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調達品の市場価格リスク ~④“馴染み”の調達手法の売価引き下げメカニズムとその限界~
  • 市場価格リスクマネジメント
  • 大崎将行

こんにちは。MRAの大崎です。

第1回目:売り手の「コスト」と「利益」

第2回目:売り手の「市場価格連動費」の内訳

第3回目:売り手の「値下げ余地」

ということで、いずれも売り手側の立場にたって製品の売価(=買い手の調達品の買価)を考察してきました。今回はその内容を踏まえた上で「“馴染み”の調達手法の売価引き下げメカニズムとその限界」について考えてみましょう。実は、調達手法の売価引き下げメカニズムを理解することではじめて、その「馴染み」の調達手法の調達コスト対策としての「限界」とその先に待っている「市場価格(リスク)」との接点が見えてくるのです。

 

売り手の“値下げ余地”  実際の“値引き額


前回のコラムでは、売り手の“値下げ余地”や“限界売価”について考察しました。今回はそれを踏まえた上で実際に取引される際の製品の“売価”について考えていきましょう。

まず大前提として勘違いしてならないことは、売り手の製品の“値下げ余地”と、交渉の末、買い手が売り手から引き出せる実際の“値引き額”は決して「同じではない」ということです。言い換えれば、取引が成立する「製品の売価(=買い手の調達品の買価)」と「限界売価」は必ずしも「一致しない」ということです。売り手側に相応の値下げ余地があったとしても、買い手がそれを目一杯引き出して購入できるかどうかは全く別の話だからです。

・(売り手の)値下げ余地 ≠ (実際の)値引き額
売価 ≠ 限界売価

これは少し考えてみればすぐにわかります。前回のコラムで説明した通り、売り手は“切迫感”(=製品の需給環境)にリンクした形で「限界売価をコントロールしながら」買い手との交渉に臨みます。それと同時に基本的に売り手は「1円でも高く売りたい!」、「限界売価から少しでも高く売りたい!」という攻めのマインドを常に持ち合わせていますから、“収益追求度”に応じて限界売価から一定程度価格を上乗せして価格提示をしてきます(これを“上方バイアス”と呼ぶことにしましょう)。この“収益追求度”ですが「とにかく1円でも高く!」という「収益追求度:最大」の時もあれば、「営業ノルマを早く達成したいからここは取引を成立するために価格抑えめで…」や「この買い手との今後の商売のからみを考えればここはそんなに…」といった「収益追求度:低」の時もあります。そう考えると、最終的に売り手は、この“切迫感”(⇒限界売価)と“収益追求度”(限界売価からの上方バイアス)を勘案した以下の式を念頭において、買い手との交渉に臨んできていると考えるべきでしょう。

売価 = 限界売価 + 上方バイアス
(実際にどこまで厳密に計算しているかはまた別の話。あくまでも考え方として)

前回のコラムで見た通り、需給局面に応じた売り手の“切迫感”によって「限界売価」は異なりますので、まとめると以下の図の通りになります。(※「上方バイアス」は下にいくほど大きくなります)

一方で実際のところ、その価格交渉のポイントとなる売り手の“切迫感”や“収益追求度”、更に突っこんで言えば“限界売価”や“上方バイアス”についての本当のところは買い手側からはなかなか分かりません。売り手が提示してくる「見積もり価格」や交渉途中での「会話(&トーン)」、もしくは決算資料等から読み取れる「経営状況」等を手掛かりに推測していくのがやっとのところです。そう考えると、「結局、売り手のコスト構造や値下げ余地、最終的な売価提示のメカニズムを知ったところで意味ないじゃん?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそんなことはありません。“彼を知り己を知れば百戦殆うからず”とは孫氏の言葉。(売り手(サプライヤー)はあくまでも「パートナー」であり決して「戦う相手」ではありませんが…)彼らの提示する「見積もり価格」や交渉中の「会話」の裏側にある背景(⇒売り手の事情)に思いを巡らすことが、最終的にお互い納得のいく取引結果(win-win)につながるのです。

 

