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リスク管理最前線 第57回 〜金融市場におけるコリレーションの特性〜
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金融市場におけるコリレーションの特性

前回は資産間の相関であるコリレーションに関するリスクの概要についてご紹介しましたが、今回はまず平均回帰性と自己相関の概念についてご説明した後、実際の金融市場におけるコリレーションの特性について触れます。

平均回帰性


平均回帰性とは、ある変数が長期的な平均に回帰する傾向のことです。金融市場においては、金利や債券価格、ボラティリティ、クレジット・スプレッド等に平均回帰性が認められます。例えば、金利は景気の動向により、設備投資の資金需要や当局の金融及び財政政策の影響を受けて変動する傾向があります。好況時には資金需要が増加し、当局による引き締め策と相まって、金利が上昇する傾向があり、逆に不況時には資金需要が減退し、当局による緩和策と相まって、金利が下落する傾向があります。

平均回帰性とは、ある変数Sのt-1時点からt時点にかけての変化St-St-1と、t-1時点のSの値St-1が逆相関の関係にあることと定義され、数式では以下のように表せます。

(57.1)

ただし、
St:t時点のSの値
St-1:t-1時点のSの値
∂:偏微分係数

(57.1)式の意味するところは、St-1が上昇した場合においてはSt -St-1が下落、すなわちStが下方に引っ張られ、逆にSt-1が下落した場合においてはSt -St-1が上昇、すなわちStが上方に引っ張られるため、結果的に平均回帰傾向が認められることになります。

平均回帰性を持つ資産価格の離散的な時系列価格モデルとしては、オルンシュタイン=ウーレンベック(Ornstein-Uhlenbeck)の確率過程に基づいたバシチェック(Vasicek)モデルが代表的で、価格のプロセスを下記の数式で表します。

(57.2)

ただし、
St:t時点におけるSの値
St-1:t-1時点におけるSの値
a:平均回帰性の度合い(平均回帰速度)。なおa > 0
μs:Sの長期的な平均
σs:Sのボラティリティ
ε:標準正規乱数

(57.2)式で注目すべき点は、μsとSt-1の関係で、St-1がμsより大きい場合は、ドリフト項a(μs-St-1)が負の値となり、確率項σsε√ΔtStを無視すると、StはSt-1から下方に変動し、逆の場合には、上方に変動することとなり、結果的にStがμsに平均回帰するプロセスとなります。さらに、μsとSt-1の乖離幅が大きいほど、ドリフト項が大きくなるため平均回帰傾向が強くなります。またa(平均回帰速度)のパラメーターについては、aが大きいほど平均回帰傾向が強くなります。

自己相関


自己相関とは、ある変数の異なる時点間の値の相関のことで、ARCHモデルやその拡張であるGARCHモデルで定量化が可能ですが、直感的には「持続性」のことであり、過去のパフォーマンスと現在のパフォーマンスに正の相関があるという特性を示します。また自己相関は平均回帰性とは逆の概念であり、平均回帰性が強いと自己相関は弱くなるという特性があります。

自己相関は数式的には下記のように定義されます。

(57.3)

ただし、
AC:自己相関
St:t時点におけるSの値
St-1:t-1時点におけるSの値
COV:共分散
σ:ボラティリティ

金融市場におけるコリレーションの特性


株式のコリレーションについて過去データによる実証から、次のような特徴が観測されています。

1. 景気動向との関係
株式のコリレーションは不況時には高くなり、好況時には低くなる傾向があります。特に2007年から2009年にかけての金融危機時においては、株式のコリレーションは非常に高いレベルに上昇しました。直感的にはストレスがかかった市場においては、個別銘柄のファンダメンタルズの如何に関わらず、全ての株式が同時に下落する傾向が強いためと理解することができます。
また株式のコリレーションのボラティリティに関しても、不況時には高まり、好況時には低下する傾向があります。これは株式のボラティリティ自体と同じ傾向ですが、直感的にはストレスがかかった市場においては、価格の不安定さが増すためと理解することができます。

2. 平均回帰性と自己相関
株式のコリレーションは、強い平均回帰性があり、その反面自己相関は弱いという傾向が明らかになっています。また株式のコリレーションの分布はジョンションSB分布でのフィッティングが良いということも分かっています。

債券のコリレーションについても、景気動向との関係においては株式のコリレーションと同様、不況時には債券のコリレーションおよびコリレーションのボラティリティが高まる傾向があります。ただし平均回帰性については株式ほど強くはありません。また企業のデフォルト率のコリレーションについても株式のコリレーションと同様の傾向があると言われています。

【参考文献】
・Correlation Risk Management and Modelling, Gunter Meissner 等

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第58回 〜多変量相関のモデリング コピュラ〜