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リスク管理最前線 第31回 〜リスクの類型と相互関連(パート2)〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

リスクの類型と相互関連(パート2)

前回はリスク類型化の意義と、主要なリスク要因の内、ビジネスリスクと戦略リスク、および市場リスクについて触れましたが、今回は引き続きその他の主要なリスク要因、ならびにリスク要因間の相互関連について述べたいと思います。

信用リスク


信用リスクは契約当事者の一方が、契約の相手方に対して、金銭的な義務を履行しないリスクですが、いくつかの種類があります。一つ目はローンの借り手や債券の発行者が、元本や金利を支払わない倒産リスクあるいは債務不履行リスク(デフォルトリスク)、二つ目は格下げによってリスクが増加する、あるいは社債等の価格が下落する等の格下げリスク、三つ目は取引相手方が決済に失敗する決済リスクまたはカウンターパーテイーリスクです。

信用リスクの大きさは、デフォルト時のエクスポージャー、デフォルト確率、回収率によって決まります。デフォルト時のエクスポージャーはローンや債券の場合、元本と未収利息で、スワップ等のデリバティブの場合、取引相手が支払義務を負う時価評価額です。デフォルト確率は取引相手や発行体の信用力に依存し、回収率は担保価値や取引相手の財政状態に依存します。

さらにポートフォリオレベルで見た場合、特定の取引相手や銘柄にエクスポージャーが集中しているケース(個別銘柄の集中リスク)、取引相手や銘柄間の信用力の相関が高いケース(特定の業種や国への集中リスク)、デフォルト確率とデフォルト時のエクスポージャーの相関が高いケース(Wrong Way Riskと呼ばれる)では、より信用リスクが大きくなります。

流動性リスク


流動性リスクには大きく分けて、資金調達リスクと市場流動性リスクの2種類があります。

資金調達リスクはキャッシュフローのリスクのことで、支払義務に見合う資金調達ができない、あるいは急成長中の新興企業が必要な投資のために、十分なキャッシュがあっても、日々の経費支払が困難になるケース等もあります。銀行の場合、そのビジネスモデルから、資産と負債の期間のミスマッチが生じるため、資金調達リスクに晒され、財務部門によって資産/負債の期限のバランスの管理(ALM:Asset/Liability Management) がなされますが、2007年から2009年の世界的な金融危機時には、リーマン・ブラザースの倒産に代表されるように、資金調達リスクが直接の倒産の原因になった事例が多数発生しました。

市場流動性リスクは、資産の市場流動性が大幅に低下し、通常の状態の市場よりも資産の処分価格が低下してしまうリスクです。特に金融機関において、資産の売却による資金調達に依存している場合には、市場流動性リスクが資金調達リスクに繋がります。市場流動性リスクは、市場の取引量や売買スプレッドが指標になり得ますが、危機発生時の影響の予見は非常に困難です。

オペレーショナルリスク


オペレーショナルリスクは、プロセスや人、システム等の内的要因やサイバーアタックや災害等外的要因等に起因し、不適切なあるいは失敗の事象から損失が発生するリスクで、マネロンやサイバーアタック、従業員による不正や横領等広範囲に渡ります。通常法的リスク(リーガルリスク)を含みますが、ビジネス/戦略リスクや後述のレピュテーショナルリスクとは区別されます。

金融機関以外では、オペレーショナルリスクがリスク管理部門における業務運営上の主たる関心事であり、保険等の手段でリスク低減を図ります。

レピュテーショナルリスク


レピュテーショナルリスクとは、企業の地位、ブランド、イメージ等が急激に低下する事件が発生し、経済的損失にもつながるリスクです。レピュテーショナルリスクは、通常これまでに述べた各種類のリスクの発現によりもたらさられます。会計的、人的なスキャンダルや不公正取引等、企業の健全性や公平性、統治力を揺るがす事象はその典型的な例で、顧客の流出や監督官庁からの制裁等、時に大きなダメージをもたらします。

リスク要因間の相互関連


すでに見てきたように、これらのリスク要因は独立したものではなく、相互に関連し合います。2007年から2009年の世界的な金融危機時には、サブプライムモーゲージの信用リスク問題に痰を発し、金融機関の資金調達リスクによる倒産を引き起こし、さらに資産価値の市場流動性リスクが発現しました。またベアリング社の事例等、トレーディングにおける人為的な詐欺や、注文ミス等のオペレーショナルリスク事象により、大きなポジションを抱え、市場リスクの問題を引き起こし、最終的にはレピュテーショナルリスクにも発展するケースが過去にいくつも発生しています。

このリスク要因間の相互関連は、リスク管理態勢を考えるにあたって非常に重要な点です。各リスク要因の専門家は必要ですが、横断的な視点も必要です。これはリスク管理最高責任者(CRO)のみの役割ではなく、各分野のリスク管理部署やチーム間の情報連携やコミュニケーションが重要となります。統合的なリスク管理を目的として、公式なリスク管理委員会あるいはリスクコミッティ、もっとカジュアルなレベルでのリスクフォーラム等が定期的に開催されるのはそのためです。

【参考文献】 Foundation of Risk Management (Pearson Education)
金融リスクマネジメントバイブル(金融財政事情研究会)

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第32回 〜リスクの認識〜