代表的な「馴染み」の調達手法と売価引き下げメカニズム


売価の内訳が理解できました。通常、買い手は、売り手からの“収益追求度”という恒常的な売価引き上げバイアスに抗う形で、あらゆる調達手法を駆使して売価引き下げを獲得しようと努力します。それでは、それら代表的な「馴染み」の調達手法はどのようなメカニズムで売価引き下げに寄与するのでしょうか?以下に“おさらい”の意味も含めて、代表的な「馴染み」の調達手法とその価格引き下げメカニズムを確認していきましょう。

※本コラムの趣旨とは異なりますので、以下で挙げる「馴染み」の調達手法に関する詳細については議論しません。これら各手法の詳細については専門書をご覧いただくか、その分野の専門家にお尋ねください。

【1.集中購買】

本社や工場、事業所などで複数の拠点でバラバラに調達していたものを、一か所に集約して調達する手法を「集中購買」と呼びます。一か所に集約して大量購入することにより、売り手から売価低下を引き出す手法です。その売価引き下げメカニズムは以下の通り2通り考えられます。

≪① 売り手の“稼働率”や“生産性”の向上 ⇒ 売り手の「非連動費(固定費)」の縮小 ⇒ 売り手の「限界売価」が低下≫

これは、いわゆる“売り手”の「ボリュームメリット」を活用した売価引き下げメカニズムです。

※調達を一か所に集中することで、在庫量のコントロールがしやすくなったり、調達活動をシンプルにすることが出来たりと“買い手”側にも「オペレーション上」のボリュームメリットはありますが、売価引き下げの観点からは“売り手”のボリュームメリットです。

売り手にとってみれば、買い手から当該製品を大量に購入してもらうことで“稼働率”や“生産性”が向上する可能性があります。当然、“稼働率”や“生産性”が高まれば、当該製品に対する生産コストは引き下がることになりますから、その結果、売り手自身の「非連動費(固定費)の縮小」につながる可能性があります。この売り手の「非連動費(固定費)の縮小」は売り手の「限界売価」の低下に直結しますので、売り手からしてみても売価を引き下げやすくなります。

売価(↓) = 限界売価(↓) + 上方バイアス

ただ、いくら買い手が交渉過程で集中購買による大量購入を持ち出したとしても、それが売り手の“ボリュームメリット”を引き起こすのに不十分な規模の場合は、売り手自身のコストメリットに繋がりません。その場合は、売り手から売価低減を引き出すのは難しくなります。

≪② 売り手における買い手の販売シェア増加 ⇒ 売り手の「収益追求度」の低下 ⇒ 売り手の「上方バイアス」が低下≫

売り手からしてみれば、買い手から当該製品を大量に購入してもらえばもらうほど、売上全体に占める買い手のシェアは増加します。シェアが大きくなればなるほど、売り手にとって買い手はいわゆる“お得意様”になる訳ですから、「次の商売もあるんで、ここは価格を抑えめに…」と言った形で“収益追求度”は低下していきます。“収益追求度”の低下はダイレクトに「上方バイアスの低下」につながりますので、

売価(↓) = 限界売価 + 上方バイアス(↓)

という形で、売価の低下を引き出しやすくなります。

前述の“ボリュームメリット”の議論と同様、いくら買い手が集中購買による大量購入を持ち出したとしても売り手全体の売上に対するシェアの増え方が微々たるものであれば、売り手の収益追求度を引き下げる効果は期待できませんので、売り手から売価低減を引き出すことは難しくなります。

以下の図で「集中購買」による売価引き下げメカニズムをもう一度確認しておきましょう。

2.サプライヤの集約

お付き合いしている売り手(サプライヤ)の数を絞り込み、売り手1社あたりの取扱い金額を増やすことを「サプライヤの集約」と呼びます。その売価引き下げメカニズムは以下の2通りが考えられます。

≪① 売り手の買い手に対する固定費(人件費等)の縮小 ⇒ 売り手の「限界売価」が低下≫

売り手からしてみれば、特定の買い手の売上金額が増えれば、その特定の買い手1社あたりに対する固定費(営業マンの人件費等)が縮小する可能性があります。非連動費である固定費が縮小すれば、ダイレクトに売り手の「限界売価」は低下しますから、買い手に対して売価を引き下げるインセンティブが生まれます。

売価(↓) = 限界売価(↓) + 上方バイアス

一方で、売上が増えることで売り手に追加的なコストが発生(人員増強、設備増強等)してしまえば、売り手からしてみれば限界売価の引き下げにはつながりませんので、売価低減を引き出すことは難しくなります。

