調達コストのリスク管理(33)電力コスト、従量単価のリスク対策
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- 日刊工業新聞
- 大崎将行
電力コスト、従量単価のリスク対策
「一定量」事前の値決め有効
【10―20%変動】
電力コストの従量単価の振れ幅(変動率)については、卸市場連動契約でない一般的な燃料費調整制度契約(燃調契約)でも、契約電力会社によっては年間10%、高ければ20%になる。一般的に電力コストなどの光熱費は、管理会計上、売り上げ(販売数量)に連動しない固定費として扱われるケースも多く、硬直的な予算を組む場合が多い。また固定費とみなさないにしても、単価の変動によるコストの増減を想定しているケースはまれだ。従量単価が自社の自助努力とは全く関係ない燃料市場の動向によって10―20%も振れる現実の中、予算の達成を安定的に実現していこうと思えば、何らかのリスク対策を講じなければならない。
【許容度を意識】
電力は明確にフォーミュラ化された計画調達であり、その従量単価(含む燃調単価)部分は「調達コストのリスク管理」の作法に沿ってリスク管理が可能だ。リスク対策を打つ前段階で、リスク管理の目的とリスク許容度(予算)を明確化し、リスク対策前のリスクの大きさ(固有リスク)を把握する。そのリスク許容度の水準を意識しながらリスク対策を講じ、対策後のリスク(残余リスク)をリスク許容度内に収めていくといった流れとなる。その肝心の従量単価のリスク対策だが、何も難しい話ではなくシンプルに通常の値決めのタイミング(調達月)より事前に計画調達量の一定程度の値決めを済ませてしまうことにほかならない。
タイミングとしては前年度の予算が確定する前後でも良いし、電気を調達する数年前の段階(例えば中期経営計画を策定する段階)でも構わない。そこは企業ごとの調達方針やヘッジ方針に基づく。固定費的な扱いをする電力コストであるがゆえに、事前に一定量の従量単価を確定しておく意義は大きい。
【直接交渉】
事前の値決め方法では、大きく分けて2通りある。一つは電力会社と直接交渉して燃調単価を固定化してもらうこと。ただこれは交渉ごとなので、契約している電力会社によって対応の可否は異なる(最近では対応可能な電力会社も増えてきている)。
もう一つは、金融取引を用いてのリスクヘッジだ。この手法のメリットは電力会社との交渉を経ずに、自社の好きなタイミングで自社が求める期間のヘッジが自由にできることだ。唯一の問題は、燃調契約の内容が複雑であるがゆえに「何を」「どのように」使ってヘッジすれば、自分たちの狙ったリスク対策の効果が得られるのかが分かりにくい点だ。(隔週木曜日に掲載)
◇マーケット・リスク・アドバイザリー代表 大崎将行