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リスク管理最前線 第43回 〜リスク管理のガバナンス(パート5)リスクのモニタリングと部署間の連携〜
  • リスク管理コラム
  • 欧米金融機関の現場から

リスク管理のガバナンス(パート5)リスクのモニタリングと部署間の連携

前回リスクリミットの設定についてご紹介しましたが、今回は設定したリスクリミットに沿った運用をするためのリスクのモニタリングと、リスクガバナンスにおける部署間の連携についてご紹介します。これらはあくまでも金融機関における事例ですが、事業法人においても原則は変わらずご参考になる部分は多いかと思います。

リスクのモニタリング


多様なリスクの種類の中でも市場リスクは最も時限性が高く、継続的なモニタリングが必要です。そのためにポートフォリオの日次の時価評価が欠かせません。日次損益がオペレーションやファイナンス等トレーディングから独立した部署で集計され、経営幹部に報告されます。デリバティブ等の評価モデルについても、すべての前提条件についてトレーディングから独立した部署において検証されなければなりません。またトレーディング部署はリスクポリシーやリスクリミットを遵守し、ポリシー違反やリミット超過があった場合の報告や是正のプロセスについて定められている必要があります。許容できるリミットの超過と許容できない超過についての対処方法が明確に文書化されていて、関係部署に周知されている必要があります。

バリュー・アット・リスク(VaR)等のリスク計測モデルの内部評価は重要で、モデルの前提と実際のポートフォリオ価値のボラティリティ(変動)が整合的か等、定期的に検証する必要があります。また市場や信用リスクの状況に重大な変化が起きた際の損益への影響を把握するためのストレステストも実施する必要があります。

トレーディング部署から独立したリスク管理部署が日次でリスクをモニタリングしますが、日中の新規取引や市場変動に伴うエクスポージャーの変動はトレーディング部署にて把握し、リスクリミットに抵触する恐れのある場合はリスク管理部署と協議する必要があります。大きな取引を行う可能性がある場合はリミットに抵触する可能性は前もって分かっているはずで、リスク管理責任者になるべく早い段階で報告し協議を行えば、いくつかの条件のもと一時的にせよリミット超過が承認される可能性は高まります。例えばある大きな取引の重要性が確認され、対策についてトレーディング部署とリスク管理部署の間で合意できればリスクコミッティにおいて一時的なリミットの変更が決定される場合があります。

リミット超過が発生した場合、リスク管理部署は日次のリスクレポート(金融機関の場合通常リミットの超過を報告するリミットレポートを別途作成している)において、リミット超過の背景、一時的なリミット変更を行なった場合はその内容と理由、リミット内にリスクを低減する対策等について報告します。

前回リミットは階層的で重要度の特に高いTier1リミットと標準的なTier2リミットがあるというお話をしましたが、通常Tier1リミットの超過は直ちにリスクが低減されるのに対して、Tier2リミットの超過は比較的緊急性が低く、数日間から1週間程度の猶予が与えられることがあります。ただしいかなるリミットの超過もレポートから除外されることはありません。

効果的なリスク管理には機会費用が伴います。リスクに制限をかけることにより、収益機会を諦めなければならない場合があるからです。リスクリミットに近づいた際には費用便益分析を行い、一時的な超過を認めるか、恒久的な変更を行うべきか、あるいは一切超過を認めないか、決定する必要があります。

リスクのガバナンスにおける部署間の連携


最後にリスクのガバナンスにおける部署間の連携について触れますが、リスク管理は全社的な取り組みであり、すべての部署、すべての従業員にその責務があります。

これまでにご紹介した通り、トレーディング部署から独立したリスク管理部署はリスクポリシーの策定と運用の他、経営層へのリスクの報告、リミットのモニタリング、評価モデルの検証等を行います。経営層はリスク管理部署の報告や提言を受け、リスク許容度の設定や、リスク管理方針の決定、パフォーマンス評価等を行います。トレーディング部門は経営層の管理下、リミットに沿ったエクスポージャー管理、時価評価の確認等を行います。

オペレーション部署は取引先と取引の内容を確認し、システムに記録し、決済処理を行います。またフロントで把握しているポジションとバックオフィスで記録したポジションを突合し内容の一致を確認します。またポジションの時価評価を行い、損益レポートを作成します。

ファイナンス部署は時価評価や会計方法に関する方針を定め、評価モデルや手法のレビューを行い、損益の正確性を担保します。また事業計画策定に関与し、多様なビジネスのファイナンスニーズを支えます。

内部監査部署は社内で定めたリスク管理方針や監督官庁の規制に則ったリスクガバナンスが全社的に実践されていることを確認します。そのために各部署において文書化された規程や実際の業務プロセス、データの取り扱い方法、システム機能と改善の進捗、モデル評価の方法、規制の遵守等を各部署から独立した立場で検証します。

【参考文献】
Foundation of Risk Management (Pearson Education) 等

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第44回 〜信用リスクの移転手法〜