≪② 売り手における買い手の販売シェア増加 ⇒ 売り手の「収益追求度」の低下 ⇒ 売り手の「上方バイアス」が低下≫

これは、「集中購買」の2つ目で説明した理由と全く同じですので、説明は割愛します。

折角ですからちょっと違うお話を…。シェアが増加すればするほど、その買い手との取引が解消した際の売り手の経営に及ぼすインパクトは多大なものとなってきます。シェアが限りなく100%に近づいた状態(⇒いわゆる“下請け”状態)になると、もはや買い手に対して強気な価格交渉はできません(収益追求度:ほぼゼロ⇒上方バイアス:ほぼゼロ)。買い手からしてみれば、売り手の「生殺与奪の権利」を握ることになるこの状態を敢えて狙いにいくケースもあるかもしれませんが、ここまでくるともはや「集中購買」による価格引き下げメカニズムとは別の論点の話になりますね…。 

それでは、以下の図で「サプライヤの集約」による売価引き下げメカニズムをもう一度確認しておきましょう。

【3.リバースオークション(買い手側の競争入札)】

買い手にとって調達品を複数の売り手から購入できる環境があるならば、「リバースオークション」を用いることで調達コストを引き下げられる可能性があります。リバースオークションとは、「複数の売り手から入札形式で販売価格を提示してもらい、最安値を提示した売り手と取引を行う」という買い手側の競争入札です。

このリバースオークションを用いることで、なぜ売り手の売価(=買い手の買価)が引き下がるのでしょうか?

複数の売り手の間で価格競争を促進しているから…」確かにそれは間違いではないのですが、そこで思考が停止してしまうとその先の示唆には辿りつけません。このリバースオークションが調達価格の引き下げに寄与する根本的な理由は、売り手間における以下の3つの「違い」を巧みに利用していることに起因しています。

 

≪①  売り手各社の“コスト構造(非連動費)”の違い ⇒ 各社の「限界売価」に差異≫


第1回のコラム(“売り手の「コスト」と「利益」”)で見た通り、売り手のコストは「市場価格連動費」と「非連動費」に分けることができます。このうち「市場価格連動費」に分類される「原材料費」や「物流費」、「光熱費」は「原材料価格」や「エネルギー価格」といったすべての市場参加者で折り合った「市場価格」によって決定する割合が大きく、売り手各社の間でその調達価格に極端に大きな差は生じません。(詳しくは第4回コラムで説明します)。また、同じ製品を作るのであれば、それら製品を製造するのに投入する原材料やエネルギーの「数量」にはそこまで大きな差は生まれません。各社間で調達価格や調達数量が似たようなものであれば、必然的に売り手各社間の「市場価格連動費」は概ね似た水準に落ち着きます。一方で「非連動費」については、従業員の賃金等の「労務費」や設備投資に絡む「減価償却費」、また「販売手数料」や「広告宣伝費」といった各社の「経営方針」や「経営努力」で大きく差が生じる費目の集合体となります。その結果非連動費」については各社によって差がうまれやすい状態となります。

提案売価の前提となる「限界売価」は、前回のコラムで見た通り売り手の“切迫感”別(需給局面別)に

・切迫感:低 (需給均衡局面)  ⇒ 限界売価 = 市場価格連動費 + 非連動費
・切迫感:中 (需給緩和局面)  ⇒ 限界売価 = 市場価格連動費 + 非連動費 - (非連動費における)減価償却費
・切迫感:高 (需給超緩和局面) ⇒ 限界売価 = 市場価格連動費 + 非連動費 - (非連動費における)固定費

で表されますから、売り手各社のコスト構造(⇒非連動費)が異なれば、当然売り手各社において限界売価」に差が生じることとなります。

 

≪②  売り手各社の“切迫感”の違い ⇒ 各社の「限界売価」に差異≫


第2回のコラムで見た通り、その製品の需給環境によって、「是が非でも“目の前の”この商談を成立させたい」(その商談が破談しても、次の顧客が控えているか否か?という売り手の“切迫感”は大きく異なります。また、同じ製品を取り扱っていたとしても、売り手各社が置かれている状況によっても当然その“切迫感”の大きさは異なってきます。この売り手各社の「“切迫感”の違い」は、売り手各社の「限界売価」に違いを生み出します。


