。

ポイント1:先物取引による価格リスクヘッジ
ポイント2:現物対先物標準物のベーシスリスク
ポイント3:先物限月間のスプレッドリスク
ポイント4:流動性の低い市場でのショートスクイーズ
ポイント5:リミット管理

ポイント1:先物取引による価格リスクヘッジ


商品取引において発生する市場リスクは、取引価格の契約形態調によって変わります。例えば先渡し契約において、商品の調達価格が固定である場合、先渡し価格も固定価格であれば利益はその差額で確定しますが、先渡し価格が変動価格で、市場で取引されている商品先物価格を基準に、先物価格+ベーシス(ベーシスは契約時点で定める一定の差額でプラスにもマイナスにもなり得る)で定められている場合、利益は先物価格に連動して変動することになります。後者の場合において、先物価格連動部分に関しては先物市場においてヘッジ取引を行い、価格変動リスクの主要な部分を低減することが可能ですが、リスクを完全に除去できるわけではありません。

ポイント2:現物対先物標準物のベーシスリスク


一つは例は現物と先物標準物のベーシスリスクです。ベーシスとは二つの異なるものの価格差を指しますが、特にある程度連動性のある二つのものの価格差を表現するのに使われることが一般的です。例えば同一商品の現物と先物の価格差などです。ベーシスリスクには商品の場合品質リスクの側面があります。先物市場は一定の水準を満たす「標準物」が原資産となりますが、実際に取引する商品は、収穫物や生産物の品質の優劣により標準物との価格差が発生します。契約時点に定めるベーシスは、受け渡し時に想定される取引対象の現物の品質によって決まりますが、現物の品質が想定と異なる場合には、契約で定める変動価格が適正価格と乖離するリスクが具現化します。

ポイント3:先物限月間のスプレッドリスク


もう一つの例は先物限月間のスプレッドリスクです。スプレッドも二つの異なるものの価格差を指します。先物市場では同一商品でも満期の異なる複数の限月が取引されています。現物取引の受け渡し時期に近い先物限月での価格リスクヘッジが望ましいのですが、特に満期の長い取引の場合等において、相応の限月が存在しない、あるいは存在しても流動性が非常に低いような場合、まずは期近の流動性の比較的高い限月でヘッジすることがあります。このようなケースでは先物ヘッジが先に満期を迎えてしまうので、現物取引の受け渡し時期まで、先物のヘッジを期先の限月に乗り換える(ロールする)ことになります。その際に先物の期間構造の影響が生じます。

スプレッドリスクの対応策の例として、そもそも先物市場取引の代わりに、金融機関等との相対ヘッジ取引を利用することがあります。個別の現物取引の満期に見合ったヘッジ取引を行うことで期間構造リスクを避けることが可能となりますが、金融機関が代わりにそのリスクを負うことの対価がヘッジ取引のプライスに反映されることになります。別の例としては先物市場であらかじめ異なる限月間の一方を買い他方を売るスプレッドポジションを構築することにより、ロール時に発生する価格差リスクを抑えることがあります。ただしそもそも流動性のある限月でしか利用できない手法なので、効果は限定的です。

ポイント4:流動性の低い市場でのショートスクイーズ


先物取引はレバレッジが効きますが、買いポジションに比べて、売りポジションは価格に上限がないため損失が急激に膨らむリスクにもより注意が必要です。特に流動性の低い市場では、自社のポジションを他社に知られることにより、他の市場参加者に狙い撃ちされ買い上がられる、いわゆるショートスクイーズされることがあり、注意が必要です。

ポジション情報の管理が重要ですが、先物ブローカーを複数利用して注文を分散させることで、ポジションの全容を他社に知られるリスクを軽減することが一つの対策となり得ます。複数のブローカーを利用するメリットは、他にもカウンターパーティーリスクの分散、ブローカー側からのクレジットライン変更に機動的に対応できる可能性が高くなる、より多くのブローカーから市場情報を得られること等があります。

ポイント5:リミット管理


カントリー・リミットの重要性については前回述べましたが、市場リスク観点からは今回述べたリスクに対応するポジションを把握してリミット管理することが肝要です。まずはネットポジションリミット(アウトライトポジションリミット、あるいはデルタリミットとも呼ばれる)が設定されます。これは現物、先物等全てのポジションを売り買いネット合計したものが対象となります。ベーシスリスクやスプレッドリスクについて、市場価格が日次で観測困難な場合にはストレス・テストでリスクを定量化し、市場価格が日次で観測できるものについてはバリュー・アット・リスク(VaR)のアプローチでもリスクを定量化し併用することが可能であり、定量化したリスクに対してリミットが設定され、モニタリングが行われます。

◇MRAフェロー 伊東啓介

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