調達コストのリスク管理(6)調達コストのリスク管理の心得
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- 日刊工業新聞
- 大崎将行
調達コストのリスク管理の心得
リスク顕在化を前提に準備
【答えはシンプル】
前回まで計4回に分けて調達コストの「リスク」について説明してきた。今回からはその調達コストの「リスク管理」について説明していきたい。
そもそも、なぜ調達コストの「リスク管理」を行うのかと問われれば、その答えはシンプルに「調達コストのリスクが顕在化すると“困る”」から。では“困らないようにする”ためにはどうすれば良いか。そこには2通りのアプローチがある。一つは「調達コストのリスクを“顕在化させない”ようにする」こと、もう一つは「調達コストのリスクが顕在化しても困らないように“あらかじめ手を打つ”」ことである。
【来年度の価格】
弊社に対するお客さまの要望の中に「来年度の原材料価格を“当てて”欲しい」がある。その心は「当たる原材料価格の予想を元に来年度の予算を計画すれば、予算と実績との間に乖離(かいり)リスク)が生じず予算が死守できるから(すなわち調達コストのリスクが顕在化しないから)」である。これは上記前者のアプローチに該当する。
調達コストのリスクはサプライチェーン上の各工程における「需給バランスの変化」の積み上げに集約されると、以前本コラムで述べた。そう考えると、原材料価格を“当てて”調達コストのリスクを顕在化させないということは「将来(1―2年先)の各工程における需給バランスの変化を読み切る」ことそのものである。本当にそんなことが可能だろうか。
【“手を打つ”】
需給バランスに影響を与える要因は、グローバルな実体経済や金融政策、投資・投機マネーの動向、予期せぬ天災や法規制の変更など多岐にわたる。今日では貿易摩擦などの政治的要因も大きい。いつ/何が/起きて、その結果、各工程における需給バランスがどう変化するのかを“読み切る”ことは、どんなに人工知能(AI)が発達した現在でも容易ではない。明日、トランプ大統領がツイッターで何をつぶやくかすら“読み切れない”中、来年の米国大統領選挙の結果や各国中央銀行の利上げ/利下げ回数、台風や大地震の発生有無や、その被害地域やサプライチェーンへの影響の大きさを1年も前からピタリと“読み切って”需給バランスの変化を予測できるツールが開発されるとは想像し難い。
そう考えると「調達コストのリスクは常に顕在化するものだ」という前提のもと、「調達コストのリスクが顕在化しても困らないように“あらかじめ手を打つ”」ことが賢明かつ、我々が取り得る唯一のアプローチであることに気付く。ここに調達コストの「リスク管理」の本質が隠れている。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行