≪③  売り手各社の“収益追求度”の違い ⇒ 各社の「上方バイアス」に差異≫


前述した通り、売り手は“収益追求度”に応じて、その時点の限界売価から一定程度価格を上乗せして価格提示します。その時々の売り手(や売り手の営業マン)の事情により「とにかく1円でも高く売りたい!」という「収益追求度:最大」の時もあれば、理由は様々あるにしろ「価格はほどほどで…」という「収益追求度:低」の時もあるでしょう。会社や営業マンが異なれば、当然この“収益追求度”に違いは生まれできますので、結果としてその「収益追求度の違い」が、売り手各社の「上方バイアス」の違いを生み出します。

仮に3社集めてリバースオークションを実施することを想定してみましょう。売り手3社から提案される売価は以下の通りです。

・提案売価(A社) = 限界売価(A社) + 上方バイアス(A社)
・提案売価(B社) = 限界売価(B社) + 上方バイアス(B社)
・提案売価(C社) = 限界売価(C社) + 上方バイアス(C社)

売り手各社によって“コスト構造”も違えば、“切迫感”も“収益追求度”も違いますので、結果として各社間の「限界売価」や「上方バイアス」に差異が生まれます。そうすれば、おのずと各社の提案売価に差がつくことになるでしょう。その中で最も提案売価の低い売り手と取引を実施すれば、現時点で取引可能な売り手の中から最も安い価格で調達できたことになります。特定の1社との間で取引をしている限りは、なかなか交渉も難航し値下げも引き出しにくいですが、売り手各社の「限界売価」と「上方バイアス」の違いを炙り出すことで調達コストを抑えることができます。
※実際の調達活動は単純に「価格」という要素だけでは決められない部分も多数ありますので、当然ながらこのリバースオークションが万能という訳ではありません。

リバースオークションの手法も色々と存在します。中には冒頭で述べた「複数の売り手間における価格競争」を多分に促すことで、売り手の“切迫感”や“収益追求度”に働きかけ、「限界売価」や「上方バイアス」引き下げる効果を生み出す手法が存在することも事実です。とは言えそれにも限界がありますから、リバースオークションの価格引き下げメカニズムの本質は、やはり『売り手各社間の「限界売価」や「上方バイアス」の差異を巧みに利用している』と理解することが自然でしょう。

最後におまけですが、既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、このメカニズムを理解していれば、必ずしもリバースオークションを利用しなくても「相見積もり」を上手く活用すれば同様の効果が引き出せる可能性はあります。売り手間の“コスト構造”、“切迫感”、“収益追求度”の違いを炙り出すという観点においては「相見積もり」も同様のメカニズムだからです。

 

【まとめ】

以上、「馴染み」の調達手法の売価引き下げメカニズムを各手法ごとに理解してきました。おさらいしてみましょう。

【集中購買】
 ・売り手の稼働率や生産性の向上による「固定費の縮小」(による「限界売価の低下」)
 ・売り手の収益追求度の緩和による「上方バイアスの低下
【サプライヤの集約】
 ・売り手の「固定費の縮小」(による「限界売価の低下」)
 ・売り手の収益追求度の緩和による「上方バイアスの低下
【リバースオークション】
 ・売り手間の“コスト構造”、“切迫感”、“収益追求度”の違いの「炙り出し
 ・売り手間の価格競争促進による「上方バイアスの低下

上記をまとめると、いずれの手法も

・「固定費の縮小」による「限界売価の低下
・「上方バイアスの低下

という効果ならびにメカニズムを通じて、売価の引き下げに寄与することがわかりました。

 

結局「馴染み」の調達手法を駆使して、どこまで売価を引き下げられるのか?


