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リスク管理最前線 第37回 〜リスク管理ロードマップ(パート3)リスク管理運用態勢の構築とリスクリミット体系〜
  • リスク管理コラム
  • 欧米金融機関の現場から

リスク管理ロードマップ(パート3)リスク管理運用態勢の構築とリスクリミット体系

リスク管理運用体制構築のステップと留意点


前回までに紹介したステップにより主要なリスクに対する対応方針が設定された後、リスク管理運用態勢の構築を主導するリスク管理組織が必要となります。リスク管理運用態勢を構築するために必要な決定すべき事項の例は下記のとおりです。

1. リスク管理における重要事項
 ・リスクアペタイト、ヘッジ方針
 ・基本的なゴール(損益の安定化、企業の健全性評価の向上、リスクリミットを超越する頻度の減少等)
 ・会計方針(コスト部門/収益部門等)
 ・対象となるリスク(リスクのタイプおよび影響期間等)
2. 適正な規模のリスク管理組織
 ・人材、予算
3. 報告体制、責任の所在、牽制
 ・独立性
4. リスク管理規程とプロセス(文書化)
5. 人事評価制度
 ・評価方法
 ・報酬体系

リスク管理組織の適正な規模はリスク管理方針に依存します。一度のみのヘッジや保険でリスクに対応する場合は比較的シンプルな管理で十分かもしれませんが、市場の変動に応じて動的にヘッジ取引を行うような場合等は事情が異なります。動的ヘッジはトータルのヘッジコストの節約につながる場合はありますが、反面リスク管理システムや専門性のあるトレーダーに投資することが必要になります。さらに複雑なモデルやバリュー・アット・リスク等のリスク指標の導入、リスクリミット体系による管理等が必要となり、トレーディング部署とオペレーション部門、リスク管理部門を分離する必要性も高くなります。なおリスクリミット体系につきましては後述します。

リスク管理組織が手薄の場合、複雑な金融商品や戦略を採用している企業は、投資銀行等の金融機関への依存度が高くなるすぎることがあります。例えば自社でヘッジ取引の適正な時価評価ができないというような事態が起こり得ます。定期的にリスク管理戦略の複雑性と、その戦略の保守性のバランスが取れているかの分析評価を行うことによって、そのような事態を招かないようにすることが肝要です。

管理会計上、リスク管理部署の位置付けがコスト部門か収益部門かを決定する必要もあります。事業会社ではコスト部門として扱われるケースがほとんどですが、一部の金融機関では収益部門と位置付けられることもあります。またリスク管理部署のコストを社内の事業部門間でどのように分担するか等も決定する必要があります。ここで一つの決まったルールが存在するわけではなく、内容は組織のリスク文化や許容度によって変わってきます。

リスクリミット体系


リスクリミット体系はリスク管理方針に沿った効果的なリスク管理を実践するにあたって重要な位置を占めるものですが、その内容や組み合わせは、やはり企業の置かれた状況、市場環境、リスク文化等によって多様なものとなり得ます。ここでは金融機関等で採用されているリスクリミットの種類を例示するに留めておきたいと思います。

ストップロスリミット:あらかじめ設定した損失額に到達した際のアクションの取り決め(報告及び対応の協議、全ポジションの解消等)
(想定)元本リミット:エクスポージャーの元本相当額。(デリバティブの場合想定元本が必ずしもリスクの大きさを表さない点に注意が必要)
リスクタイプ固有のリミット:流動性指標や財務健全性指標に関するリミット等。(他のリスクタイプとの統合は困難)
満期/ギャップリミット:最長満期や各期間バケットにおけるエクスポージャーの限度額
集中リミット:特定の取引先に対する信用エクスポージャーの集中を避けるための与信限度額や、市場の流動性等に鑑み特定の商品等へのポジションの過度の集中を回避するための限度額等
市場感応度(センシティビティ)リミット:デルタ、ガンマ、ベガ等の市場パラメーターに対する感応度の限度額
バリュー・アット・リスク(VaR):一定の保有期間において、一定の信頼水準のもと発生し得る最大損失額
ストレスロス/シナリオリミット:(非常にシビアな)想定シナリオやヒストリカルシナリオが発生した場合に被り得る損失額

【参考文献】
Foundation of Risk Management (Pearson Education)

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第38回 〜リスク管理ロードマップ(パート4)リスクアペタイトの実践〜