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リスク管理最前線 第49回 〜市場リスク指標の推定(パート2)期待ショートフォールの推定とリスクデータの初期検証〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

市場リスク指標の推定(パート2)期待ショートフォールの推定とリスクデータの初期検証

市場リスク指標の推定に関して、前回はバリュー・アット・リスク(以下「VaR」)に触れましたが、今回はVaRの信頼区間外のテイル(分布の裾野)にどの程度VaRを超過するリスクが存在するかの代表的な指標の一つである期待ショートフォールの推定やリスクデータの初期検証についてご紹介します。

期待ショートフォール


期待ショートフォールは、「テール・ロスの加重平均」として定義されます。テール・ロスとは「分布の信頼区間外における損失額」のことでVaRより大きな数値となります。損失データの個数とVaRの信頼水準によってテール・ロスのサンプル数は変わってきます。例えば10,000個のデータで信頼水準95%VaRを推定する場合、VaRを超過するテール・ロスのデータは500個存在しますが、1,000個のデータで信頼水準99%VaRを推定する場合、テール・ロスのデータは10個しか存在しないことになります。期待ショートフォールの推定精度を高めるためには、十分なサンプル数が必要であり、モンテカルロ・シミュレーション法を採用している場合、試行回数を増やすことで対応可能です。

なお個数に限りのある実データの場合、テール・ロスのデータ全ての平均値を取ることにより期待ショートフォールを推定する事ができますが、正規分布等の統計的な分布を想定している場合には、確率密度関数の積分により、期待ショートフォールを推定する事が可能です。

推定リスク指標の精度


VaRや期待ショートフォール等のリスク指標は、あくまでもいくつかの仮定を置いてデータ処理を行なった結果の推定値に過ぎず、真の値を知ることはできません。しかし推定値の精度を知ることは、推定値の信頼度合いの目安となります。推定値の標準偏差である標準誤差と正規分布の確率から、一定の信頼水準における真の値の範囲を推定することが可能です。

市場リスク指標の推定にあたって考慮すべき点


市場リスク指標の推定作業の前段として、まず以下の点を考慮しなくてはなりません。そして何を採用するかは、定量化の目的のみならずデータの特性にもよります。

・推定する指標(VaR、期待ショートフォール等)
・対象範囲(ポートフォリオのレベル。個別ポジション、個別事業部門、全社等)
・信頼水準、保有期間等のパラメーター
・推定手法(ヒストリカル・シミュレーション法、パラメトリック法、モンテカルロ・シミュレーション法等)

リスクデータの初期検証


リスクデータを取り扱う際には、詳細な分析の前に、まず予備的な初期検証作業を行うことが必要です。対象となるデータの生成過程で何かエラーが発生しているかもしれませんが、その判別は極めて困難です。最初のステップはデータ全体を眺めて、あり得ないような結果が出ていないか、データの出現パターンに不自然な点はないか等を視覚的に確認します。

次にヒストグラムを作成し分布形状を視覚的に確認し、また平均や標準偏差、歪度、尖度等の統計値を求め、何か不自然な点がないか、データの特性を検証します。特に正規分布と異なる非正規性に着目し、左右の偏りの目安である歪度や、ファット・テールを示す尖度が参考になります。EXCELのデータ分析ツールを使用して視覚的なヒストグラムを容易に作成することができますし、データの各統計値も標準的なEXCEL関数により求めることができ、平均はAVERAGE、標準偏差はSTDEV、歪度はSKEW、尖度はKURT関数が用意されています。

次のステップにおいて、どのような統計的分布が実データにフィットするかを考えますが、その際に実データと統計的分布の比較手法としてQQプロットが代表的です。QQプロットは、あるデータの分布がある確率分布に従っているかを視覚的に調べるときに用いられ、正規分布等の統計的確率分布の分位数をx軸に、実データの分位数をy軸に平面プロットし差異を確認します。比較した二つの分布が同じ確率分布に従うときや似ているときはデータが直線的に並び、比較した二つの分布が同じ確率分布に従わないときは曲線になります。

QQプロットにおいて、実データがファット・テールの場合はQQプロットの端の領域における傾きが急になるので、視覚的にテールの特性を確認することもできます。また全体的には直線的か滑らかな曲線であっても、線から大きく乖離したデータが存在する場合、エラーデータの可能性を考えて精査する必要があります。

【参考文献】
Market Risk Management and Measurement (Pearson Education) 他

◇MRAフェロー 伊東啓介

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