馴染みの調達手法による売価の引き下げメカニズムが理解できました。それでは今回のコラムの最後のお題として「これら調達手法を駆使することで一体どこまで売価が引き下げられるのか?」という、その限界について考えてみることにしましょう。

大前提として、第3回のコラムで見た通り、売り手には経営上値下げできる限界点である「限界売価」が存在し、「在庫一掃」という特殊な状況でもない限り、この「限界売価」を下回った価格水準で販売することは通常できません。よって、売価の引下げの可能性を議論する上では、この「限界売価」という水準が非常に重要なラインとなってきます。

実際の売価は本コラムの冒頭でみたとおり、

・売価 = 限界売価 + 上方バイアス

で決まりますので、仮に上記でみてきた「馴染み」の調達手法を最大限駆使することで(現実的ではないですが…)

・「固定費」⇒「固定費'」に縮小することで「限界売価」⇒「限界売価'」に低下し
・「上方バイアス」⇒「

まで実現できたとしましょう。その時の売価は、

・売価 = 限界売価'

ということになることが分かります。また、この「限界売価'」は売り手の“切迫感”(=需給局面)によって異なりますので、その点を踏まえると、馴染みの調達手法を最大限駆使できた場合の売り手の“切迫感”別の売価は以下の図の通りとなります。(※在庫一掃局面は特殊な状況の為、ここでは省きます。)

当然ながら、この「限界売価'」が最も引き下がる水準というのは、製品に対する需給が大きく緩み売り手の“切迫感”が最も高まった状態(上図の右端)ですので、この右端の売価が「馴染みの調達手法を最大限駆使」し、かつ、「買い手にとって最も有利な需給環境」における「売価が最大限引き下がった水準」ということになります。ここまでくると今回のコラムのポイントである重要な示唆が以下の通り導かれます。

どんなに「馴染み」の調達手法を最大限駆使しても、どんなに需給が緩み売り手の“切迫感”が高まっていようとも、売り手の「変動費」以下まで売価を引き下げることは難しい

また、今回のコラムの主題である「調達品の市場価格(リスク)」に紐づけて言えば、

・売り手の「市場価格連動費の“市場価格”連動部分」が「変動費」の内数(構成要素)である以上、当然ながらその製品の売り手の“原材料”や“エネルギー”費用の「市場価格」を下回る水準まで売価を引き下げることは難しい

ということです。この示唆は「馴染み」の調達手法の「限界」を浮かび上がらせています。実は、この示唆について言えば、第3回の「売価は限界売価以下には引き下げられない」という示唆が確認できた時点で自明な部分ではあるのですが、敢えて馴染みの調達手法の売価引き下げメカニズムを確認することで、その「限界」を再認識することができます。

話は多少横道にそれるのですが、なぜ私がここまで順を追って回りくどく調達手法による売価引き下げの「限界」を説明しているかというと、「これら馴染みの調達手法を駆使すればどこまでも売り手から値下げを引き出せるだろう」という錯覚をお持ちの方がいらっしゃるからです(我々のお客様の中にもいらっしゃいましたし、買い手の力が売り手に比べて非常に強い場合などは特に見受けられます)。「値下げに応じなければ、サプライヤを変えればいいんだ!」と半ば横暴なことを言ったとしても、自社が望む調達品を提供してくれる売り手は限られていますし、同じ調達品ならば、各売り手間のコスト構造も概ね似たようなものになることは前述した通りです。ここまでのお話をご理解していただければ、売り手にとって「値下げできる限界の水準」や、買い手がいくら「馴染み」の調達手法を駆使しても「受け入れざるを得ない水準」というのが存在しているということがご理解頂けると思います。その水準を理解しながら売り手と交渉するとしないとでは、交渉結果の納得度合いも変わってくるでしょう。

 

第4回のまとめ


  • 実際の売価は、「(売り手の“切迫感”に応じた)限界売価 + (売り手の“収益追求度”に応じた)上方バイアス」 で決定する
  •  代表的な「馴染み」の調達手法は、以下の効果ならびにメカニズムで「売価の引き下げ」に寄与する
     ・「固定費の縮小」 による 「限界売価の低下」
     ・「上方バイアスの低下」
  • どんなに調達手法を最大限駆使しても、どんなに需給が緩んで売り手の“切迫感”が高まったとしても、売り手の「変動費」を下回る水準まで売価を引き下げることは難しい(※売り手の「在庫一掃」という特殊な状況は除く)
    ⇒ 買い手は、(形式はともかく)売り手の“原材料”や“エネルギー”費用の「市場価格」を下回る水準まで売価を引き下げることは難しい


売り手の製品の「売価」(=買い手の調達品の「買価」)と「市場価格」との間に明確な「接点」が見つかりました。次回は、買価の「リスク」について細かく見ていくことにしましょう。