調達コストのリスク管理(47)調達コストのリスク管理の観点からの予算策定ポイント
- 日刊工業新聞
- 大崎将行
- 新聞掲載
- Web掲載
調達コストのリスク管理の観点からの予算策定ポイント
市場見通し参考に自分の手で
毎年この時期になると、調達担当の方々から当社宛てに、次年度予算策定のための市場動向に関する質問や市場見通し作成の依頼を受ける。当社としては、一通りの市場動向に関する情報を提供させて頂くが、各担当者の方々が、その市場動向や見通しの情報をどのように料理して次年度の予算を策定するかで、その企業の調達コストのリスク管理の巧拙に違いが表れる。調達コストのリスク管理の観点から、予算策定のポイントを幾つかご紹介しておこう。
一つ目は自社都合の予算を立てないことだ。よりかみくだいて言えば、手にした市場見通しのうち最も価格の低い見通しを採用するなどして、自社(経営サイド)の“願望”に沿った予算を無理やり策定することだけは絶対に避けることだ。調達単価は売り手のコストやマージンなど、幾つかの要素で構成されるが、その多くが原油価格(BRENTやDubai)や非鉄価格(LME)などの市場価格に連動する要素で占められる。
これら市場価格に連動する部分は、いくら売り手と交渉しようがさまざまな調達手法を駆使しようが、自助努力や売り手の協力で単価を引き下げられるものではない。実勢の市場価格から大幅に乖離(かいり)した予算を組んだものの、思う通りに市場価格が低下せず、結果として計画予算を修正せざるを得ない場合、関係部署との調整、ひいては株主への説明などの煩わしい手間を考えると、決して得策ではない。調達単価の構成要素に占める市場価格の比率が高い調達品ほど、努力目標的な予算はなじまない。
二つ目は、メインシナリオとリスクシナリオをしっかりと区別して予算を立てることだ。予算の前提となるベースはあくまでもメインシナリオで組む。そのメインシナリオとリスクシナリオの乖離分を調達コストのリスクとして、あらかじめ調達部門の予算措置として組み入れるのか、調達部門から外出しして全社のリスク管理の一部として取り扱っていくのかは、企業ごとのスタイルに沿って決めれば良い。メインシナリオとリスクシナリオを区別してはじめて、調達コストのリスクの大きさやその要因が明確となり、具体的なリスク対策を打つことができる。調達部門の担当者としては、収集した市場見通しを参考に自分の手で、ベースシナリオとリスクシナリオを整理・作成するところが出発点だ。当社がお客様に市場見通しを提供させて頂く際は、メインシナリオとリスクシナリオを区別し、リスクシナリオについては想定されるリスク要因も併せてお伝えしている。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行