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リスク管理最前線 第51回 〜市場リスク指標の推定(パート4)ノンパラメトリック手法の利点と欠点〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

市場リスク指標の推定(パート4)ノンパラメトリック手法の利点と欠点

市場リスク指標の推定において、ヒストリカル・シミュレーション法(以下「HS法」)に代表されるノンパラメトリック手法は広く利用されています。一般的に、市場環境が安定している時期においては非常に有効な手法ですが、そうでない場合においては限界があり、ストレステストで補完することが重要です。ノンパラメトリック手法が直接過去のサンプル期間の損益データセットを利用するのに対して、パラメトリック手法は損益の分布をモデル化し、そのモデルに基づいてリスク指標を推定します。ただしモデル化にあたっては通常過去データへのフィッティングが行われるため、この手法もやはり過去データの影響を相当程度受けることになります。ここでノンパラメトリック手法の利点と欠点を整理しておきます。また過去データのサンプル期間の長さによる問題にも触れておきます。

ノンパラメトリック手法の利点


ノンパラメトリック手法の主な利点として、下記のものが挙げられます。

• 直感的に理解しやすく、概念的にシンプルである。したがって説明もしやすい。
• パラメトリック手法と異なり損益データの分布に仮定を置かないため、ファット・テールやゆがみ等の市場データの特徴を自動的に織り込める。
• 時価評価可能なポジションはデリバティブを含めすべて取り扱い可能である。
• リスク管理の実務において、経験的に推定値が妥当な水準にあると言われている。
• Excel等のスプレッドシートでも実装しやすい。
• パラメトリック手法で往々にして問題となる相関マトリックスの推定や多次元分布等のモデルの取り扱いに関する煩雑さがない。
• インプットとなる市場変動に関する時系列データは社内データベースやブルームバーグ等の外部データサービスから直接入手可能なものが多い。
• バリュー・アット・リスク(以下「VaR」)や期待ショートフォール(以下「ES」)の信頼区間が容易に推定可能である。
• 前回のコラムで紹介した改善手法等による、リスク指標の推定値の精緻化が可能である。

ノンパラメトリック手法の欠点


一方、ノンパラメトリック手法の欠点の最たるものは過去のデータセットに縛られるという点ですが、これにより以下のような問題が生じ得ます。

• 過去データのサンプル期間の市場変動が現状と比較して小さければ、リスクの推定値は実際のものより小さくなりがちで、逆にサンプル期間の市場変動が比較的大きければ、リスクの推定値は実際のものより大きくなりがちである。
• パラダイムシフトや市場の急変があった場合に、当該イベントがVaRやES等の推定値に反映されるまでに通常時間を要する(タイムラグ)。
• 市場ルールの変更等により、将来的には起こり得ないイベントのデータの影響を受けてしまう可能性がある(データの調整をしない限り)。
• 逆に、発生し得るイベントでも、サンプル期間に実際に発生していなければ、リスク指標の推定には織り込まれない。
• 前回のコラムで紹介した改善手法等を適用しない場合、ヒストリカルデータの中の最大損失があらゆるリスク推定値の上限となる。

過去データのサンプル期間の長さによる問題


リスク指標の推定値はヒストリカルデータのサンプル期間の長さに依存しますが、推定値の精緻化や安定化のためには、ある程度多数のデータが必要です。一方でサンプル期間が長すぎると次のような問題が生じ得ます。

• 現在のリスクの状況を必ずしも反映しない古いデータの影響を受けやすくなる。
• 市場環境の変化がVaRやESに反映されるまでに、より長い時間を要する。
• 市場によっては長期間遡ったデータの取得が困難である。

過去データのサンプル期間は短すぎても、長すぎても、問題が生じ得るので、サンプル期間の設定においてバランスを取る必要があります。理想的なサンプル期間の長さは、その時々の市場環境にも依存するので正解はなく流動的です。しかし実務的には適用手法の継続性が相当程度求められるので、サンプル期間を頻繁に変更すべきではありません。日次データの場合最低2年間分は必要と言われていますが、金融機関の実例では3年間から4年間のデータサンプル期間が採用されています。

【参考文献】
Market Risk Management and Measurement (Pearson Education) 等

◇MRAフェロー 伊東啓介

リスク管理最前線 第52回 〜市場リスク指標の推定(パート5)テール・リスク定量化の統計学的アプローチ〜