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リスク管理最前線 第13回 〜流動性リスク(パート1)〜
  • 欧米金融機関の現場から
  • リスク管理コラム

流動性リスク(パート1)

今回は市場リスクのトピックスから少し離れ、金融機関にとって重要な7種の代表的なリスク(戦略リスク、市場リスク、信用リスク、オペレーショナル・リスク、流動性リスク、コンプライアンスリスク、レピュテーション(風評)リスク)の一つである、流動性リスクの管理について、基本的な考え方、および近年の動向をご紹介したいと思います。

流動性リスクとは、資金繰りに関わるリスクですが、顕在化した場合には企業破綻に直結することもあります。実際クレジット・クライシス(金融信用危機)が発生した2007〜2008年に、欧米の大手金融機関の資金繰り逼迫による破綻事例が相次いで以降、流動性リスク管理の重要性は大いに見直され、投資銀行においてもリスク管理体制は大きく変わりました。

破綻事例の一つで、私が2007年英国在住時代に発生した英国ノーザンロック銀行の破綻は、文字通り現金取り付け騒ぎが起こり、預金者が銀行の窓口に殺到したため大変記憶に残っています。余談ですが、こんな時でもカオスにならず、銀行の外で人が列になって並んでいたのはいかにも英国らしい光景だったと思います。

ノーザンロック銀行は住宅ローンを提供する金融機関で、比較的優良なローンポートフォリオを持っていたにもかかわらず破綻してしまいました。その理由は同行の資金調達構造にあり、当時利回り商品の一つとして流行していた住宅ローン証券化商品等を用いて、調達のかなりの部分を住宅ローン流動化(債権の現金化)に頼っていました。ところが米国で顕在化したサブプライム問題により、住宅ローン証券化商品の需要が急減し、流動化が進まなくなってしまったため資金繰りが破綻してしまいました。

その後米国で大型の不動産金融会社カントリーワイド、ファニーメイ、フレディマック等の経営が同様の理由で行き詰まり、さらに不動産関連商品に多額の投資を行っていたベアー・スターンズ、リーマン・ブラザーズといった投資銀行も、帳簿上では債務超過ではなかったにもかかわらず、被吸収合併あるいは破綻した直接の原因は資金繰りであったと言われています。

ポイント1:流動性リスクとは
ポイント2:金融機関の流動性リスク管理体制
ポイント3:流動性リスクに関する国際規制
ポイント4:流動性リスクの定量化
ポイント5:流動性リスクのリミット管理
ポイント6:流動性リスクと市場リスクの関連

ポイント1:流動性リスクとは


流動性リスクとは前述の通り、金融機関の資金繰りに関わるリスクですが、「資金流動性リスク(資金繰りリスク)」と「市場流動性リスク」に分けて考えられます。

資金流動性リスク(資金繰りリスク)とは、様々な支払義務に対して、必要な資金の確保ができなくなる(=資金繰り破綻)、あるいは負債の調達コストが上昇して損失を被るリスク(=資金調達市場の市場リスク)です。従来は流動性リスク=資金繰りリスクという考え方が金融機関でも浸透していました。

市場流動性リスクとは、市場流動性の低下(取引高の減少、場合によっては流通市場の機能停止や消滅)により、保有ポジションを適切なタイミングや適切な価格で処分することができないことにより、損失を被るリスクです。見方によっては市場価格の異常な変動による損失とも捉えられるので、市場リスクと密接に関連しています。

流動性リスクと市場リスクの関連については後述しますが、こと市場流動性リスクに関してはその境目が曖昧です。価格変動の要因で切り分けるとすれば、正常に機能している市場で需給、政策等によりもたらされている価格変動は市場リスク、市場が機能停止あるいは消滅したため売買ができない、あるいは異常な価格でしか資産を処分できない状態に陥ることは市場流動性リスクと言えます。

別の視点では、市場流動性リスクはあくまでも資金繰りに関するリスクですので、例え市場が機能停止あるいは処分価格が異常になっても、資金繰りを特定の資産売却に頼らずとも対応可能な場合はまだ流動性リスクが顕在化しておらず、資金繰りのためにやむなく資産を処分し売却損がでた場合のみ流動性リスクが顕在化したとみなし、処分しない場合の価格変動は全て市場リスクと考えることもできます。しかしどう切り分けようが、本質的に抱えているリスクは変わらず、見方だけの問題ということになります。

ポイント2:金融機関の流動性リスク管理体制


流動性リスクの顕在化が金融危機時の大型金融機関破綻の直接の原因だったことから、また金融機関の信用不安から市場性資金調達コストが不安定になったことから、その後の金融機関の流動性リスク管理体制は大きく変わりました。

従来は、流動性リスク=資金繰りリスクという見方が主流で、資金繰りリスクを管理するのは、銀行では主に財務部門、あるいは財務部門と資金市場部門が連携して行っていました。財務部門がALM(Asset Liability Management=資産・負債の総合管理)を担当しており、資産と負債を時間軸で分析するマチュリティ・ラダー等の満期ギャップ分析・管理やバランスシート流動性分析・管理により、中長期的な資金繰りを安定させ、短期流動性に関しては資金市場部門が財務部門と連携しつつ、市場調達・市場運用で管理していました。そして資金繰りリスクに関してはそれぞれの部門が余裕を持って資金計画に織り込んでいました。

しかしそれだけでは資金繰りリスク管理が不十分であることが顕在化したため、独立した流動性リスク管理部門がほとんどの投資銀行で設置されるようになりました。流動性リスク管理部門は財務部門、資金市場部門の資金繰り管理をモニターし、リスクの定量化やリミット管理、ストレステスト等を実施する事により、流動性リスク管理のレベルを市場リスクや信用リスク管理と同等のレベルに引き上げています。

次回は流動性リスク管理の続編で、国際規制、リスク定量化、リミット管理、市場リスクとの関連等について触れたいと思います。

【参考文献】
・金融リスクマネジメントバイブル 東京リスクマネジャー懇談会編
・定量的リスク管理の実務 ジミー・スコグランド/ウェイ・チェン

◇MRAフェロー 伊東啓介

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