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リスク管理最前線 第56回 〜コリレーション・リスク〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

コリレーション・リスク

コリレーションとは資産間の相関関係のことであり、この相関関係が変化するリスクをコリレーション・リスクと言います。コリレーションは投資、トレーディング、リスク管理等あらゆるファイナンスの分野において重要です。また、コリレーションは市場リスクや信用リスク、集中リスク、システミック・リスク等多様な種類のリスクと関連しています。今回はコリレーション・リスクの概要をご紹介いたします。

ファイナンスにおけるコリレーションとは


コリレーションとは一義的なものではなく、大きく分けて静的相関と動的相関の2種類の概念があります。静的相関とは複数の資産が一定の期間内(例えば1年間)にどのように関連していたかを示す統計的な概念で、相関の強さを表す指標として相関係数が代表的です。数学的には2変数XとYの相関係数は、XとYの共分散を、Xの標準偏差とYの標準偏差で除することによって求められますが、-1から1の範囲の値となり、1に近いほど正の相関が強く、-1に近いほど負の相関が強く、0に近い場合は相関関係がほとんどないということになります。一方、動的相関とは複数の資産が今後どの程度関連した動きを示し得るかという、より広義の概念で、トレーディングの世界においては、この意味でコリレーションが語られるケースが多いと思います。

また相関関係とは似て非なる概念に因果関係があります。因果関係とはAという事象の発生が、B
という事象の発生確率に影響を与えるような関係です。因果関係の理解は将来の予測において重要ですが、統計的な指標である相関関係が0であっても、因果関係が成立し得る点に注意すべきです。

ファイナンスにおけるコリレーション・リスクとは


コリレーション・リスクとは複数の資産間の相関が変動することにより発生しうる損失のことです。相関する変数には、異なる企業のデフォルト事象や株価等のファイナンス分野の変数と、政治的緊張状態と外国為替レート等非ファイナンス分野の変数があります。

ファイナンス変数のコリレーション・リスクスの例として、スペイン国債のクレジット・デフォルト・スワップ(以下「CDS」。参照する資産がデフォルト事象に該当した場合に、一定の補償金を支払う契約)をフランスの民間銀行Cから購入する場合、そのCDSの価値はスペインとC銀行のデフォルト事象の相関に依存します。コリレーションが高くなった場合においては、スペイン国債のデフォルト時に、C銀行のデフォルト確率も高まっていることになりますが、言い換えますと、補償が必要になった時に、補償が履行されない可能性が高まっているということになり、CDSの価値は低下していることになります。このように相関関係が強まることにより価値が低下する取引のリスクは、誤方向リスク(Wrong Way Risk)と呼ばれています。

トレーディングとコリレーション


金融機関においては、コリレーション・リスクを収益機会と捉えてトレーディングを行う部署が存在し、いわゆるエキゾチック・オプションを扱うデスク等があります。コリレーションに価値が依存する取引としては、2つの資産価格の差額を参照するスプレッド・オプション、複数の銘柄から成るポートフォリオの価値を参照するバスケット・オプション等があり、また明示的に一定期間に観測された2つの資産の相関係数によってペイオフが決まるコリレーション・スワップも取引されることがあります。

2012年にJPモルガンにおいてCDS取引により巨額損失が発生した「ロンドンの鯨」事件は有名ですが、その取引の狙いもコリレーション変動による収益の獲得でした。北米の優良企業125社の投資適格債のインデックスのCDSを売り、同時に個別企業の債券のCDSを買う取引で、回復基調の経済環境下でコリレーション低下による収益を獲得する狙いでしたが、ポジションが大きすぎたことからヘッジファンドの標的となり、結果的には20億ドル超と言われる巨額損失を被りました。

リスク管理とコリレーション


代表的な市場リスクの指標であるバリュー・アット・リスク (VaR) における、コリレーションの影響を考えますと、リスクの大きさはポートフォリオの共分散ですので、資産間の相関関係が強まるとVaRは大きくなります。直感的な理解としては、相関関係が強まるとポートフォリオの分散効果が弱まるため、リスクが大きくなるということです。このようにコリレーションは市場リスクに影響を与えます。

2007年から2009年にかけてのグローバル金融危機において、その元凶となったのは債務担保証券(以下「CDO」。資産担保証券の一種で、複数の社債やローンのポートフォリオを参照し、シニア、メザニン、エクイティ等リスクの異なる部分に区分(トランチング)した証券化商品。)と言われています。通常はリスクの最も高い劣後債であるエクイティやメザニン債がデフォルト・リスクを吸収するため、シニア債は安全資産と考えられ、格付機関により最高格付けのAAAが与えられていました。しかし、往々にして経済環境が悪化し市場にストレスがかかると相関関係が強まりますが、当時もポートフォリオ内の資産間の相関関係が強まることにより、シニア債の価値が毀損し、同時にCDS(信用リスクプロテクション)の購入によるリスク低減効果も、CDS売り手の信用力悪化により減少していく中で、レバレッジをかけてシニア債に巨額の投資をしていた投資家のみならず、大きなリスクを抱えていた金融機関や保険会社も痛手を被り、CDO市場が崩壊していきました。この事例からもコリレーション・リスクはリスク管理において重要であり、市場リスクのみならず、信用リスクや集中リスクの増大をもたらし得ることが、改めて理解できます。

危機発生時に、連鎖反応により、金融システム全体が大きな想定外の損失を被るリスクは、システミック・リスクと言われます。金融機関の国際規制であるバーゼルIIIにおいて、グローバル金融危機の反省から、流動性やレバレッジに関する規制が導入されましたが、システミック・リスクに大きな影響を与えるコリレーション・リスクを減少させる様々なモデルやルールも導入されました。

【参考文献】
・Correlation Risk Management and Modelling, Gunter Meissner等

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第57回 〜金融市場におけるコリレーションの特性〜