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リスク管理最前線 第20回 〜外国為替(FX)のリスク管理〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

外国為替(FX)のリスク管理

今回は多くの企業が抱える外国為替リスクの管理手法について、その考え方と金融機関での実例をご紹介いたします。

外国為替(以下FX)リスクとは、FXレートが変動する事により生じる企業損益やポートフォリオ価値の変動です。FXリスクの源泉となる取引には多様なものがあり、外国為替市場での売買のみならず、貿易決済や海外投資等もFX取引を伴うため、多くの企業が必然的にFXリスクに晒されています。

FXリスク管理においてまず必要なのは、多様な取引から生じるFXポジションを定量的に把握する事です。FX取引は2つの異なる通貨の交換取引で、一方の通貨を買い建てると同時に、他方の通貨を売り建てる取引とみなすことができます。そして対象ポートフォリオ全体(あるいは企業全体)における、各通貨の買い建て額あるいは売り建て額を集計します。この際に基軸通貨を一つ定めます。FX取引は異なる通貨同士の相対取引なので、リスク管理の観点から、定量化のために価値の基準または尺度が必要となるからです。基軸通貨を何とするかは企業形態により、例えば日本円ベースで財務管理及び報告を行う日本企業であれば日本円を選択することが一般的ですが、世界各地に拠点を持つ多国籍企業の場合、FX市場の中心的通貨である米ドルを基準とすることもあります。いずれにせよFXリスクは基軸通貨以外の各通貨の買い建て額あるいは売り建て額を集計して基軸通貨換算額で表したものとして把握することが可能です。

FXリスクを緩和する目的で、通貨(FX)オプション取引が用いられることも多くあります。基本的なFXオプション取引とは、将来の特定時点に、あらかじめ定められたFXレートで、一定額のFX取引を行うことのできる権利の売買です。権利の買い手は権利行使時点の市場レートよりオプションで定められた権利行使レートが自分にとって有利な場合のみ権利行使できるので、FXレート変動による損失を一定範囲内に抑えることが可能です。FXオプション取引はリスク管理において非常に有効ですが、単純なFX取引と異なるリスク特性があるため、FXオプションを保有する場合のFXリスク管理は複雑化します。単純なFXポジションの場合、FXレートが1%変化すると、ポジションの価値も常に1%変動します。しかしFXオプションの場合、FXレートの1%変化に対して、オプション価値の変動は一定ではありません。

したがって金融機関等ではFXオプション取引も含めた統合的なFXリスク管理を行うため、シナリオ分析を用いてリスクを定量的に把握しています。シナリオ分析では各通貨のFXレートを一定の割合で変動させて取引価値の変動額を把握しますが、FXレートの変化に対するFXオプション取引の価値の変動度合いが一定でないため、例えば+2%、-2%、+10%、-10%等、複数のシナリオを観測する必要があります。そして通常各シナリオにより生じ得る損失額に対してリミットが設定され、ポートフォリオリスク管理が行われています。

さらにFXオプション取引の場合、FXレートの変動リスクのみならず、FXボラティリティリスクも発生します。FXボラティリティリスクとは、FXレートが不変でも、市場参加者の将来の市場変動に対するセンチメントの変化によりFXオプションの市場価値が変動するリスクです。FXオプションのボラティリティリスクは通貨ペア毎、さらに満期時点毎に、集計し把握されます。ここで注意が必要なのは、FXリスクは通貨毎に分解して把握されますが、FXボラティリティリスクは通貨毎に分解できず、通貨ペア毎に把握する必要があるという点です。

例えば、米ドル、ユーロ、日本円のポジションがあり米ドルを基軸通貨としてリスク管理する場合、FXリスクは基軸通貨換算額ベースで「ユーロ買い建て〇〇ドル、円売り建て〇〇ドル」あるいは、FXシナリオベースで「対ドルで価値が+2%上昇した場合、ユーロポジションの利益〇〇ドル、円ポジションの損失〇〇ドル」という形式で把握されますが、FXボラティリティリスクは「ドル/ユーロのボラティリティ1割下落で損失〇〇ドル、ドル/円のボラティリティ1割上昇で損失〇〇ドル、ユーロ/円のボラティリティ1割上昇で損失〇〇ドル」という形式で把握されます。さらにボラティリティリスクはオプションの満期時点により異なるので、細分化して例えば1週間、1ヶ月、3ヶ月等の期間バケット毎でも把握されます。

バリュー・アト・リスク(VaR)においては、対基軸通貨の各通貨の変動を通貨間の相関を考慮してモデル化する事により、全体のFXリスクを一つの想定損失金額として把握することが可能です。ここでは詳細に立ち入りませんが、バリュー・アト・リスク(VaR)のモデリング手法の概要については過去の本コラムでも紹介しています。

◇MRAフェロー 伊東啓介

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