リスク管理最前線 第62回 〜信用格付(その1)〜
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信用格付(その1)
個別銘柄の信用格付は、信用リスク管理の実務において重要な指標であり、投資判断、適正な資産価値の評価、将来の期待損失額の推定等に利用されています。通常、公募社債の発行にあたっては、専門的な格付機関(以下「外部格付機関」)により、当該社債の信用格付が付与されます。金融機関等はこれら外部格付機関の格付情報を利用していますが、外部で格付される資産はほんの一部であるため、自社ポートフォリオの信用リスク管理において、自社モデルによる与信先や金融資産の内部格付を主に使用しています。今回は信用格付の概要についてご紹介します。
外部格付機関の信用格付
世界的に代表的な外部格付機関はムーディーズ(以下「Moody’s」)、スタンド・アンド・プアーズ(以下「S&P」)、フィッチ(以下「Fitch」)の米国企業3社です。日本でもこれら3社の格付が広く利用されていますが、加えてR&I(格付投資情報センター)や日本格付研究所の格付も利用されています。
外部格付機関による格付には債券の種類に応じて長期格付及び短期格付がありますが、長期格付のスケールは、S&PやFitchの例では、AAA(トリプル・エーと呼ばれる)が最上格であり、以下AA、A、BBB、BB、B、CCC、CC、Cと信用力に応じて格付が下がり、債務不履行に陥った(デフォルトした)債券についてはD格が与えられます。Moody’sについても表記は異なりますが、同様のスケールとなっています。
一般的に投資適格債と考えられているのはAAAからBBBまでで、BB以下の場合、投資不適格債あるいはハイ・イールド債などと呼ばれています。ただし投資判断はあくまでも個別の投資家によるものであり、投資不適格債への投資を積極的に行う投資家も数多く存在します。
外部格付機関による信用格付について、信用格付とデフォルト確率に関するヒストリカルな検証がなされており、信用格付毎の期間毎のデフォルト確率の分析結果から、一般的にその信頼度は高いと考えられています。ただしグローバル金融危機を引き起こす原因の一つになった、クレジット仕組債等の格付については、モデルに依存するところも大きく、当時を振り返ると必ずしも適正な格付評価がなされていたとは言えない面があります。
長期にわたるグローバル市場での過去実績で、AAA〜Aは5年以内にデフォルトする確率は概ね0.5%以内、BBBは1.6%、BBは7%、Bは17%程度となっています。また経過年数毎の条件付デフォルト確率、すなわちn-1年目まで生存しn年目にデフォルトする確率については、投資適格格付(AAA〜BBB)においては経年で上昇する傾向があり、投資不適格格付(BB以下)においては経年で低下する傾向があります。この傾向は、経済や市場環境の変化により、高い格付のものは時間の経過により信用力が低下してゆく可能性があり、逆に低い格付のものは生存し続けることにより信用力が上昇してゆく可能性があることの現れと考えられます。
上記の経過年数毎の条件付デフォルト確率は、1年を単位としてその期間内にデフォルトする確率のことでしたが、この期間を微小単位まで細分化し、時点tにデフォルトしていなかった企業が、次の瞬間デフォルトする確率のことをハザードレートと言います。なお、時点0から時点tまでの平均的なハザードレートをh‾とすると、時点tまでの生存確率は exp(-h‾t) となり、時点tまでにデフォルトする確率は 1-exp(-h‾t) と表せます。
ハザードレートによりデフォルトの期間構造をモデル化することが可能で、実務的にはモンテカルロ・シミュレーションによる信用リスク分析を行う際等に利用されています。
回収率
信用リスク管理において、債権者はデフォルト事象により発生する潜在的な損失額に関心があります。企業に清算価値がある場合等は、デフォルトが発生しても一部債権回収が見込まれるため、デフォルト確率のみならず、デフォルトした際の回収率も重要な指標となります。デフォルトによる期待損失額は以下の式で表せます。
デフォルトによる期待損失額 = 債権額 × デフォルト確率 × (1 − 回収率)
(62.1)
回収率は返済順位の高い債権ほど高くなります。例えば同じ発行体の債券でも劣後債よりシニア債の方が返済の優先順位が高いため、回収率も比較的高くなります。
また、デフォルト確率と回収率の負の相関関係に注意が必要です。不況時にはデフォルト確率が上昇しますが、同時に投資対象企業の保有する資産の価値が減少することにより回収率が低下する場合が多々あります。
クレジット・スプレッドとリスク・プレミアム
クレジット・スプレッドとは、企業などが資金調達する際に、安全資産である国債などの金利に上乗せされる超過利率のことですが、クレジット・スプレッドの構成要素は大きく二つに分けて、期待損失額を補うリターンを得るための超過利率(期待損失額相当分)と、リスクを負担する対価としての超過利率(リスク・プレミアム)から構成されます。一般的には前者より、後者のリスク・プレミアムの貢献度が大きくなります。リスク・プレミアムには信用リスクのみならず、債券の流動性リスクに対するプレミアムも含まれていることはその一因と考えられています。
【参考文献】
・Valuation and Risk Models: Global Association of Risk Professionals
・金融庁リスクモデルに関する研究会―信用リスク管理モデルの理論的分析(補論)等
◇MRAフェロー 伊東啓介
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